カズオ・イシグロの「日の名残り」
"The Remains of the Day" を
Kindle版で再読した。
テキストに意味を
重層的に重ねるのがうまいなぁ、
と思う。
最後のほうになって読者は、
これまで読んできた文章が、
違う観点から読める、
ということに気づく。
第一義的には、執事スティーブンスの
何気ない旅行記である。
くどくどとして、鼻持ちならず、
退屈でさえある
しかし、それはまた、
ダーリントン卿という人物についての、
あるいは、大英帝国の最後の輝きについての
伝記的な物語であり、
そしてまた、スティーブンスと
ミス・ケントンンとの
隠された恋愛物語でもある。
そのほかにも、1日の主な仕事が終わって、
ぼんやりと夕日を、そして、
夕日の後に残る空の明るさを眺める時間、
そんな夕方が一番よい時間であるということ、
そしてまた、その後の夜に向かう残りの時間を、
いかに前向きに過ごすのか、
ということもまた、テーマになっている。
これはまた、人生の中で、
盛りを過ぎたあとの老いとどう向きあうのか、
残りの時間をどう過ごすのか、
ということでもあるだろう。
そこに何かの希望が示されているわけではない。
むしろ、ある種の諦め、が示されているのだが、
その諦めは微かな希望につながるもの
のように思える。
ダーリントン卿自体はフィクションだが、
その周辺の人々は実在であり、
山場の一つとなる英-独の非公式会談も、
実際に行われたらしい。
* * *
ハヤカワ文庫は Kindle 版が
半額に近いくらい安いので、
お得感がかなり高い。
素晴らしいと思う、というか、
つい次々と読んでしまう。
商売がうまい。
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