いろいろ忙しくて、読んでいなかったのを、
年末になってやっと読むことができた。
Amazon での評判は上々だったので、
かなり期待して読んだが、
その期待を上回る出来栄えだった。
いまさら言うことではないが、
浦沢直樹はベストな漫画家の一人だ。
この巻のメインはヘラクレスとプルートゥの戦いだが、
それ以外の部分でもストーリー全体がかなり進んで、
物語の全体像が見えてきた。
以下、激しくネタバレ。
まず、この物語の主題が「憎悪」である、
ということがはっきりとした。
これは、ずっと前から頻出キーワードだったので、
いまごろ何を言っているのか、なのだが、
個人的には、第5巻を読んでやっと腑に落ちた感じ。
人間と人間の間の憎悪、
ロボットと人間が生んだロボットの間の憎悪
そして、ロボットと人間の間の憎悪。
それはなんのために、どこから生まれ、
我々はそれをどう扱えばいいのか?
ロボットが人間に近づきすぎれば、
ロボット同士、あるいはロボットと人間との間に、
憎悪が生まれる。
エプシロンは言う。
「断ち切らなくてはならない!憎しみの連鎖を・・・・」
次に、プルートゥの正体もかなり明らかになった。
まず、天馬博士がダリウス14世のために作った完璧な人工知能
=ゴジ博士=アブラー博士=ティディ・ベア
なのだと思う。
計算が複雑すぎて目を覚まさなかった人工知能は、
目を覚まして動き出した。
何の制限も無い人工知能は、
あらゆるセンサーやロボットを乗っ取ることができる。
そうして、さまざまなものを見聞きして成長し、
自分だけが完璧な存在であることを知る。
ダリウス14世とともに、ロボットを使って、
さまざまな実験を始めたり、
ロボット兵団を作ったりした。
やがて、戦争が起こり、
その中で妻や子供を殺されたアブラー博士は
「憎悪」という感情を持つようになり、
復讐、あるいは、「力には力で」の論理で
世界をより良い=より強いものの集まりへと進化させる、
より良いものへと作り変えることを考えるようになる
(世界の清浄化)、
そうして強い憎悪を埋め込まれて作られたのが、
大量殺戮ロボットであるボラーやプルートゥ。
そして、無垢のアトムもまた、
仲間のロボットたちを破壊したものを破壊するために、
100万馬力を持つように自分を作り変える。
人間の理想を託されたロボットが憎悪を抱き、
力を拡大された憎悪がぶつかり合う。
人間の世界ではありふれた憎悪と暴力の悪循環が、
純粋無垢なはずのロボットの世界に移されることで、
改めて浮き彫りにされる。
人工知能であるティディ・ベアは言う。
「この世界は、勝者と敗者、賢者と愚者、
生者と死者でできているって言うけど・・・
すべて敗者で愚者で死者なんだよ。
この僕以外はね。」
ゲディヒトは問う。
「人間の憎悪は・・・・消えますか?」
憎しみあい、殺しあうことをやめない、
この世界の愚者である人間は、
滅びるべき種族なのか?
手塚治さんが「火の鳥」で取り組み???
宮崎駿さんが「ナウシカ」で取り組んだ問題に、
浦沢さんは、どんな解答を用意しているのだろう?
「戦ってはいけない」と言うエプシロンは、
愛を象徴するが、おそらく、
愛は憎悪には勝てないだろう。
最後に、ウランが重要な役割を果たすだろうことは
容易に想像がつくのだが・・・
天馬博士とアトムの食事のシーンは、
とても切なくて泣けた。
ぜひ、カラーで見てみたい。
全体が無事に^^; 完結したら、
きっちりとアニメ化されるといいなぁ・・・
P.S.
巻末の村上知彦さんの解説にもあるように、
作品中に、手塚さんが偏在している。
天馬博士と御茶ノ水博士が
手塚さんの白い面と黒い面を表している。
そして、ダリウス14世もまた。
それにしても、原作とPLUTOと、
二つの作品を並べて読むと、
短期間の間に漫画がいかに進歩した、がよくわかる。
たいしたものだ。
浦沢さんには「憎悪」の次は、ぜひ、
「富への欲望」、「資本の原理」を描いて欲しい。
しかし、表紙を見ると、PLUTO 05 なのだ。
ということは、二桁には行く、ということか・・・
まあ、そうだろうなぁ。
このところ、年に1冊になっているので、
完結するのはあと10年くらいかかるのかもしれない。
「ガラスの仮面」にならなければよいが・・・
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