日々の寝言~Daily Nonsense~

アフターダーク

村上春樹の「アフターダーク」
ふらっと立ち寄った本屋に、ものすごい数の文庫本が
平積みされていた。

すごいなー、力が入っているなー、
ハードカバーがあまり売れなかったのかな?
などと、余計な心配をしたりする。

で、つい買ってしまった。

電車の中で読み始めて、冒頭からいきなり、
「やられた」感を抱く。

「私たち」という名の神の視点での文章。

小説を読む愉しみって、覗きの愉しみだよね、
と言われているような。

ふつう、小説には、主人公の視点と、
神の視点とが混在している。
これに対して、現実にはありえない神の視点を廃して、
主人公の視点だけにこだわったのが、
手記、手紙、告白タイプの小説だ。
逆に、主人公の視点を廃して、
すべてを見通す神の視点をあからさまにしているのが今回のやり方で、
結果的に、そうでなければ描けないだろうものが、
しっかりと描かれていて、それが私を泣かせる。

こういう視点を使った理由は、アンダーグラウンド以来、
社会へのコミットメントを意識していることの表れ、なのか、
日常生活が監視され、覗かれている、という
情報社会の不安を象徴している、のか。
いずれにせよ、この時期に、こういう書き方をした、
というのはある意味さすがだ。

以下、ネタバレあり。

しかし、その趣向を除いて冷静に見れば、
内容は佳作というところだろうか。

主人公のマリが、闇の時間を潜り抜けて、
何か邪悪なものに吸い込まれそうになっている姉を
取り戻す(予兆を得る)という、
イザナギ・イザナミ神話などとも共通する
超古典的な物語構造。

個人的には、なぜかタルコフスキーの映画
「ストーカー」を思い出した。

その安定した構造の中で、
いつものような登場人物が、
いつものような会話をして、
最後にはいつものような癒しが与えられる。

かなり泣かせる細部もあるのだが、
その一方で、かなり恥ずかしい部分もある。

村上春樹ファン、あるいは、相田みつをファン、
癒し系小説ファン、にはお勧めだと思うが・・・
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