太古の世界 〜マニアックな古生物を求めて〜

恐竜は好きか? 恐竜以外の古生物もか?
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今見直す、恐竜ドキュメンタリー 『発見!恐竜の墓場』(3上)〜異端だらけの鳥モドキ

2020-05-12 19:52:00 | 今見直す、恐竜ドキュメンタリー
 前回は堆積経緯の説明を“軽く”書き連ねた(あくまで“軽く”である)。これで墓場ないし落とし穴の仕組みについてはご理解いただけたと判断したため、今回はそこに埋没していた恐竜を解説/考察していく。


今回取り上げるのは(前回でも触れた)リムサウルス《Limusaurus》だ。

(↑ウィキメディア・コモンズより、リムサウルスの生体復元図。)

作中での描写を含む)概要は(1)で説明済みであるため、ここ(3)ではリムサウルスの詳しい生態に焦点を当てよう。

※生態について深く突っ込んだ記事は今回が初めてだが、新企画概要に書いてあるとおり根拠は提示しておくため、読んだ後に各々で反芻してほしい。くれぐれも内容を鵜呑みにしないようにセンセイトノヤクソクダゾ!!


(↑落とし穴の論文より、産出した獣脚類の一覧。リムサウルスは下層の2体だが、シルエットの外見が正確ではない)

くどいようだが、リムサウルスは獣脚類において異端とされる存在だ。たしかにテリジノサウルス《Therizinosaurus》やオヴィラプトル《Oviraptor》など、ここ数年は雑食〜植物食獣脚類が認知されつつある。

(↑植物食獣脚類の論文より、様々な(菜食主義の)コエルロサウルス類の頭骨。A,現生鳥類 B,オルニトミムス C,シェンゾウサウルス D,インキシヴォサウルス E,カエナグナトゥス)

しかし彼らは九分九厘コエルロサウルス類に属していた。感覚的な話だが、こうしたコエルロサウルス類は鳥類と密接な繋がりが認められている。そのため…

「まぁ、鳥っぽい輩だったら自然っちゃ自然だよね?」

という謎理論により、それらの発見で波風が立つ事はなかった(オルニトミモサウルス類が古くから知られていた影響も少なくない)。

『だがしかし… リムサウルスはそんなに甘くなかった!!』

そう、(1)の分類欄で示したように、本種リムサウルスは初期の獣脚類グループであるケラトサウルス類に堂々の所属を果たしていた。もちろん大まかな分類は当初〜2020年現在まで変更されていない。
それまでのケラトサウルス類には、ディズニー映画「ダイナソー」に登場した暴れん坊カルノタウルス《Carnotaurus》やドラゴンを彷彿とさせる風貌のケラトサウルス《Ceratosaurus》といった強面の“肉食恐竜”によって構成されていた。――エラフロサウルスのように怪しい種はいたにせよ―― その中に全長2mを割ったモヤシっ子の植物食恐竜が追加されたのだからたまらない。

(↑リムサウルスのホロタイプ。見た目だけも“肉食恐竜”とは程遠い。)

(↑デルタドロメウスの最新復元。ツッコミは少し待ってもらおう。)

…このリムサウルスの発見により、デルタドロメウスやエラフロサウルスに付き纏っていた謎に薄い光が当てられるようになったのは、また別の話。


さて発見当初は鳥類と恐竜の繋がりを象徴する存在として一躍脚光を浴びたリムサウルスだったが、その栄光は長く続かなかった。というのも後の研究からリムサウルス自体は鳥類との関係が薄いことが判明したからである。
しかしリムサウルスは黙って時の流れに沈黙する恐竜ではなかった。彼らには古生物学会を再び震え上がらせる奥の手があったのだ。それは次の2体を見比べてもらえば自ずと分かるだろう。

(↑CNNニュースHPより成体(左)と幼体(右)の頭骨の比較。幼体の口先に注目)

幼体の口元に﹆のような粒が見えるはずだ。これはリムサウルスの歯だが、何度見ても成体には歯らしい物が見当たらない。錯覚だろか…?いや違う。

『なんとリムサウルスには成長に伴い歯が消失する特徴があったのだ!!』

「???」おそらく大半の読者は意味が分からないあまり困惑しているはずだ。そりゃそうだろう。皆様は歯がどれだけ便利な代物か熟知しているからだ。硬い煎餅をバリッと砕き、手が塞がった時には臨時の保持器として、そして発声の補助機としても、歯の用途は計り知れない。そんな歯を(誕生時は持ち合わせておきながら)わざわざ捨て去るなど愚の骨頂に思えるだろう。

筆者「そんな歯抜けの口で大丈夫か?」


リムサウルスは自信を持って答えるだろう。決して強がりではない。彼らには彼らなりの生存戦略があったのだ。そんな不可思議極まりない生存戦略を説明するには、まずは成体と幼体の食性から説明しなければならない。

〜幼体〜

(↑ウィキメディア・コモンズより、リムサウルス(幼体)の頭骨。下部の黒いスケールバーは差し渡し5cm)

(↑ウィキメディア・コモンズより、コンプソグナトゥスの頭骨スケッチ。)

幼体の頭骨にこれといった特徴はない。小型獣脚類の基本に則った先細りの口先、そして無数の鋭い歯が並んでいた。これはコンプソグナトゥスとの比較でも顕著だろう。コンプソグナトゥスは虫やトカゲなどの小動物を食べた事が判明しており、幼体も同じような高カロリーの餌を好んでいたと考えられている。

(↑日刊電工新聞HPより、小動物を食べるリムサウルス(幼体)のイラスト)

その頭部は箸やピンセットに近い働きをこなしていた。つまり逃げる小動物を素早く摘み取るのに適していたのだ。これは現代のトカゲや小鳥、そして他の小型獣脚類()にも共通している。

〜成体〜
問題は老人会が総ギックリ腰を起こしかねない顎をした成体だ。身体は2m近くに成長になるのに対し、頭部は殆ど成長していない。もはや8頭身とか言ってはいられない究極の小顔竜、それがリムサウルスの正体なのであるそれに比べりゃ前肢なんてクシャポイしても変わらない

(↑ナショナルジオグラフィックHPより、リムサウルス(成体)の頭骨。)

こうした特異的な頭部は類縁種でも滅多に発見例がない。それでは本当に植物食だったのか確かめようがないように思えるが、実はそうでもない。というのもリムサウルスの頭部は、まるで予想外の動物と酷似していたのだ。それはXmasにお世話となる“アイツ”。
世界全体で200億羽を超えるとされる世界最多の家畜。…ニワトリに他ならない。
ではニワトリとリムサウルス(成体)の頭部を筆者と共に比較してみよう。すると次のような点を見つけられるはずだ。

(↑手持ちのニワトリの頭骨。問題があれば削除/差し替えを行います。)

·『歯が1本も生えていない』
·『先端以外は一定の厚みを保っている』
·『顎が緩いアーチ描いている』
·『顎関節の付け根が低い』
※眼窩の大きさも似ているが、食性と密接ではないため省略する。

目敏い読者は「!?」と思ったはずだ。本記事冒頭で見せた画像の中にも瓜二つの頭部をした獣脚類がいた。それでは一旦ブログ上方へ戻って「植物食獣脚類の画像」を見直してきてもらいたい。そうすれば“B,オルニトミムス”と示された頭骨を見られる。念ため、ここで再びオルニトミムスの頭骨画像を貼っておこう。

(↑ウィキメディア・コモンズより、オルニトミムスの頭骨。)

すると先程挙げ連ねた条件にピタリと当てはまる事が分かるはずだ。そして冒頭のとおりオルニトミムス(類)は以前から概ね植物食の恐竜だと考えられてきた。

(↑プレヒストリックパークより、木立で食事中のオルニトミムス。)

加えてリムサウルスの化石に含まれた同位体の研究からも、成体は主に植物を食べていた事が示されている。

(↑リムサウルスの論文(成長)より、同位体の比較研究。赤が肉食、青が植物食となっている。)

こうした情報からリムサウルスが植物食だった事はほぼ確実と言って良いだろうこの説は敗北を知りたいらしい


…リムサウルスは概ね植物食だった。だが植物を主食にするのは構わないが植物を自らの血肉へと還元できたかどうかは別問題である。というのも植物という食物は非常に消化しにくいのだ。枝葉なんて序の口も序の口。それを乗り越えた先に立ち塞がるのは、大量の繊維質や細胞壁である。それらは中身の栄養分を強固に守ろうとし、また消化作用を頑なに受け付けようとしない。そのせいもあって古くから植物食動物は(多少の差はあれど)皆デブであった。これは現代の牛や馬を観察してもらえると更に分かりやすい。こうしたビール腹の中には、膨大な消化器官(複数の胃や全長の10数倍の腸)が収められており、とにかく時間をかける事で地道に植物を消化している。

(↑「istock」より、正面を向く乳牛。)

ところが、リムサウルスは胴体が横長気味とはいえ、デブとは程遠い体型だった。この問題は小型獣脚類のトロオドン科でも抱えていたと容易に想像できる。これについては別記事で解説済みなので今回は割愛する ――恥骨が後方へ変形しているのは興味深いが。
しかしリムサウルスが同じ戦略を採ろうとしても、それに必要不可欠な物が殆ど手に入らなかった。…無い物ねだりをしても仕方あるまi...a"a"a"a"a"(発狂)


いっそ清々しい程の圧倒的「無」。これじゃ「みんな餓死するしかないじゃ


Question①
こんな三重苦を抱えた植物食動物など本当に存在しえたのだろうか?

①Answer
実は可能だったのである。

コールド負け寸前で一発逆転の光明を差し込んだのは、彼らの体内に隠されていた秘密兵器であった。その名も胃石砂嚢(砂肝)。概要はリンク先のWikiを読んでもらえば分かるだろうが、言ってしまえば「石臼」と「撹拌機」による伝統的なコンボ技だ。

(↑リムサウルスの論文(手指)より、ホロタイプ標本の化石と図。足先の密集した粒々が溢れた胃石である。スケールバーは2cm)

まず嘴で千切り取られた植物片が食道を通って胃(砂嚢)に運ばれてくる。そこにで待っているのが胃石だ。もちろん胃石は自力で動いて植物を擦り潰すのではなく、筋肉質な砂嚢自体が蠕動運動に近い動きする過程で、中身は何かれ構わず手当たりに揉み混ぜられる。

(↑「ウォーキングwithモンスター」より、胃石と植物が詰まった胃袋の中身。)

すると首尾よく胃石が植物片を押し潰してくれる。同時に胃液(もしかすると協力的なバクテリア)が植物の傷から中へ侵入して本格的な消化を開始するのだ。

そして実はニワトリを含む鳥類やオルニトミムス科も同様の消化戦略を採っていたと考えられている。前者ならホームセンターに行くと鉱物飼料が売っているから、怪しいと思うなら読者自らで確かめてみると良いstayhome?。そしてオルニトミムス科についても、多くの種(基盤的な種も、派生的な種も)が胃石を備えていた事は周知の事実。

(↑ナショナルジオグラフィックHPより、胃石を持つ獣脚類(シノルニトミムス)。)

それにしたってリムサウルスの体格で植物食を貫くのは容易ならざる生き方だったはずだ。彼らは不足しがちなエネルギーを補うべく、四六時中チマチマと餌を摘んでいたのだろう ――そうした生き方もニワトリと似ている。
ジュラ紀のジュンガル盆地では、そうした風景が日常茶飯事だったはずだ。


ならリムサウルスが啄んでいたのは、果たしてどんな植物なのだろうか?それは(3下)にて解説/考察する。乞うご期待!



次は数日以内に投稿する…(ヨテイ)


※5/15追記
獣脚類かどうかを問わず、胃石は数多くの古生物〜現生動物で報告されている。中には消化とは全く関係のない目的で石を飲み込む種類や、採食時の誤飲や二次嚥下といったケースも存在する。そのため今回は『リムサウルス=植物食』の根拠を頭部の形態などへ求め、胃石については、ニワトリやオルニトミムスでの使い方を参考にしつつ、『胃石=食物破砕の道具』としての位置づけに留めた。


《参考文献》

・落とし穴についての論文(有料)
https://pubs.geoscienceworld.org/sepm/palaios/article-abstract/25/2/112/146116
・リムサウルスについての論文(手指)
http://doc.rero.ch/record/209594/files/PAL_E4066.pdf
・リムサウルスについての論文(成長)
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(16)31269-6?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0960982216312696%3Fshowall%3Dtrue
・歯の退化についての論文
https://www.researchgate.net/profile/Shuo_Wang35/publication/320025128_Heterochronic_truncation_of_odontogenesis_in_theropod_dinosaurs_provides_insight_into_the_macroevolution_of_avian_beaks/links/59c999e345851556e97a718a/Heterochronic-truncation-of-odontogenesis-in-theropod-dinosaurs-provides-insight-into-the-macroevolution-of-avian-beaks.pdf
・ジュンガル盆地についての報告
http://english.ivpp.cas.cn/rh/as/201012/P020101207393794242194.pdf
・植物食性獣脚類についての論文
https://www.pnas.org/content/108/1/232.short
・消化方法の比較についての論文
https://www.zora.uzh.ch/id/eprint/49678/5/rev_fritz_10031.pdf
・植生についての論文
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12549-010-0036-y
・ジュンガル盆地の環境についての論文
http://en.cnki.com.cn/Article_en/CJFDTotal-SYYT200802013.htm
・デルタドロメウスの記載論文
https://eurekamag.com/pdf/009/009226569.pdf
・エラフロサウルスについての論文
https://academic.oup.com/zoolinnean/article-abstract/178/3/546/2667468
・マシアカサウルスについての論文
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/02724634.2013.743898
・ノアサウルス科の系統についての論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4943716
石樹溝層に共存した獣脚類についての論文
https://www.researchgate.net/profile/Jonah_Choiniere/publication/254314299_Theropod_Teeth_from_the_Middle-Upper_Jurassic_Shishugou_Formation_of_Northwest_Xinjiang_China/links/567004d908ae4d9a4259890e/Theropod-Teeth-from-the-Middle-Upper-Jurassic-Shishugou-Formation-of-Northwest-Xinjiang-China.pdf
・ストルティオミムスについての論文
http://digitallibrary.amnh.org/bitstream/handle/2246/1334/v2/dspace/ingest/pdfSource/bul/B035a43.pdf?sequence=1&isAllowed=y
・疑惑の恐竜についての記事
https://petitcarnetpaleo.blogspot.com/2017/08/un-squelette-complet-de-mimo.html?m=1
・ナショナルジオグラフィックHP(写真)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/0808/feature02/gallery/10.shtml
・ナショナルジオグラフィックHP(解説)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2178/?ST=m_news
・ナショナルジオグラフィックHP(特集)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/0907/feature01/gallery/03.shtml
・ナショジオHP(チレサウルス)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/043000081/?ST=m_news
・AFPニュースの記事(リムサウルス)
https://www.afpbb.com/articles/-/3112278?cx_amp=all&act=all
・CNNニュースの記事(リムサウルス)
https://www.cnn.co.jp/fringe/35094338.html
・中国の落とし穴のニュース記事
http://www.yidianzixun.com/article/0Hl0aUdO/amp
・ホルツ博士の最新恐竜事典
・肉食恐竜事典
・恐竜の教科書
・恐竜探偵足跡を追う
・恐竜博2016
・恐竜博2011
・現生哺乳類/鳥類の図鑑

《協力》

「古世界の住人」川崎悟司(著)
https://ameblo.jp/oldworld/entry-10304682310.html

今見直す、恐竜ドキュメンタリー 『発見!恐竜の墓場』(4上)〜冠を頂いた龍

2020-05-11 00:35:29 | 今見直す、恐竜ドキュメンタリー
 リムサウルス?はて知らない子ですね
今回は私がこの世で最も愛する恐竜、グアンロン・ウカイイ《Guanlong wucaii》を解説しようか(熱量3割増し)。


この恐竜は件の落とし穴の最上層と準最上層から見つかった成体(V14531→ホロタイプ)と亜成体(V14532→パラタイプ)の2体のみに基づいて記載された。

(↑落とし穴の論文より、上の2体がグアンロン)

「全然見つかってないじゃんw」

と言われてしまいそうだが、ところがどっこい。この2体は生体(最上層より産出)/亜成体(準最上層より産出)ともに素晴らしい完全度の持ち主なのだ。ではご覧いだだこうか、その全貌を!!

(↑落とし穴の論文より、グアンロンの産状化石の写真と図示。尻尾を除く大半が揃っている)


(↑成体(E)と亜成体(G)のグアンロンによる頭骨の比較。スケールバーは5cm)

通常ならば骨格の脆い小型恐竜は化石として残りにくく、仮に残っていたとしても骨が粉砕されているパターンも少なくない。ところがグアンロンは、その特異的な堆積経緯と堆積環境によって不可能を可能にしていた。これに匹敵する小型獣脚類は数えるほどしかいない。頭骨や四脚はもちろんのこと、外れてしまいがちな指骨や肋骨、亜成体に至っては(外傷こそあれど)頸椎でさえ関節したまま化石化していたのである。

(↑ナショナルジオグラフィックHPより、頭骨を取り外された亜成体の骨格。)

これだけの完全度を備えた化石は、そうそう見られるものではない。もちろんグアンロンでも尻尾の中腹より先端にかけては2体とも失われているため、どこかのハドロサウルス類のように全身100%が見つかっているわけではないが、それでも古脊椎動物の化石の美しさとしては中々上位に食い込む標本である(筆者の独断と偏見に基づく)。
また見つかったのが成体と亜成体ということもあって、成長に伴う身体的特徴の変化(鶏冠の拡張や四肢の比率)なども明確に記録されている。これも化石動物としてはこの上なく貴重と言えよう。


かくして骨学的に恵まれているグアンロンは、様々な観点から研究の目が向けられている。
その中でも手っ取り早く『グアンロンが何たるか』を理解するには、グアンロンの生態、とりわけ食性について探っていくのが手っ取り早い(かつ面白い)分類とか骨学とかは筆者の興味が薄いとか、面倒くさいとか、そういう訳では断じてない

忘れがちだが、「見直す」シリーズでは、元ネタのDVDとブログ内容を照らし合わせていくことを指針の一つにしている。ここでDVDにおけるグアンロンの活躍を軽くおさらいしておこう。

(↑DVD冒頭より、小型恐竜を襲う亜成体のグアンロン)

(↑DVD本編より、インロンの首を捻った成体のグアンロン)

(↑DVD本編より、亜成体のグアンロンを殺した成体のグアンロン)

仁義なき戦い 広島死闘篇も裸足で逃げ出すレベルの残虐さだろう。
これには初見の時の筆者も開いた口が塞がらなかった。リアルな動きをしているし、動きにキレもあって格好良いことには格好良いのだが、どこか必要以上にサイコパスな印象を受けざるをえない。
さて、ここで一つ問いを投げかけよう。

《問い》グアンロンは本当に凶暴な捕食者だったのだろうか?

この問いに答えを導き出すのは困難(古生物の生態は推測止まりにならざるをえない)である事を先に述べておくが、これは言い訳でもなんでもない(汗)。

「人っ子一人いない過去の真相など分かるはずもないのだ!みんな迷うしかないじゃない!!

…しかし(まぁまぁ)妥当に考える事はできるはずである。それは生物の身体的特徴から現生生物との共通点を見出したり、他の古生物と比較したりする事で確度を(多少なりとも)上げていくものだ。とりわけ最も重要かつ基本的な情報が、グアンロンの骨格から推測されるの形態や性能についてである。それではグアンロンの生態に関する詳しい解説/考察の前段階として、まずは彼らの身体能力(総合的な“戦闘力”)について解説する事にしよう。

武器①…頭部

(↑成体(E)と亜成体(G)の頭骨。全体が緩いアーチを描いている事と、鼻先に厚みがあることに注目。スケールバーは5cm)

グアンロンの頭部で万人が真っ先に目を引かれるのは、その名の由来にもなった一枚の鶏冠だろう(実際綺麗だ)。
しかし鶏冠の厚みは数mmのため、外見に似合わずブレードのような役目は果たさなかった。…ガイガンじゃあるまいし。

(↑DVD本編より、前を向くグアンロン。ここでは鶏冠に角質を上乗せしている)

実際に武器として機能するのは、緩いアーチを描いた全長35cmの顎と、そこに並んだ鋭い歯列だったと考えられる。

(↑ナショナルジオグラフィックHPより、グアンロンの口先。短い歯が揃った長さで続いているのが特徴)

歯列はドロマエオサウルス科と酷似しており、『サーベルのような歯で獲物を軽い力で噛み裂き、ジワジワと出血死を狙う。』という典型的な獣脚類の狩りではなく、『ダガーナイフのような歯で獲物を突き刺し、咥えて離さないでおく。』ような狩りを行っていた事を示している(長い顎も“当たり判定”の拡大に一役買っていたらしい)。
それを後押しする話が顎の形状による次の推測から立てられるのだ。
写真を見れば分かるように、グアンロンの顎は緩い上向きのアーチを描いている。これは珍しい特徴で、他の獣脚類に見られない。強いて挙げるならばノアサウルス類の顎に似ているが、それとは曲がり具合と歯の様子が異なる。

「この特徴的なアーチは何故あるのか?」

この問いは筆者を散々苦しめてくれた。いくら考えても答えが見当たらず悶々とした日々を送っていた頃、偶然手に取った2冊の書籍に答えはあった。

(↑手持ちのワタリガラスの写真。問題があれば差し替えます。)

その「カラスの教科書」(および「〃補習授業」)という本には、次のような推測が載せられていたのだ。

「カラスの特徴的な嘴には、効率的に力を加え、餌を噛み締めておく効果があるのではないだろうか?(要約)」

なるほど…。と思った瞬間だった。
要はペンチに似た働きをするのだ。ワタリガラスは肉を積極的に食べるとはいえ、その肉は生きたままの動物よりも、オオカミやワシが食べ残したものが多い。そのため表皮を「切り裂く」必要がなく、代わりに肉を「噛み締めて」を取り落とさない事や、ライバルとの奪い合いに負けない事が肝要なのだろう。
そしてグアンロンにも同じことが言える。後述するがグアンロンは、どちらかといえば噛み裂かずとも仕留められる獲物を狙う捕食者だと考えられている。この際に重要となるのが、『如何にして弱い咬合力で獲物を逃さないでおくか?」』である(小型という成約上、咬合力の強化には限界が見えやすい)。これに対する解は大きく分けて2つ。一つはコエロフィシス《Coelophysis》のように口先にフックを発達させ、そこに獲物を引っ掛けて留めておく方法である。

(↑コエロフィシスの頭骨模型。口先の括れに注目)

これは現代の魚類(例ハモ)が択った戦略で、滑りやすい獲物や小さな獲物を確実に捕える上で非常に便利だ。
しかし欠点が一つ存在してしまう。それは一目瞭然だろう。鼻先が貧弱になってしまうのだ。これはグアンロンにとって由々しき問題である。というのも鶏冠を持つグアンロンは、それを支えるために頭骨の華奢化には限界がある(事実後のシオングアンロンは鶏冠を退化させ、鼻骨の厚みを増している)と推測できる。鶏冠と括れを両立させた恐竜もいるが、それは顎自体が大きい。かくなる上は採れる選択肢は一つしかないだろう。
それが『小細工による咬合力の底上げ』だった。幸い鶏冠のおかげか、はたまた(小型にしては)頑丈な体格のおかげか、頭骨は細長くとも強度のある箱型をしていた。それは口先で特に顕著である。つまり藻掻く獲物を力任せに抑え込むポテンシャルはあったらしい(この辺りは流石ティラノサウルスの一族だなぁ、と感じさせてくれる)。

(↑プロケラトサウルスの頭骨。顎が緩いアーチを描いている事と、グアンロンよりも口先の歯が小さいことに注目)

こうした“箱型アーチ”は他のプロケラトサウルス科にも見られるため、おそらく科全体の共有派生形質だと考えられる。

多少話が逸れた(←悪い癖)が、グアンロンは獣脚類としては少々異端な存在なので仕方がない(←開き直り)。ともかくグアンロンは獲物を噛み裂くのではなく、噛み締める戦略を採っていた可能性が高い。この辺は読者の方々にも意見をいただきたいところだ(←コメ稼ぎ乙)。

ちなみにプロケラトサウルスとグアンロンとでは、前上顎骨歯(前歯)の大きさが明確に異なっている(グアンロンのほうが大きい)。現在知られているプロケラトサウルスは亜成体とされているため、本当のところは分からないのが正直なところだが、これは両者の生きた環境や狙う獲物の違いを感じさせてくれる。
どちらにせよグアンロンは横に長い長方形をした頭骨と短刀を思わせる歯、そしてカラスのような独特の顎を武器として振るっていた。

武器②…前肢


(↑リムサウルスの論文より、リムサウルス(上段)、ディロフォサウルス(左)、グアンロン(中)、デイノニクス(右)の前手)

こちらは長々と説明する必要もあるまい。見ての通りグアンロンの前手はデイノニクスの前手と酷似しており、3本の長い指の先にはタカ顔負けの鉤爪が備わっている(手全体の長さは頭部と同等)。ただマニラプトル形類のような手根骨(手首の骨)を持ち合わていなかった。そのため手首の可動域は限定される。それでも両手で拍手に近い動かし方をすることで、至近距離の獲物を掴み取ったり、しばき倒していたらしい。――もっとも前肢より先に頭部が獲物へ到達するため、前肢は補助的な役割が強かっただろう(もしくは武士にとっての脇差にあたる予備の武器だろうか?)。

武器③…後ろ脚
後ろ脚は筋肉質でいて非常に細長かった。子孫筋のティラノサウルスに見られるアークトメタターサル(衝撃吸収構造)こそ未発達だが、膝上と膝下(特に脛)を比較すると膝下が圧倒的に長い。こうした脚は歩幅を広く取れたため、必然的にグアンロンは電光石火の如き俊足の持ち主だったと考えられる。――かねてより小型獣脚類は多くが俊足(時速40km以上)だと考えられてきた。―― さらにグアンロンが身軽(体重100kg)な事も考慮すれば、彼らも疾風を思わせる動きで当時のジュンガル盆地を駆け巡り、あちこちで稲妻のような騒ぎを起こしていた事は確実だろう。
当然そんな後ろ脚から繰り出された蹴りを喰らえば、悶絶どころでは済むまい。現在のヒクイドリがキックだけで成人男性を始末した事例を考慮すれば、グアンロンもライバルの小型獣脚類やワニ類と会敵した際に自身の安全(頭部は最大の武器でもあり、同時に最大の弱点でもある)を考えて遠距離から狙撃よろしく蹴りで応戦した可能性もあるだろう ――邪魔する奴は蹴り1発でダウンさ

武器④…体格
グアンロンは体高が73cm(肉付けすると75cm?)と推定されている。これは殆どの鳥類よりも高く、一部の肉食性鳥類が頭上の理を得た攻撃 ――具体的には獲物を頭上に振り上げてから猛スピードで地面へ叩きつける。衝撃×質量=破壊力の法則に則って獲物の五臓六腑は破裂の憂き目に遭う―― を行う事から、グアンロンも同様の搦め手を繰り出しかもしれない。

武器⑤…感覚器
現在までにグアンロンの脳や感覚を調べた研究はない。それでもディロングティムールレンギアといった基盤的なティラノサウルス上科の研究から、おおよその検討を付けられる。それらによると彼らは(恐竜の中だと)大きめの大脳を持ち、三半規管や視葉といった感覚器を司る部位もそれなりに発達していたようだ――安易な知能の推測は個人的に躊躇われるが、おそらくオオトカゲ以上の優れた認識能力や思考能力はあっただろう――。ただ嗅覚のみは例外だったらしく、嗅球の比較から嗅覚は後のティラノサウルス科より未発達だった事が分かっている。


〜まとめ〜

(ウィキメディア・コモンズより、グアンロン(成体)の頭部と前肢。)

たしかにグアンロンは恐竜の中では小型で、体重も軽いと推測されているが、その実態は正真正銘の殺し屋だった。しかもそれが乱舞の如き華麗な身のこなしで獲物へ躍りかかれば。――もし現代でグアンロンと鉢合わせになってしまったら…。潔くハイクを詠んでカイシャクを待とう。彼らは到底ヒトがステゴロで戦って敵う相手ではない。


と・は・い・え…。
グアンロンが普段狙っていたのは十中八九人間よりもずっと小さな獲物 ――小型のトカゲやカメや子ワニ、単弓類(哺乳類とその親戚)といった小動物(ネズミ程度では腹が膨れないため、おそらくウサギ大?)―― だったと考えられている。DVD内でも軽く触れられたユアンノテリウムYuanotherium》などは格好の標的だったはずだ。

(↑DVD本編より、ユアンノテリウムと思しき獣弓類。本編では“哺乳類に似た小型の爬虫類”と呼称されていた。)


――トリティロドン類が獣脚類に捕食されていた証拠も見つかっている。洋書の『dinosaurs, the encyclopedia, supplement 1. 』によれば、南極から発掘されたクリオロフォサウルスからの報告で、腹部にトリティロドン類の残骸が残されていたらしい。―― さらにグアンロンの生息地に広大な湿地があった事や、前歯の断面がD字で丸みを帯びている事、そして頭部が細長い事から、ひょっとしたら水中の魚や両生類なども積極的に標的としていたかもしれない(小型獣脚類が魚を食べた痕跡も既に報告されて久しい)。
万が一気が違ったとしても、大型恐竜を相手取って真っ向から喧嘩を売るような真似はしなかったはずだ。

(↑NHKスペシャルより、無謀な突撃を敢行するグアンロン。このシーンの製作者を小一時間ほど問い詰めてやりたい)

それもそのはず、グアンロンにはティラノサウルスやドロマエオサウルス科のような馬鹿デカい顎やシックルクローは備わっていない。仮に身体が小さかろうと、武器さえ強力であれば往々にしてハンターは体重の5〜10倍の大物さえ狙う(好例はヴェロキラプトルや“サーベルタイガー”)が、グアンロンにそれは期待できそうもない。――いくら日本刀が優れていようと、戦車には勝てっこない。

だ が 侮 る な か れ。
他の獣脚類との比較を踏まえると、グアンロンにとっての“小動物”は、ウサギ大に収まらなかった可能性が高いと思われるのだ!!


というわけで2万文字の大台が見え始めたのを合図として、(4上)グアンロン解説回は一区切りつけるとして残りは(4下)に引き継ごうと思う。それでは即刻(4下)にて会おう!


(4下)に続くから早う読め!


《参考文献》

・落とし穴の論文(有料)
https://pubs.geoscienceworld.org/sepm/palaios/article-abstract/25/2/112/146116
・グアンロンの記載論文
https://www.nature.com/articles/nature04511
・ジュラ紀のティラノサウルス類についての論文
http://31.186.81.235:8080/api/files/view/66188.pdf
・シオングアンロンの記載論文
https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rspb.2009.0249
・獣脚類の手首についての論文
https://royalsocietypublishing.org/doi/abs/10.1098/rspb.2009.2281
・獣脚類の前肢の用途についての論文
https://link.springer.com/article/10.1007/BF03043773
・小型獣脚類の前肢についての論文
http://digitallibrary.amnh.org/bitstream/handle/2246/1334/v2/dspace/ingest/pdfSource/bul/B035a43.pdf?sequence=1&isAllowed=y
・リムサウルスの論文
http://doc.rero.ch/record/209594/files/PAL_E4066.pdf
・獣脚類の走行性能についての論文
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0223698
・恐竜全体の走行能力についての論文
https://www.researchgate.net/publication/6127793_Estimating_maximum_running_speeds_using_evolutionary_robotics
・ヒクイドリによる死亡事故
https://www.huffingtonpost.jp/entry/cassowary-florida_jp_5cb3dadce4b082aab0877fb2
・ティラノサウルス上科の脳の論文
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/08912963.2018.1518442?journalCode=ghbi20
・ティムールレンギアこCNNニュース
https://www.cnn.co.jp/fringe/35079619.html
・魚食についての論文
https://www.academia.edu/29170615/Scipionyx_samniticus_Theropoda_Compsognathidae_from_the_Lower_Cretaceous_of_Italy._Osteology_ontogenetic_assessment_phylogeny_soft_tissue_anatomy_taphonomy_and_palaeobiology
・ナショナルジオグラフィックHP(解説)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2178/?ST=m_news
・ナショナルジオグラフィックHP(写真)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/0808/feature02/gallery/10.shtml
・中国の落とし穴を報じたニュース記事
http://www.yidianzixun.com/article/0Hl0aUdO/amp
ホルツ博士の最新恐竜事典
・愛しのブロントサウルス
・恐竜探偵 足跡を追う
・肉食恐竜事典
・恐竜の世界史
・カラスの教科書
・カラスの補習授業

《元ネタ》
・発見!恐竜の墓場

・筆者の気力(!?)



新企画(「今見直す…」シリーズ)概要 ※・堅っ苦しい・難解・意味不明の三重苦が満載のため、企画の趣旨や筆者の主張を知りたい人だけが読みましょう

2020-04-27 21:05:37 | 今見直す、恐竜ドキュメンタリー

 昨今では、国内外のテレビ局が数年に一本のぺースで恐竜や古生物関連の特番を作っている。今年度(2019年度)においてもNHKが威信を賭けたスペシャル番組『恐竜超世界』(全2回)を放送し、タイアップ企画である恐竜博2019(国立科学博物館の主催)との相乗効果によって、短期的にせよ恐竜ブームが巻き起こった。
これは前々から予告されていた日本(ひいては世界的にも)最高レベルの完全度を誇る”ムカワリュウ”、現カムイサウルスの正式記載も要因の1つだが、やはり大衆に訴えかける上では、ド迫力の映像と分かりやすく面白みのある恐竜特番の存在は無視できない。これらの特番についてはネット上において、いわゆる“古生物クラスタ”(筆者もその端くれである)による活発な批評が日夜を問わず展開されている。

「ティラノサウルスが親子で狩りをしたのは云々…」や「全身モフモフの羽毛は不合理でしょう。だって…」

とマニアックな議論が行われるのは非常に面白く、また活発な意見交換の切っ掛けにもなっている側面があるのは当然として、一方では、

「…マニアック過ぎて付いていけない(汗)」

と新米クラスタが嘆く声も少なからず聞こえている。さらに一部の心無いクラスタによる、

「TVを鵜呑みにするな!」

といった『科学的な正しさ』を免罪符にした厳しい意見によって、傷ついてしまう恐竜愛好家(この場合では学問としての恐竜ではなく、恐竜という複合的なジャンルを好む者)がいるのも少なからぬ事実なのだ。
こうした『新入り/ニワカ叩き』は界隈の先細り化へと繋がり、また界隈の民度を下げてしまうため、本来は忌むべき風習である。
だが同時に、『目に付きやすいから』という短絡的な理由で、TVの情報を盲目的に信用するのも決して良くはない。これらのメディアリテラシーは恐竜や古生物に限らず、あらゆる分野においても同じことが言える。要は

『情報は飲んでも、飲まれるな。』

ということだ。
…社会科の長ったらしい講義はここまでにして、そろそろ本題に戻ろう。

ここまで申し上げてから改めて述べるのもアレな話だが、私は根っからの古生物クラスタだ。それも生後3歳からの筋金入り。これまでは(そして間違いなくこれからも)多数の方々に支えられながら、ひたすらに古生物学という大海へ前進を続けていたが、そろそろ支えられる側でだけはなく、支える側にもならねばなるまい。
そこで新たに始めた企画が見出しにも掲げた『今見直す、恐竜ドキュメンタリー』である。数多の制作スタッフの血と汗と涙の結晶たる大型特番という名の御馳走を、たかだか一介の高校生が情け容赦なく一口大に切り分け、論文や書籍による検証という名の毒味や味付けを行うことで、あたかも私が新作料理を提供しているように思わせる…。こんな極悪非道な真似をする理由はただ一つ。それは『初学者への吐き戻し』である。そのままでは危険な要素を含むTV番組を私が持てる知識を遺憾なく発揮して選別し、面白みを残したまま学問としての安全性を高めて初学者へと送り届ける。
程度の差はあれ歴代の恐竜番組は、新生クラスタの育成を促してきた。私も2006年のNHK特番『恐竜vsほ乳類 1億5千万年の戦い』やイギリスITVの科学SF『プレヒストリックパーク』、そして同社の恐竜SF『プライミーバル』などによって“古生物沼"に嵌り込んだクチなのだ。これも何かの縁。利用するだけ骨の髄まで利用してやろうではないか。それに隅々まで楽しんだほうが、制作スタッフも浮かばれてくれるはずである(…きっと。まぁおそらく)


ということで今後は本ブログにおいて筆者なりの活動を展開していく事とするが、その上でも重要な注意点(筆者のスタンスや主張)がいくつか存在するため、それを書き記して結びとし、後は煮るなり焼くなり好きにしてくれ!!


〜其の壱〜
『Wikipediaと仲良く』
筆者は趣味と勉強を兼ねてWikipediaへの加筆(英語版の翻訳や内容の追加)をしている。当然Wikipediaの加筆をする中で調べたことはブログ記事にするし、その逆もまた然り。言ってしまえば内容の重複が起こり得るのだ。「それなら最初っからWikipediaに専念しろ!」と言われそうだが、残念なことにWikipediaには非常に限定的な情報(書籍or査読付きの論文)しか載せることができない(往々にしてギリギリのラインを攻めがちな筆者だが)。研究者へのインタビューはもとより筆者の推測など論外である。まぁ言ってしまえば内容の自由度が格段に異なるので、非常は本ブログを立ち上げている。ということでWikipediaとは今後とも仲良くしていきたい。


〜其の弐〜
『語彙力たったの5』
2020年4月現在におけるの筆者の年齢は18歳になったばかり。もちろん高校生である。あいにく偏差値65を超えるような明晰な頭脳を持ち合わせていないため、筆者が文献を活用しようとすれば必ず誤訳なり解釈違いが発生するだろう。もちろん極力ミスは減らすつもりだが、それでも限界はある。よって賢明なる読者諸君には、このブログを「古生物が好きで好きでたまらない一般学生が趣味で書き上げたもの」だということを再確認しておきたい。間違っても本ブログを鵜呑みにはしないでほしいし、万が一されても責任は取れない(取りようがない)。


〜其の参〜
『考えろ、答えはない』
自力で検証なり計算ができる他の学問と異なり、古生物学ではごく限られた論文や書籍を元にしてブログを書くしかない。ある種の生物を取り上げるのにマトモな論文が1つか2つなんて事はザラだろう。さらに“古生物”学とだけあって生体観察はタイムマシンでも持ってこないと不可能であるため、不足した情報は関連事項や各々の推測に頼らざるをえないのだ。しかしこれは人によっては「お前の勝手な推測なんて知ーらね」と考える方も大勢いるだろう。それは古生物“学”としては正しいし、本来ならば筆者もそうすべきだろう。古生物関係の有名なブログ(「GET AWAY TRIKE」、「肉食の系譜」、「Let's Study With Dinosaurs!」)では、基本的に分類や研究史に終始し、不確定要素の強い生態などの内容は薄味となっている(例外的なのは「古世界の住人」だが、これは上記3つとテイストからして異なる)。

だ が し か し

…それでは筆者がつまらない。そもそも古生物学は過去を探求する学問だ。突き詰めていけば事の真偽を確かめるのなど不可能に近く、だから多少なりとも推測の余地が生まれる。そこ悪用活用しようというのが本ブログなのだ。暴論であることは百も承知。しかし推測するにしても根拠では心細くて仕方ない。そこで筆者は、自分なりの推測にも根拠は必ず提示していくつもりだ。――「△△という嫌気があるため、○○にもそれが当て嵌まるだろう」この場合では○○以降が推測となる。―― その際に出した根拠については読者それぞれで反芻してもらいたい(根拠は文字通りピンキリなので、人によっては信用に値しないものもあるだろう)。

改めて繰り返すようだが、絶対に筆者の主張を丸呑みしないでほしい。きちんと中身を見分け、毒味をしてから、お菓子のような軽さで楽しんでいただけたら幸いの極みである。


〜其の五〜
『どうせなら楽しめ』
説明不要







今見直す、恐竜ドキュメンタリー 『プラネットダイナソー』〜(2下)博学才穎のロードランナー

2020-03-01 15:41:23 | 今見直す、恐竜ドキュメンタリー
  ※簡潔さのため挨拶は省略

 お待たせしました(オソイゾ)
それでは筆者が推す仮説について解説/考察しましょう。
筆者が考えるブラディクネメの正体は…


アルヴァレスサウルス科です(ここで歓声よ、ほら拍手拍手!!)



「…誰それ?」

となった方もご安心ください。
もう少し分かりやすく伝えるのであれば、『モノニクスの仲間』と書けば伝わる方もいるだろうか。“ダチョウ恐竜”ことオルニトミムス科に近縁な、ごくごく小型の獣脚類である。

(↑ウィキメディア・コモンズより、モノニクスの骨格模型。)

尻尾の生えた鶏(?)に見える方は挙手を。
しかし更にクリソツ瓜二つな鳥が北米にいるのだ。その名もオオミチバシリ。
(↑手持ちのオオミチバシリ/ロードランナーの写真。問題があれば削除/差し替えを行います。)

これで彼らの概要は掴めただろうか?
ほぼほぼ鳥類にしか見えないアルヴァレスサウルス科。消滅寸前な前肢と歯、そして長い尻尾を別にすれば、クリスマスの夜に丸焼きにしても違和感を感じないだろう。(余談だが筆者は無類の鶏肉好き)

どこかカートゥーンの“ロードランナー”を思わせる愛らしい外見と小さな身体ゆえか、アルヴァレスサウルス類もまた何度か映像化されている。その時々により卵泥棒/誘拐犯/害虫駆除業者と、手を変え品を変え、色々な生態系の隙間を彩っているのだ。(いわゆる“なんでも屋”扱い。)

(↑ディスカバリー制作『ダイナソープラネット』より、竜脚類の赤子を狙うアルヴァレスサウルス)


(↑ディスカバリー制作の『ダイナソープラネット』より、虫を探すシュブウイア)

中でも有力とされるのが虫採り屋説だ。
昆虫食の可能性については、『ホルツ博士の最新恐竜事典』が詳しい。だが本ブログでは正確性および学術性を高めるため、関連の論文も提示しておく。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195667108000943?via%3Dihub
(↑アルヴァレスサウルス類の系統と生態についての論文)

これらによるとアルヴァレスサウルス類は、細長い口先(それと退化した“一本指”を補助的に)を使ってシロアリのような小昆虫を食べていたとされている。特に後者の論文からは、アルヴァレスサウルス類の生息地に大量のシロアリが生息していたことも確かめられている。
そもそもアルヴァレスサウルス類のピンセットのような口先で餌を摘もうとするなら、よほど餌は小さかったはずだ。これは現在の鳥類と同じで、嘴の太さと餌の種類の相関関係は傾向として示されている。――詳しくはガラパゴスフィンチの研究を参照。一口に説明すると、太いペンチ型の嘴は硬い種子を、細いピンセット型は小虫に特化したと推測されているのだ。

またアルヴァレスサウルス科が卵泥棒だったのではないのか?とする研究もある。

(↑卵泥棒説の論文より、卵を啄むアルヴァレスサウルス科)

細い口先と短く頑丈なの前腕の“一本指”(厳密には痕跡程度の第二/三指が残っている)で卵を穿ち、中身を啜っていたとされているのだ。
http://chinageology.cgs.cn/article/id/5b2ca616-1998-40f5-a320-5309ae7e30d1?viewType=HTML&pageType=en
(↑卵泥棒説についての論文。オヴィラプトルの仲間の卵の側で、アルヴァレスサウルス科が見つかった)

個人的に「アルヴァレスサウルス科=卵泥棒説」は可能性は高い、と考えている。だが卵泥棒だからといって、卵を日々の主食にしていたのではないはずだ。
まず大事な条件として、『卵は限定的な時期にしか手に入らない。』ということを抑えておくべきだろう(家畜の鶏は例外中の例外)。
よって現在のカラスやカケスのように、アルヴァレスサウルス類も日和見的に卵を狙っていたのではないだろうか?もちろん見つけて食べるに越した事はない。卵の栄養価は多くの食品の中でもずば抜けている。およそ鶏卵100gが151kcal。同グラムの鶏肉が114kcalで牛肉が298kcal。しかも肉は獲得するために他生物と争う必要があるが、卵の場合タイミングさえ見計らえば、肉弾戦のような危険を侵す必要もない。小さなアルヴァレスサウルス科にとってこれほど有益な餌もそうそうあるまい。狩りのコストやリスクを考えても、季節的な卵を利用しない手はないのだ。


《アルヴァレスサウルス科説》
そして解説は前後してしまったが、筆者がアルヴァレスサウルス科説を推す理由を説明しよう。
トロオドン科説の項で述べたとおり、ブラディクネメ(と残る2種)の化石は非常に断片的だったため、何度も比較しての研究がなされた(正直なところ面倒なうえに複雑怪奇極まりないので、ブラディクネメwikipediaを直接確認してほしい。だが筆者も義務とし気力を振り絞りながら簡潔に書こう)。

現状筆者が最も頼りにしている翻訳書『ホルツ博士の最新恐竜事典』において、ブラディクネメはアルヴァレスサウルス科として採用されていた。
Holtz, Thomas R. Jr. (2011) Dinosaurs: The Most Complete, Up-to-Date Encyclopedia for Dinosaur Lovers of All Ages,
(↑ホルツ氏の洋書の増刊号。なお増刊号は海外でのみ展開されている)

これが2011年とされ、現状では最新の分類である。さらに遡ればダレンナッシュ氏の系統解析(Naish&Dyke 2004)でもヘプタステオルニス共々アルヴァレスサウルス科として分類された。また次ヶ回以降に解説する他の研究(これの内容が衝撃的なのだ)でさえ、マニラプトル類には分類できない。…とされている。このマニラプトル類の中にトロオドン科は含まれているのだ。そしてオルニトミムス科およびアルヴァレスサウルス科は、マニラプトル類の一歩手前と位置づけられている。
加えてブラディクネメをトロオドン科とするならば、彼らのハツェグ島への侵入経路も不明となってしまう。
アルヴァレスサウルス科とするならば、島で見つかった他のゴンドワナ産恐竜と同時期/同ルートで流入したと考えられるのだが、いざトロオドン科で考えてみると海を隔てたユーラシア大陸から渡って来る他ない(ペンギンじゃあるまいし)。
もちろん一時的に陸橋が島と大陸を繋いでいた可能性は否定できない。しかし現時点でハツェグ島に陸橋が掛かっていたという説は提唱されていない。
つまり島内の生物は、ゴンドワナ経由かヨーロッパ在住の生物となるのだ。そして繰り返すように、ゴンドワナ/ヨーロッパにて明確なトロオドン科は発見されていない ――そうなると前項で図を載せた“トロオドン科と思しき歯”の持ち主は誰か分からなくなるのが問題なのだが、個人的には二次的に地上性となった鳥類の歯ではないかと睨んでいる。

以上の理由と、さらに次回解説するバラウルとの(推測されうる)関係に基づき、筆者はブラディクネメがアルヴァレスサウルス科に属するのではないかと考えているのだ。



皆さんのような記憶力が良い読者嫌いだよは、例によって筆者が隠蔽している“第三の可能性”について気になっているはずだ。『しかし』だ。あいにく筆者のスタミナが底を尽きそうなので、後は(個人的な推測による)ブラディクネメの生態を書いて今回も筆を置かせてほしい。
それと参考文献については末尾に書いておくので、興味の湧いた方はWikiと合わせて読んでみてほしい。

それでは、上下を合わせれば1万9千文字の長編記事に付き合っていただいた皆様にここでお礼を申し上げ、〆の言葉とさせていただく。
次回バラウル解説編にて、また会おう!


ここから↓は、上記の情報を総合した筆者の想像となる。ご注意されたし。

――では思考を白亜紀末のハツェグ島へ向かわせよう。おそらく一面には裸子植物が生い茂っているはずだ。というのもハツェグ島からはジュラ紀〜白亜紀初頭の動物種が発見されているため、周囲の植物もジュラ紀〜白亜紀初頭の種類と推察されるのだ。(もしかすると劇中のような“トクサの原っぱ”が存在したかもしれない。)
そこを足早に抜けていく影。茂みの奥に覗くスラリと伸びた2本の脚には、スパイクを思わせる小さな爪が生えている。これで蹴られたくはないが、かといって大した殺気は感じられない。なぜなら脚の持ち主の頭部は細く、そこに並ぶ歯も申し訳程度でしかないからだ。彼に大物を狙いそうな気配はない。これが発見当初は、『ドラゴンの血を引くドラキュラ』と呼ばれた獣脚類。ブラディクネメである。
やがてブラディクネメは足早に茂みを抜けていく…。すると開けた場所に出た。トクサの原っぱである。だがトクサ原では、彼らにとって大好物の果実は手に入らない。目的は別の餌だ。
トクサの向こうから見上げるような巨体が現れる。この一帯では最大の恐竜、竜脚類のマジャーロサウルスの群れ。群れは走り屋になど構わずに歩みを続け、邪魔なトクサを踏み倒しながら、この原っぱを後にした。
これこそがブラディクネメの目的である。マジャーロサウルスによって踏み荒らされた獣道。ここに彼らの主食が眠っているのだ。黒ずんだ足跡を見やる。
そこには大量の地虫(ミミズやコオロギ)が蠢いていた。これらの虫は普段なら地面に隠れてしまっているため、背の高いブラディクネメが見つけるのは難しい。しかし今なら話は別だ。無残な地面には、隠れ家を無くした無数の獲物が藻掻いている。「どうぞ食べてくれ」と言っているかのように…。
これはちょうどトラクターの走行痕にサギやカラスが集まるのに似ている。もしくはアフリカのゾウを勢子代わりにするハチクイだろう。彼らも他者が意図せず提供した餌を狙う。効率が良いからだ。
ブラディクネメは菜箸のような口を突っ込み、虫の塊を咥え上げた。そして新鮮な獲物を躊躇いなく飲み込む。やがて周囲から別のブラディクネメや、初期の鳥類も集まり始めた。
…孤立した島という環境において、資源は常に枯渇している。食物連鎖の上位を賄うともなれば尚更だ。おそらくブラディクネメは、見つけた虫を選り好みせず何でも食べていたに違いない。(それこそ宙を舞うトンボから地に潜む蠕虫まで。)
閉ざされた世界で生き抜くには、何でも利用する強かさが重要なのだ。――



《参考文献》

※ ハツェグ島や三属比較の論文については、前回の参考文献を参照。

・アルヴァレスサウルス科について
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195667108000943?via%3Dihub
・『ホルツ博士の最新恐竜事典』

・ 卵泥棒説について
http://chinageology.cgs.cn/article/id/5b2ca616-1998-40f5-a320-5309ae7e30d1?viewType=HTML&pageType=en
・『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』

・ 各種鳥類図鑑


※3/1追記
本編ではアルヴァレスサウルスの餌について卵食と昆虫食について主に取り上げたが、彼らと同じくらい貧弱で顎と歯を持つ小型獣脚類コンプソグナトゥス《Compsognathus longipes》
からは、腹部より一口大のトカゲ類が見つかっている。
Nopcsa, Baron F. (1903).
しかもトカゲは丸ごと一体分だった。つまり飲めるサイズの小動物なら、多少強引にでも一息に食べてしまった。ということを示している。
付け加えるなら“上”で解説したように、大抵の鳥類や小型哺乳類は、手に入る物を選り好みせずに食べる。
これらを総合すれば極端な話、
『アルヴァレスサウルス科もおそらくゼネラリストだった。』
と考えられるのだ。ただし上記の補足は論文として提唱された話ではないので、あくまでも参考程度にしてほしい。




今見直す、恐竜ドキュメンタリー 『プラネットダイナソー』(2上)〜博学才穎のロードランナー

2020-02-29 14:21:54 | 今見直す、恐竜ドキュメンタリー
 では引き続きハツェグ島の謎めいた獣脚類の正体に迫っていこう。

今回解説/考察するのは、『ドラゴンの血を引くドラキュラ』の名を持つ、ブラディクネメ《Bradycneme draculae》である。
本来なら冒頭でブラディクネメの図を出して人とのサイズ比較をしたり、分類諸々の基本情報を抑えておきたいのだが、ブラディクネメはそれが出来ない。
断じて筆者の気力がないのではない。
情報が致命的な程に欠落しているのだ。
ブラディクネメの記載論文はあいにくグーグルスカラー(普段の筆者が論文を探す際に使う無料サイト)で見つからなかった。だがハツェグ島の獣脚類について研究した論文(↓)によると、
Csiki, G. & Grigorescu, D. (1998): Small theropods from the Late Cretaceous of the Hateg Basin (western Romania) - an unexpected diversity at the top of the food chain. Oryctos 1: 87-104.
↓のスケッチにあるような、非常に断片的な脚の化石が見つかっているらしい。


コイツを見てくれ、コイツをどう思う?
凄く…ボロっボロです。
大腿骨の近位(胴体に近い部分。つまり上部)と脛骨の一部が辛うじて残されているだけで、ここから全身を推定するのは至難の業だ。――Wikipediaの記事に人との比較図が無かった。だから前回も軽く述べたように、ブラディクネメは系統樹にて、頻繁な引っ越しを繰り返している。ある時は“賢竜”トロオドン科の一種とされ、またある時は“元祖ロードランナー”アルヴァレスサウルス科とされた。この他にも可能性のある分類は提唱されているものの、今回は(比較的)主流とされるトロオドン科説とアルヴァレスサウルス科説に絞って取り上げる。(その他は次ヶ回以降に…)

さて改めて劇中での描写を説明しよう。
『プラネットダイナソー』6話『驚異の生き残り戦略』の冒頭と終盤にて、ブラディクネメはトロオドン科と思しき姿で登場した。見えにくいが小さなシックルクローが復元されているので、まず間違いなかろう。
実は冒頭のナレーションにて、『マジャーロサウルスのような植物食恐竜を襲う…』と補足されていたが、やはり映像では恐竜そっちのけでトカゲに齧り付いていた。そして島の王者ハツェゴプテリクスの襲来と合わせてトクサの奥へと行方を晦ます。

(冒頭より、トクサ原から頭を覗かせるブラディクネメ)

終盤では白亜期末の大量絶滅(K/Pg境界)の解説で再登場し、周囲に転がる死骸を漁っていたが、ここでもハツェゴプテリクスによって追い回される描写がなされた。(ちなみにブラディクネメは本編のラストを飾った恐竜でもある。)

役回りはさておき、まずは作中で採用されたトロオドン科説についてだ。
実際のところ、島流しにされたドラキュラの正体は何だったのか…?


Question①.
ブラディクネメは本当にトロオドン科なのか?

①Answers.
…不明。(筆者はやや否定派。)


「TVと違うの!?」という方も多いはずだ。では理由も交えながら、トロオドン科説の解説をしていく。

《トロオドン科説》
ブラディクネメは発見当初、恐竜ですらない正真正銘の鳥類(それもペリカン)と考えられていたエロプテリクスElopteryx nopcsai》なる生物と同種だと考えられた。ある研究では、鳥類は鳥類でも初期のフクロウではないか?とされることもあり、その際には身長2メートルという衝撃的な推測もされた。それもこれも発見された骨が断片的なのが原因だった。(2mと聞いて笑うなかれ。後に氷河期のキューバから、オルニメガロニクスという地上性の巨大フクロウが発見されている。ただし身長は1メートル程)
ブラディクネメの脛骨は非常に重々しく頑丈なので、鳥類ならば相当な高身長の持ち主だろうとされたのだ。

(↑国立科学博物館の企画展より、ヒクイドリの骨格標本。長い脛に注目)

だが結局、ブラディクネメ(および同族とされたエロプテリクスや、ヘプタステオルニスHeptasteornis andrewsi》)は、非鳥類型の恐竜とされている。
 ――実はこの手の『現生鳥類の仲間が中生代にもいた。』という話は、大抵は誤りなことが多い。例としては、パタゴプテリクスという陸棲鳥類が一時期ダチョウの祖先とされていた。―― 
その後改めて上記のエロプテリクスやヘプタステオルニスとの比較研究がなされた。その時々によって彼らは同族とされたり、別属とされたりしたが、いずれにしても”トロオドン科のような何者か”が混ざっている事が示された。
https://web.archive.org/web/20110716054243/http://palaeontology.palass-pubs.org/pdf/Vol%2018/Pages%20563-570.pdf
↑(3属の比較研究のpdf)

またハツェグ島からはトロオドン科と思しき抜け落ちた歯の化石(遊離歯)も発見されている。


(1番目の論文より、下段中央左がトロオドン科とされる歯。反りが弱いのが特徴)

おそらく上記の証拠に基づき、作中においてブラディクネメはトロオドン科として復元されたのだと考えられる。実際トロオドン科説は(ビジュアル的にも知名度的にも)人気で、ゲームソフト『カセキホリダー』シリーズにおいてもトロオドン科の外見で登場し、海外の切手でもトロオドン科として描かれている。

では話を少しトロオドン科の食性へとズラそう。もしもブラディクネメがトロオドン科なのであれば、彼らは何を食べていたのだろうか?
トロオドン科の食性(生態)と聞くと読者の皆さんは、“誘拐犯”としての姿をイメージするかもしれない。多くの書籍や作品において、トロオドン科の恐竜は知能の高さと敏捷性を活かし、他の恐竜の巣から卵や赤ん坊を盗み取っているように描かれている。とりわけ“元祖子育て竜”マイアサウラとの絡みは有名だろう。
筆者も今回の記事を書くにあたり、トロオドン科の誘拐犯疑惑について調べてみた。

(↑BBC制作の『プラネットダイナソー』より、子供の恐竜を襲うトロオドン科)

結果は驚きの。(つまり証拠不十分)

多くの書籍にも掲載されるだけあって、何かしら証拠(歯型なり胃内容物)があると思っていたが、どうやら創作の代物だったらしい ――それどころか獣脚類全体で誘拐や窃盗の確実な証拠は殆ど見つかっていない。オヴィラプトル科の卵泥棒は有名だが、それは現在だと化石に同定ミスがあった事が判明している。

(↑「プラネット・ダイナソー」で紹介された噛み傷の残る化石。これについては論文が見つからなかった。筆者が思うにこれは残飯漁りの結果だろう。)

もちろん小型獣脚類が他種の恐竜の赤ん坊を襲わない理由はない。赤ん坊は反撃しようがないため、非常に手軽な獲物なのだ。出来れば『ふれあい動物園』にでも行ってヒヨコを捕まえてみてほしい(もし捕まらないなら、のび太以下の運動オンチだろう。あなたは)。


代わりに胃内容物からは、ジンフェンゴプテリクスJinfengopteryx elegans》という初期のトロオドン科より、腹部から植物の種子が発見されているらしい。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2817200/
(↑ジンフェンゴプテリクスの論文)


(↑ウィキメディア・コモンズより、種子を飲み込んだジンフェンゴプテリクス。見えにくいが、腹部の赤みがかった粒が種子とされている)

この研究によると、トロオドン科の餌は肉に限らなかったらしい。
というのも果物や種子の栄養価は非常に高い。当時すでに存在していたとされるビワの場合、100gで39.9kcalある。後述の肉と比べれば少ないが、大概の植物のよりも桁違いに多い(菜っ葉100gで20kcalとされているので、その約2倍だ)。
トロオドン科は腹部が小さいため、一度に食べられる食料には厳しい制限があったと考えられる。そんな中で消化しにくく栄養価の低い葉や茎を積極的に取り込むのは難しかっただろう。

一方で植物由来の餌には、栄養不足を補って余りあるメリットが存在する。
『肉に比べて入手が容易。』
という点だ。まず植物は逃げない。強いて厄介なのは棘や藪(そして含まれた有害物質)の妨害くらいだろう。それさえ時間をかけて突破すれば、確実に栄養豊富なご馳走が山のように実っている。
それに植物は数が多い。食物連鎖の都合上、下位の存在は数は多くなっている。必然的に小動物よりも見つけやすいのだ。現在でもタヌキテンのような肉食哺乳類が、機会によっては果実(柿の実)に舌鼓を打つ様子が報告されている。

(↑ウィキメディア・コモンズより、トロオドン類の歯。セレーションの粗さに注目してほしい)

(↑「蘇る恐竜の時代」より、植物を食べるトロオドン科)

この報告を予言したかのように、歯の研究では、かねてよりトロオドン科が雑食である可能性が指摘されてきた。
↑の写真の通りトロオドン科の歯には『鋸歯(縁のギザギザ)が大きい』という特徴がある。これが俗に言う“古竜脚類”(最近では用いられない名称。例としてはプラテオサウルス)と似ている事などから、トロオドン科が時として植物をつまみ食いしていたのではないか?という研究だった。
http://www.arca.museus.ul.pt/ArcaSite/obj/gaia/MNHNL-0000780-MG-DOC-web.PDF
(↑トロオドン科の食性についての論文)

ジンフェンゴプテリクスの発見は正にそれを裏付けるものである。(もっとも誤飲による可能性や、獲物となった小動物を経由しての二次嚥下も考えられるのだが)
現在の肉食〜雑食鳥類(例カラス)の嗜好の広さを考えれば、トロオドン科がゼネラリスト(選り好みせずに何でも食べる生物)だとするのは、至極真っ当なことだ。

またトロオドン科は、恐竜の中でもずば抜けて発達した脳や感覚器を持っていたとされている。こういった鋭い感覚器は小動物を機敏に追いかけ、または敵から素早く逃れるのにも使われたことだろう。さらにアークトメタターサルと呼ばれる衝撃吸収/分散構造が、トロオドン科の後ろ脚に備わっていた。これは俊足の持ち主とされるティラノサウルス科やオルニトミムス科にも見られる構造で、トロオドン科が彼らと同様に優秀なランナーだった事を示唆している。――体格も細見で体重も軽量だったようだ。
トロオドン科は猟犬顔負けのスピードと狡猾さで小動物を追い詰めたに違いない――小型獣脚類が小動物を食べた痕跡は頻繁に見つかる――。 小さくも鋭い鉤爪と粗い歯によって獲物は即座に息の根を止められ、その日のメインディッシュとなったことだろう。――付け合せにフルーツを添えていたので、かなり見栄えも良い。

そろそろ切も良いので“まとめ”という。
以上からトロオドン科は、肉食性の強い雑食だと考えられている。もしもブラディクネメが快速のゼネラリストならば、同地域のハツェゴプテリクスにとって面倒な存在(彼らの卵や幼体を狙う輩)だったのかもしれない。

(↑「蘇る恐竜の時代」より卵を掠め盗ろうとするトロオドン科)



“まとめ”と聞けば皆さんも察しが付くはずだ。3/1をもって本記事は上/下の二段階構成とさせていただく(エエッー)
というのも、下手に続けようものなら字数が2万に達しかねないのだ。
これにて“上”は終了とし、あとは“下”も引き継ごう。

それでは読者の皆様、“下”にて会いましょう!!



《参考文献》

※リンクと字数の都合により割愛した論文がある。それらはブラディクネメのWiki記事を参照してほしい。

《トロオドン科説》
・3属の比較研究
https://web.archive.org/web/20110716054243/http://palaeontology.palass-pubs.org/pdf/Vol%2018/Pages%20563-570.pdf
・ジェンフェンゴプテリクスの胃内容物について
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2817200
・トロオドン科の食性について
http://www.arca.museus.ul.pt/ArcaSite/obj/gaia/MNHNL-0000780-MG-DOC-web.PDF
・小型獣脚類の食性(肉食)の論文
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/1998Natur.391..147C

・バラウル関連の論文や記事(次回説明)

・ホルツ博士の最新事典
・鳥類学者無謀にも恐竜を語る
・各種ほ乳類図鑑

3/2補足
序盤にて取り上げたヘプタステオルニスは現在学名が消滅気味で、エロプテリクスは分類が錯綜しているようだ。
そのため次回以降も特に理由がなければ彼らことは(申し訳ないが)無視させてもらう。

《ネタ元》

・『プラネットダイナソー』第6話『驚異の生き残り戦略』

・『ダイナソープラネット』4作目『サルタサウルスの成長』

・私の気力(!?)

(2下)へ続く…(ヨテイ)