ミスドのカウンター席でポール・オースター編"True Tale Of American Life"を読んでいた。nprというアメリカの公共ラジオ局で同氏がリスナーにどんなものでも構わないからあなたの人生で経験したみんなに聞いて欲しい話を局宛に送ってくださいと呼びかけて集まったものをソートして一冊になったもの。
見たことも会ったこともない誰かの人生に起こった不思議で心温まる小さな物語。
文末に本人の名前とたとえば、Madison, Wisconsinなどと居住地が記され、True Taleが一層のリアリティを帯びている。
駅ビル内にあるミスドなので人通りも多い。
本を閉じて道行く人たちを見てみると、きっとお一人お一人に綴られたことのない物語があるのだろあなあ、と思いを馳せたとき、20数年前アメリカ人の友人が唐突に尋ねてきた質問を思い出した。「人間が誰も足を踏み入れたことのない森のなかで一本の樹が倒れた。それを認知する人は当然いない。ではその樹は倒れたことになるのだろか?」
僕は真剣に考え始めたが「最近どこかで読んだ問いで軽い気持ちで質問してみただけだから」と。日本には現在1億2千万人が暮らしており、世界には80億もの人がいて、そしたらその中の誰かの一日などそれこそ未踏のジャングルで風にそよいだ一枚の葉のようにひっそりと匿名ですが、でも確かに悲喜こもごもがあったはず。
そんなに巨視的に眺めなくとも、ごく身近な家人でさえその心では他人には預かりしれない思いがありヒストリーもある。
そんな想像が掻き立てられたとき、少し他者にやさしくなれるかなと思えた。
ひそやかに地道な暮らしを営むことの尊さを思う。