2月文楽公演
第三部「鶊山姫捨松」「壇浦兜軍記」
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文楽の観劇は久しぶり。
楽しかった。ああ、こういう感じだっけ。いいなぁ。
文字通り暴力が表現される「鶊山姫捨松」、演奏真剣勝負の「壇浦兜軍記」。
緊張をたっぷりと味わう。
(味わうとか余裕っぽいこと書いてるけど観てる間は手に汗なのですよ)。
寒さの中に芽吹きの気配がある2月にふさわしい。
私が平日観劇不可になっちゃってて、土日分はチケット瞬殺だしね。
第3回文楽若手会
国立劇場 小劇場
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床と2mもない座席で観劇。舞台も近い。
こういう距離だと、演者の身体性がありありと伝わってきて
遠い席で俯瞰で観るのとは全く違う興奮があります。
ワタシは文楽観劇暦は浅くて、知見が全然足りないのですが、
周囲には青田買い的にチェックし成長に目を細める文楽愛好家が
数々おられました。
以下敬称略、
一谷嫩軍記、
睦太夫、靖太夫の、迫る語り口、
玉佳の熊谷の胆力、紋臣の藤の局の高貴、
野崎村、
咲寿太夫のおみつ、
希太夫と芳穂太夫の久作のそれぞれの味わい、
清丈の太棹の多彩な響き、
が印象に残りました。
(2015.6.27)
国立文楽劇場開場30周年記念
初春文楽公演
第二部
◆日吉丸稚桜(ひよしまるわかきのさくら)
駒木山城中の段
中が豊竹睦太夫さんと鶴澤清志郎さん、
奥が竹本千歳太夫さんと豊澤富助さん。
設定が複雑なのであるが、徐々に状況が理解できてきた頃に
切ない展開がガツンと。
人物(人形と語り)たち、熱く・切々と。
◆冥途の飛脚(めいどのひきゃく)
淡路町の段/封印切の段/道行相合かご
全編通して引き込まれた。
特に封印切の段、圧倒的。
奇跡を観たような思い。
豊竹嶋太夫さん+野澤錦糸さんが語る、語りつくす。
勘十郎さんの梅川、動きから人形に息が伝わるのが見える感じ。
特によよ、と泣き伏すときなど。一体化とも違う。魔法のようだ。
玉女さんの忠兵衛とがぷり四つ。
(2015.1.17)
国立文楽劇場
12月文楽公演
◆伽羅先代萩
11月に歌舞伎版で上演したのと同じ、「竹の間」「御殿」。
歌舞伎との演出上の大きな違いは、御殿での飯炊きがたっぷりと
描かれていること。
茶道具を使った炊事の苦労、時間がかかるだろうし、実際にとても
時間をかけているのでリアリティある。じりじり待たされる辛さ。
跡継という地位にありながら生じている「ひもじい」状況の切迫感、
政岡の忸怩たる思いや、鶴喜代君に備わっている太守の心が、
義太夫と人形によってくっきりと表現されている。
極限状態なんだ。
そういった中でのお菓子の事件。
政岡は気丈である。でも優しくて女房らしくて…人形遣いが動きで語る。
「御殿」の前は津駒太夫、後は呂勢太夫。
歌舞伎では浅はかなところのある印象の八汐や栄御前は、
よりシンプルな悪玉。コワイ人たち。背筋に来る怖さ。
善玉で賢い奥様チームの勝利が鮮明。爽快感。
松島がいなかったな。
筋書きは同じなんだけど…「都合のいい展開」に感じないのは
語り口や演出が純粋だからかな。
雀や狆との様子が、御殿の(本来の)おっとりとした様子を伺わせる。
そうそう、狆がおすべりをいただいてるのを見てて、毒が入ってるん
じゃないかと思っちゃった。
◆紙子仕立両面鑑
初見でした。
人物設定が多少複雑なのと、栄三郎の行動原理が直感的に理解
しにくいので(現代人にはね)、前半は、え、え、えーっ、…そうなんだ??。
そのまま怒涛の後半へ。ジェットコースター。
女大学が信条の母・妙三に育てられた、貞節な娘(万屋嫁)お松が清廉。
生きるために普通にワルな、権八や伝九郎。浪花なアクと笑い。
面白かった。
千歳太夫の大文字屋一家三人の泣き分けがみごと。奥、すごい聴き応え。
おなかにずんずんきました。
(2014.12.6)
〔新作文楽〕不破留寿之太夫(ふぁるすのたいふ)
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不破留寿之太夫。
欲望のままきままに生きてる"ふわるす"は風貌・衣装もおおらかで
ハッピーそう(あの太鼓腹のせい?)。
へそにチャームがついている。きらりん。
そしてたぶん反戦主義である。命あってのモノダネ。
文楽で聴き慣れた曲調とはちょっと違う楽曲を、三味線・琴・大弓などが
奏でる。こういう演奏もできちゃうのかぁ。
英大夫、全編通じて唄う。テンション落ちることなし。
春若に所払いを命じられても飄々と。
封建の身分構造の中にあって、その立場を奪われてもそこに一切の執着を
見せない(強がり?)、こういう人物像は和ものでは見たことがないと思う。
春若が手を切るスッパリ感も、和ものにはない。
さらりと乾いた成り行き。でも温度を感じる。都会的。
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シェイクスピア=作 「ヘンリー四世」「ウィンザーの陽気な女房たち」より
鶴澤清治=監修・作曲
河合祥一郎=脚本
石井みつる=美術
不破留寿之太夫(ふぁるすのたいふ)
http://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu/h26/falstaff.html
(2014.9.12)
第2部 名作劇場
いい意味で肩の力が抜けてる感じの、落ち着いた雰囲気のなか
ゆったりと2演目を楽しみました。
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◆近松門左衛門没後290年
平家女護島 鬼界が島の段
歌舞伎で何度となく観劇した「俊寛」、文楽では初めて。
俊寛僧都は確か三十代なのですが、歌舞伎ではベテランが演じるケースが
多くて年配のイメージがある。
文楽で観ると、うらぶれ疲れた姿ながら身体的な若い強さが感じられます。
瀬尾を討つところなど。下出を止めた瞬間の反転。
成経や康頼との関係も、友情なんだろうなぁ、と思う。
千鳥を行かせるところの決意、熱い悲しみの中の滾った情から来ているよう。
千歳太夫、清介。
平家女護島は、俊寛、瀬尾、千鳥が主軸なんだわね。
◆鑓の権三重帷子
浜の宮馬場の段/浅香市之進留守宅の段/数寄屋の段/伏見京橋妻敵討の段
よくできた脚本なんだなぁ。
油壺とろとろの権三。モテモテだけどツレない。
お雪乳母の手練にやられちゃったり(考えなし?)、大役という餌に食らい
ついて真の台子の伝授のためなら何でもするぜと猛たり。
自己評価が高い未熟な若者像がくっきり。
でも、純なの。帯持っていかれた後とか。太夫と三味線が深い無念を表わす。
おさえと権三、人物像がすごくリアルです。現代に通じる。
文楽の表現てほんとうに奥が深い。
(2014.8.2)
国立劇場 5月文楽公演 竹本住太夫引退公演
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私が文楽を見始めたのは住太夫さんが倒れられた後だったので、長らくの
文楽ファンほどの感慨はないだろうと思いつつ「恋女房染分手綱」の幕が開きました。
果たして。
いつの間にか、住太夫さんが演じているかどうかは意識の外に。
没入したのです。
太夫と三味線と人形遣いの、舞台上に何かぎっしりと詰まったような充実と、
快い緊張に、舞台から注意が逸れる瞬間が全くありませんでした。
八蔵の母の母らしさを味わい、八蔵と悪党との成り行きを楽しみ・・・
住太夫さんが見台を動かし、床本を捧げ持ち、ああ、そうだったのだ、
もう見れないのかと思った瞬間、涙が出て、自分でも驚きました。
文楽の素晴らしさを、心の裡にくっきりと刻印された公演でした。
ありがとうございました。
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「増補忠臣蔵」
津駒太夫、桃井若狭之助の機微。
蓑二郎、三千歳姫の所作の細やかさ。左遣いの帯の扱い。
「恋女房染分手綱」
文字久太夫の演じ分け見事。
坂の下の、始太夫の八平次、雷鳴のよう。存在感。
「卅三間堂棟由来」
悲しい話ではあるが、昼夜通しで観た中では一番癒し系。優しい空気。
「女殺油地獄」
呂勢太夫&清冶、咲太夫&燕三、ドラマティック。
「鳴響安宅新関」
床側で見てたので、三味線が8人並んだ図が壮観でした。演奏も壮観。
(2014.5.17)
◆七福神宝の入舩
船の上で神様(と遣い手さん)がぎっしり。
人形が違うだけでなくて、動きも含めてそれぞれの個性が。
華やいだ雰囲気の語り。
琴、三味線、胡弓で演奏を楽しみ。
滑稽味を交えつつの、おっとりした雰囲気。
文楽にも時事ネタ織り込みあるんだ。知らなかった(←初心者)。
小道具もお誂え。
◆近頃河原の達引
四条河原の段
堀川猿廻しの段
四条河原の段では心中(しんちゅう)で「早く反撃しろー」などと
思わされながら伝兵衛の痛みを観る。勘蔵(靖太夫)の憎らしさったら。
久八がやたらいい男だ。
堀川猿廻しの段、住太夫に聞きほれ、この後の成り行きの切なさを思い、
津駒太夫にドラマティックな心情を引き起こされ。
終幕の不思議な清涼感。
(2014.2.22)
国立文楽劇場
初春文楽公演 第2部
文楽観劇4回目にして国立文楽劇場まで遠征。
確実にハマりつつある。でも楽しい(財布は苦しい)。
「面売り」、ことほぎ。ほがらか。
「近頃河原の達引」堀川猿廻しの段がもう、せつのうて。
義太夫、三味線、たまらん。
上方らしい可笑し味を見せつつ、人形たちが微笑みながら
涙を浮かべているよう。
「壇浦兜軍記」
阿古屋、街娘とははっきりとちがう、誇り高い傾城。
かわいぃぃぃ。
鶴澤寛太郎さんが三曲演奏、すばらし。
床と舞台が両方視界に入る席で見ていて、阿古屋の演奏(の演技)と
三曲演奏の動作の一致に驚愕感動。
歌舞伎で阿古屋を演じる俳優が実際に演奏できないと演じられないが如く、
人形遣いの方もおそらく実演奏できるのではないだろか。
(2014.1.12)
人間国宝の声を聞きながら、どうにもならない睡魔に襲われ。
「いまこれ聞かなくてどうするの、私のバカ!!」と戦ったり落ち込んだり
していたら、帰路読んだ三浦しをんさんの「あやつられ文楽鑑賞」で
関連言及があってちょっと安堵しました。←それでいいのか?
◆解説 文楽を楽しもう(豊竹 靖大夫)
◆近松生誕三六〇年 近松門左衛門 作
女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)
女房お吉 吉田 和生
河内屋与兵衛 桐竹 勘十郎
河内屋徳兵衛 吉田 玉女
徳兵衛女房お沢 吉田 勘彌
「徳庵堤の段」
豊竹 咲甫大夫
竹澤 宗助
騒動の場。
自分が思ったようにふるまう人々と、常識的で他人を気遣うお吉との
対比が際立つ。
片肌脱いだり、蹴飛ばしたりといった動作の表現のテンポがよくて
こういう場面は随所に人形遣いの技が駆使されているんだろうな。
「河内屋内の段」
中 豊竹 睦大夫
豊澤 龍爾
奥 竹本 津駒大夫
鶴澤 寛治
津駒大夫がすばらしかったです。
「豊島屋油店の段」
切 豊竹 咲大夫
鶴澤 燕三
娘たちのしぐさが愛らしい。
母に髪をやってもらう場面は情愛に満ちている。
そうしている中で折れる櫛の歯。
あるいは世話女房として夫に従いながらも意見もするいい夫婦
の表現の中でさりげなく置かれた「立ち酒」のシーン。
温かい一家のやりとりの中に差し挟まれる験の悪いことがらに、
この先の悲劇が思われてやるせなさが上ってくる。
そうしてやってくる河内屋の夫婦。
彼らは息子が行う非道など想像だにせずに、ひたすら子供を思う親。
その辺りののギャップがドキドキを強める。
殺しの場面、凄惨。
滑り方がすごい。早いし長い。
逃げ惑うときの足の動きの切迫感。
追い討ちをかける切羽詰った義太夫。
息を呑むとはこのこと。
歌舞伎での上演よりも、人物像がシンプルで、それが却って
人の業の重さや巡り合わせの不幸、根底にある静謐を感じます。
与兵衛は本性は弱いが強気のフリをしている暴れ者だし、
お吉本人の罪のなさ、巻き込まれる立場の気の毒さが強い。
◆日高川入相花王
清姫 豊竹 呂勢大夫
船頭 竹本 文字久大夫
ツ 豊竹 咲寿大夫
レ 竹本 小住大夫
鶴澤 清治
鶴澤 清志郎
鶴澤 清馗
鶴澤 清公
鶴澤 清允
清姫 豊松 清十郎
船頭 吉田 玉志
ダイナミック。
川を渡るところの表現に舌を巻く。
変化のタイミング、いつか?いつか?と思いながら注視し、
おお、来た!、、、戻った、、来た!、、1人の人間が
人と化身を行ったり来たりして同一の者であることが知れる。
継ぎの部分がみごとでした。
(2013.12.22)
国立劇場 12月文楽公演
1等席(下手舞台近く)←義太夫が見えない
◆大塔宮曦鎧
六波羅館の段
身替り音頭の段
復活上演、明治以来とのこと。
忠義と親子の愛情、じわり。
太郎左衛門がどっしりと格好いい。
右馬頭の館での輪舞が幻想的で不思議な魅力。
◆恋娘昔八丈
城木屋の段
鈴ヶ森の段
お駒の愛らしいことと言ったら、もう、たまらん。
丈八の強烈なアクション(笑)や台詞(義太夫)も楽しい。
(2013.12.4)
竹本義太夫三〇〇回忌記念
通し狂言 伊賀越道中双六
国立劇場(小劇場)
第一部・第二部通しで。
へとへとになったけど、圧巻だった。
歌舞伎で見るのと同じ物語であっても、異なる面白さ。
残酷も、儚さも、気も、ダイレクト。
住大夫の、平作の最後の念仏に落涙。
※初心者の感想なんでこの程度です。。
(2013.9.22)