行政書士田中太志事務所ブログ

埼玉県さいたま市の特定行政書士・田中太志のブログです。

「君、明日から来なくていいよ」と言われたことがあります

2024-11-04 17:16:24 | 日記


 みなさんこんばんは、埼玉県さいたま市の特定行政書士、田中太志です(当事務所のホームページはこちら)。前回の記事で、2024年11月1日に施行されたフリーランス新法について解説しました。フリーランスに仕事を依頼する企業は、原則として7つの義務を守る必要があり、7つのうちの1つとして、次のような義務がありました。

 「フリーランスに6か月以上の業務を依頼した企業は、業務の依頼を途中で解除するなどの場合、30日前までに解除の予告をしなければなりません。また、解除日までにフリーランスから『理由を教えてほしい』と言われたら、その理由を教えなければなりません」 

 この義務は、労働基準法第20条の解雇予告制度と似ています。おそらく労基法の解雇予告制度を念頭において、上記の義務項目が作られたのでしょう。そこで今回は、労基法の解雇予告制度について簡単に説明したいと思います。

 使用者(雇い主)は、労働者を解雇しようとするときは、原則として30日前に解雇の予告をしなければなりません。いきなり「君、明日から来なくていいよ」とは言えないのです。どうしても「君、明日から来なくていいよ」と言いたい場合は、30日分の解雇予告手当(つまり30日分の給料)を労働者に支払わなければなりません。ただ、大きな災害があって会社が潰れそうになっていたり、労働者が会社で盗みを働いたりした場合は別です。そういう場合は仕方ないので、ただちに解雇することができます。

 また、日雇い労働者や、数か月などの短い期間で雇われている労働者は、解雇の予告をすることなく、ただちに解雇することができます。労働基準法は、長く働いている労働者ほど厚く保護する傾向があるのです。そういう労働者は、一家の重要な支え手になっている場合が多いからです。もしそういう労働者が簡単に首になったら、家族みんなが路頭に迷ってしまうかもしれません。

 そして、試用期間中の労働者も、解雇の予告は必要ありません。「君、明日から来なくていいよ」と言うことができます。ただし、試用期間が14日を超えている労働者については、30日前に解雇の予告をしなければなりません。労基法上では、試用期間は14日までということです。会社が「試用期間は3か月」と定めている場合でも、労働者が14日を超えて働いていれば、解雇予告が必要となります。

 そういえば私は昔、とあるお弁当屋さんのキッチンで働いていたことがあります。そして3週間目くらいのときに、店長から「君、明日から来なくていいよ」と言われました。そのときは労基法に関して全くの無知だったから、「わかりました」と言って首を受け入れましたが、いま考えるとあれは違法な解雇でした。試用期間だったとしても、すでに14日を過ぎていたから。この場合、店長は「君のこと、30日後に解雇するからね」と言うか、「君、明日から来なくていいよ」と言いながら30日分の給料を私に手渡さなければなりませんでした。

 以上、労基法第20条の解雇予告制度について解説しましたが、フリーランス新法の義務項目の一つと似ていることがお分かり頂けたでしょうか。フリーランスの人たちの保護を、労働者の保護のレベルに近づけたい、という意思が、フリーランス新法にはあるのだと思います。


  ちなみに私は社労士の資格も持っていて、労働法についてはさらに水町勇一郎先生の『労働法』を読んで勉強しました。法的思考力を養うだけでなく、労働法の背景にある歴史や社会についても体系的に学ぶことのできる良書です。