行政書士田中太志事務所ブログ

埼玉県さいたま市の特定行政書士・田中太志のブログです。

【労基法16条】「賠償予定の禁止」について解説します

2025-02-03 16:36:46 | 日記


 みなさんこんばんは、埼玉県さいたま市の特定行政書士、田中太志です(当事務所のホームページはこちら)。前回の記事では、労基法15条の「労働契約の解除と帰郷旅費」について解説しました。今回は、労基法16条の「賠償予定の禁止」について解説しようと思います。短い条文なので、まずはそれを確認してみましょう。

 労基法16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

 これだけです。「違約金」とは、労働者が労働契約をちゃんと守らない場合(無断欠勤するなどの場合)に、損害発生の有無にかかわらず、労働者が雇い主(使用者)に支払うお金のことです。要するに「罰金」です。キャバクラなどによくありますよね、「無断欠勤したら1万円の罰金とする」みたいな決まりが。ああいう契約を結んではならない、ということです。
 もしこの法律がなかったらどうなるか。「6か月以内に退職したら罰金100万円とする」などの契約が可能になり、そうなると労働者に「退職の自由」がなくなってしまいます。これは強制労働に近しい状態と言えます。だからこの法律が出来たというわけです。

 「損害賠償額の予定」とは、労働者が労働契約をちゃんと守らない場合(遅刻するなどの場合)に、労働者が雇い主(使用者)に支払う額をあらかじめ決めておくことです。これも、損害発生の有無にかかわらず、労働者はお金を払うことになります。要するに「罰金」です。つまり「違約金を定める契約」と「損害賠償額を予定する契約」は、ほぼ同じ意味です。雇い主と労働者のあいだで、キャバクラなどによくある「無断欠勤は罰金1万円」みたいな契約を結んではいけないのです。

 じゃあなぜ、キャバクラなどには「罰金制度」があったりするのかと言うと、キャバクラ嬢は労働者ではない場合があるからです。キャバクラ嬢が個人事業主(フリーランス)としてキャバクラの店主と契約し、店主の指示や命令を受けずに客にサービスを提供していれば、労働者ではありませんから、労働基準法も適用されず、「遅刻したら罰金5千円」みたいな契約も有効になります。

 でも、キャバクラ嬢が店主の指示や命令を受けて客にサービスを提供していると(メイドカフェのメイドさんをイメージしてください)、その場合は労働者とみなされて、労働基準法が適用されます。なので、もしそのキャバクラ嬢が店主に「無断欠勤したら罰金1万円ね」と言われていても、罰金を払う必要はありません。その契約は労基法16条に反していて無効だから。

 キャバクラやスナックの中には、どう見ても労働者であるキャバクラ嬢やホステスに「罰金」を払わせているお店もあります。それは労働基準法違反なので、キャバクラ嬢やホステスは罰金を払う必要はありませんし、経営者はそんな制度は撤廃しなければなりません。「労基法にそんな決まりがあるなんて知らなかった」ということなのかもしれないけど、労働者を雇うのであれば、「労基法を知らなかった」では済まされません。
 第16条に違反した雇い主は、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されます。
 ちなみに、実際に労働者から罰金を取っていなくても、「罰金の契約」をしただけで違法になりますので、経営者の方は気をつけてください。労働者の方は、「それって労基法違反じゃないですか?」と言ってやりましょう。

 
 以上の解説は、水町勇一郎先生の『労働法』を参考にして書きました。労働法に関してかなり深いところまで理解できる、おすすめの本です。
 私は社会保険労務士の資格も持っており、先日noteに『【貧乏】できるだけお金をかけずに社労士に合格する方法【2025】』という記事を投稿しました。文字数は合計で2万字近くあります。社労士試験に関して私が持っている知識と経験を惜しみなく注ぎ込んだ記事です。「社労士試験を受けてみたいけれど、出来るだけお金はかけたくない!」という方がおられましたら、ぜひ購入をご検討ください。

【労基法15条】「労働契約の解除」と「帰郷旅費」について解説します

2025-01-09 21:14:08 | 日記


 みなさんこんばんは、埼玉県さいたま市の特定行政書士、田中太志です(当事務所のホームページはこちら)。前回の記事では、雇い主が労働者を雇うときに渡さなければならない書面、労働条件通知書について解説しました。これは労働基準法の第15条1項に定められています。ついでと言っては何ですが、今回は15条の2項と3項についても解説しようと思います。テーマは「労働契約の解除」と「帰郷旅費」です。

 まず15条2項の「労働契約の解除」ですが、まず雇い主が、労働条件通知書や口頭で労働条件を明示します(15条1項)。で、求人に応募した人がその内容に納得して「働きます」と言って労働契約が成立したら、その人は労働者として働き始めます。しかしいざ現場で働き始めてみたら、明示された労働条件と異なる。「残業はない」と書いてあったのに残業させられる。「週休二日制」と書いてあったのに日曜しか休みがない。そういう場合、労働者は「ちょっと! 約束が違うじゃないですか!」と言って即時に労働契約を解除することができます

 そして15条3項の「帰郷旅費」ですが、上記のように即時に労働契約を解除した人が、就職するために地元から上京してアパートを借りていたとします。その人は、東京での就職をあきらめて地元に帰るかもしれません。その人がすぐに帰る場合、すなわち、契約を解除した日から14日以内に帰る場合、その人は元雇い主に必要な旅費を請求することができます。必要な旅費には、交通費だけでなく、道中の飲食代やホテル代も含まれます。もちろん、無駄に高い物(回らない寿司など)を食べたり、無駄に高いホテルに泊まることはできませんが。また、労働者が家族とともに上京してきていた場合、その家族の交通費等も含まれます。

 ちなみに、労働基準法15条の条文は次のようになっています。
 第1項 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。 (以下略)
 第2項 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
 第3項 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

 
 以上の解説は、水町勇一郎先生の『労働法』を参考にして書きました。とても分かりやすい本なのでおすすめです。
 ところで私は社労士の資格も持っており、先日noteのほうに『【貧乏】できるだけお金をかけずに社労士に合格する方法【2025】』という記事を投稿しました。文字数は合計で2万字近くあります。社労士試験に関して私が持っている知識と経験をすべて注ぎ込んだ記事です。「社労士試験が気になるけれど、可能なかぎりお金はかけたくない!」という方がおられましたら、ぜひご購入を検討してください。

【令和6年4月改正】労働条件通知書について

2024-12-02 14:54:51 | 日記


 みなさんこんばんは、埼玉県さいたま市の特定行政書士、田中太志です(当事務所のホームページはこちら)。前回の記事では、労働者を解雇するときは30日前に解雇の予告をしなければならない、という話をしました。いわゆる解雇予告制度です。今回は、労働者を雇うときに労働者に渡さなければならない書面、労働条件通知書について解説しようと思います。これについては令和6年4月に法改正があったので、十分気を付けてください。

 まず、事業者が労働者を雇うときは、必ず書面で通知しなければならない事項があります。それを以下に列記します。
・労働契約の期間。
・就業の場所と、従事する業務。およびその変更の範囲
・始業と終業の時刻、残業の有無、休憩、休日、休暇など。
・賃金の支払い方法など、(昇給について)。
・退職について。解雇の事由について。
・有期労働契約の場合は、その契約を更新する場合の基準。更新に上限がある場合は、その内容
無期転換申込権を有する有期労働者と労働契約を更新しようとする場合、無期転換申込機会があることの明示
有期労働者が無期転換申込権を行使した場合の労働条件の明示

 昇給についてカッコ書きにしたのは、昇給だけは書面ではなく口頭でも大丈夫だからです。昇給は将来的にどうなるのか分かりません。水物です。だから書面にまでする必要はないのです。令和6年4月1日から改正されたのは上記の中の下線を引いた部分です。

 まず就業の場所と、従事する業務については、将来的に変更する可能性がある場合、その変更の範囲をあらかじめ明示しなければなりません。これによって労働者は、将来の変更を念頭に置いて働くことができます。

 次に、有期労働契約の更新に上限がある場合は、通算契約期間や、更新回数の上限を明示しなければなりません。これによって労働者は将来の計画が立てやすくなります。

 その次に、無期転換申込権を有する有期労働者と契約を更新しようとする場合、無期転換申込機会があることを明示しなければなりません。無期転換申込権とは、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申し込みにより、無期労働契約に転換することのできる権利です。労働者の中には、無期転換申込権があるのを知らない人もいるので、雇い主のほうから教えてあげなければならないのです。

 最後に、有期労働者が無期転換申込権を行使したときは、無期転換した後の労働条件について明示しなければなりません。これによって労働者は、自分が無期労働者になった後どうなるのかを知った上で、有期のままでいるか、無期に転換するかを選択することができます。

 また雇おうとする労働者がパートタイマーであるとき(短時間労働者や有期労働者であるとき)、以下の特定事項も書面で通知しなければなりません。これは労基法ではなくパートタイム労働法で定められています。
・昇給の有無。
・退職手当の有無。
・賞与の有無。
・パートタイム労働者の相談窓口。

 労働者を雇おうとするとき、絶対に書面で通知しなければならないのは以上です。他の事項(表彰や制裁に関する事項など)については、口頭で通知すれば足ります。また、労働契約そのものは口頭の合意で成立し、雇用契約書の作成は任意です。雇用契約書は作成せず、労働条件通知書のみを渡す事業者が多いと思います。

 
 以上の労働条件通知書の解説は、水町勇一郎先生の『労働法』を参考にして書きました。とても良い本なのでおすすめです。

 ところで私は社労士の資格も持っているのですが、先日、noteのほうに『【貧乏】できるだけお金をかけずに社労士に合格する方法【2025】』という記事を投稿しました。文字数は合計で2万字近くあります。社労士試験に関して私が持っている知識と経験をすべて注ぎ込みました。社労士試験が気になるけれど、可能なかぎりお金はかけたくないという方がおられましたら、ぜひご購入を検討ください。

「君、明日から来なくていいよ」と言われたことがあります

2024-11-04 17:16:24 | 日記


 みなさんこんばんは、埼玉県さいたま市の特定行政書士、田中太志です(当事務所のホームページはこちら)。前回の記事で、2024年11月1日に施行されたフリーランス新法について解説しました。フリーランスに仕事を依頼する企業は、原則として7つの義務を守る必要があり、7つのうちの1つとして、次のような義務がありました。

 「フリーランスに6か月以上の業務を依頼した企業は、業務の依頼を途中で解除するなどの場合、30日前までに解除の予告をしなければなりません。また、解除日までにフリーランスから『理由を教えてほしい』と言われたら、その理由を教えなければなりません」 

 この義務は、労働基準法第20条の解雇予告制度と似ています。おそらく労基法の解雇予告制度を念頭において、上記の義務項目が作られたのでしょう。そこで今回は、労基法の解雇予告制度について簡単に説明したいと思います。

 使用者(雇い主)は、労働者を解雇しようとするときは、原則として30日前に解雇の予告をしなければなりません。いきなり「君、明日から来なくていいよ」とは言えないのです。どうしても「君、明日から来なくていいよ」と言いたい場合は、30日分の解雇予告手当(つまり30日分の給料)を労働者に支払わなければなりません。ただ、大きな災害があって会社が潰れそうになっていたり、労働者が会社で盗みを働いたりした場合は別です。そういう場合は仕方ないので、ただちに解雇することができます。

 また、日雇い労働者や、数か月などの短い期間で雇われている労働者は、解雇の予告をすることなく、ただちに解雇することができます。労働基準法は、長く働いている労働者ほど厚く保護する傾向があるのです。そういう労働者は、一家の重要な支え手になっている場合が多いからです。もしそういう労働者が簡単に首になったら、家族みんなが路頭に迷ってしまうかもしれません。

 そして、試用期間中の労働者も、解雇の予告は必要ありません。「君、明日から来なくていいよ」と言うことができます。ただし、試用期間が14日を超えている労働者については、30日前に解雇の予告をしなければなりません。労基法上では、試用期間は14日までということです。会社が「試用期間は3か月」と定めている場合でも、労働者が14日を超えて働いていれば、解雇予告が必要となります。

 そういえば私は昔、とあるお弁当屋さんのキッチンで働いていたことがあります。そして3週間目くらいのときに、店長から「君、明日から来なくていいよ」と言われました。そのときは労基法に関して全くの無知だったから、「わかりました」と言って首を受け入れましたが、いま考えるとあれは違法な解雇でした。試用期間だったとしても、すでに14日を過ぎていたから。この場合、店長は「君のこと、30日後に解雇するからね」と言うか、「君、明日から来なくていいよ」と言いながら30日分の給料を私に手渡さなければなりませんでした。

 以上、労基法第20条の解雇予告制度について解説しましたが、フリーランス新法の義務項目の一つと似ていることがお分かり頂けたでしょうか。フリーランスの人たちの保護を、労働者の保護のレベルに近づけたい、という意思が、フリーランス新法にはあるのだと思います。


  ちなみに私は社労士の資格も持っていて、労働法についてはさらに水町勇一郎先生の『労働法』を読んで勉強しました。法的思考力を養うだけでなく、労働法の背景にある歴史や社会についても体系的に学ぶことのできる良書です。

2024年11月からフリーランス新法が施行されます

2024-10-15 17:43:43 | 日記


 みなさんこんばんは、埼玉県さいたま市の特定行政書士、田中太志です(当事務所のホームページはこちら)。今回の記事では、2024年11月1日に施行されるフリーランス新法について解説したいと思います。

 正式名称は、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」です。この法律の目的は、フリーランスが安心して働ける環境を整備することです。この法律におけるフリーランスとは、「個人事業主」、「一人法人」などです。2024年11月1日以降に、発注事業者(企業など)がフリーランスに業務を依頼する場合は、フリーランス新法が適用されます

 フリーランス新法には、7つの義務項目があります。
 1、書面などによる取引条件の明示。
 2、報酬支払期日の設定・期日内の支払い。
 3、禁止行為。
 4、募集情報の的確表示。
 5、育児・介護等と業務の両立に対する配慮。
 6、ハラスメント対策に関する体制整備。
 7、中途解除などの事前予告・理由開示。

 1は、業務の依頼をした場合、「業務の内容」、「報酬の額」などの取引条件を書面などで明示しなければなりません。要するに、「フリーランスに仕事を頼むときは契約書を作れ」ということです。
 2は、完成した商品などを受け取った日から60日以内の、できるかぎり早い日に「報酬支払日」を設定し、期日内に報酬を支払わなければなりません。
 3は、フリーランスに対し、1か月以上の業務を依頼した場合、7つの行為をすることが禁止されます。禁止行為は、完成した商品を受け取ることを拒否すること、報酬の減額をすることなどです。
 4は、フリーランスを募集する広告を出す際に、虚偽の表示などをしてはなりません。また、広告の内容を、正確で最新のものにしなければなりません。
 5は、6か月以上の業務を依頼する場合、フリーランスが育児や介護と業務を両立できるように配慮しなければなりません。例えば、フリーランスから「子どもの急病により、看病をしなければなりません。納期を延期してほしいです」という申し出があったら、納期を延期することなどです。
 6は、フリーランスに対するハラスメント行為について、一定の措置を講じることです。一定の措置とは、ハラスメントが発生したとき、素早く適切な対応をとること等です。
 7は、フリーランスに6か月以上の業務を依頼した企業などは、業務の依頼を途中で解除するなどの場合、30日前までに解除の予告をしなければなりません。また、解除日までにフリーランスから「理由を教えてほしい」と言われたら、その理由を教えなければなりません。

 以上の7つの義務は、発注事業者(企業など)に従業員がいるかどうか等によって異なります。
 従業員を使用していない発注事業者の場合、義務項目は1だけです。
 1人でも従業員を使用している発注事業者が、1か月未満の業務を依頼する場合、義務項目は1、2、4、6です。
 1人でも従業員を使用している発注事業者が、1か月以上6か月未満の業務を依頼する場合、義務項目は1、2、3、4、6です。
 1人でも従業員を使用している発注事業者が、6か月以上の業務を依頼する場合、義務項目は全てです。

 以上、フリーランス新法について、できるだけ分かりやすく解説しました。より詳しい解説については、厚生労働省のホームページをご覧ください。
 フリーランス新法とは関係ありませんが、11月10日には令和6年度の行政書士試験がおこなわれます。行政書士試験に合格する方法などについて、noteのほうに約2万6,000字の記事を書きましたので、もしよければご購入ください。直前期の勉強の参考にもなるかと思います。