はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

歌集 雑念の書  第一章 春の光り

2016年08月21日 | 短歌
歌集 雑念の書


第一章 春の光り

春の光り

877 裸木の桜の枝にやさしい陽ざし君のやわらかな頬に触れている
878 春の陽に揺られてホモサピエンスは過去の種族になりつつあります
879 満開に咲き誇る日のみじかさははかないまでの僕が見た夢
880 陰暦四月さらさらと月がふるため息ひとつついて帰り道
881 三月の陽はやわらかになり君を抱きたい衝動はみどりになる
882 年齢まだいかぬ少女らの化粧濃く行く末にあるこの国の憂いは
883 この世のアリバイなど求めることもないただ燦燦と春の陽をうける

884 足早に急ぐ人達の書BGMとして路上にまどろむ朝である
885 ひたすら居警こと覚え冬の蛍は光をともすことに疲れている
886 卓上の可憐な花義光りのなかに漂わせていくエロスである
887 春なのにただ疲れたとつぶやいてただそれだけの深いため息をつく
888 春かすみの山に溶け込んで輪郭要らないピエロの一生である









若者の時代

889 霧深くおお違を走ればテールランプのようなこの国のかたち
890 病葉ほろほろと降る街の盛り場にたむろする薯の肩にも
891 雑踏に魔物は隠れ棲み蝕んでいく若葉のみずみずしき緑
892 憂い顔して押し黙り預看探す若者新宿の交差点にいる
893 信じるもの何もないと言い捨てれば救いを求める携帯電話がなる
894 くわえタバコの茶髪の少女求める愛乾いて飢餓の街あり
895 若い肌露わなプア㌻ヨン流行り花火バッとひらいて夏おわる
896 快楽をパソコン画面に合成させて未来を語る若者の時代









失業記念日
1994年4月1日郵送にて退職願いを会社に郵送、ついに独立することを決心した。
先々のことを考えれば無謀に近い、と言うよりは無謀そのものであったが、会社務め
の欺瞞に耐えられなくなっていた。また過去の会社勤めをみても、自分が満足いうる
境遇に出会っていないのも、自らの至らなさのせいであると深く反省し、ままよ雲を
天にまかせて、棄てる神あれば拾う神ありと信じて、子供のようにはしゃいで失業者
となる。

897 あなたなら大丈夫と君が言うから退社の今日は失業記念日
898 神の手が背中をぽんと押したと思う四旦日会社を棄てる
899 恐れずに進まなければサイ投げて萬深いルビコン河を渡る
900 世の中に失業者が流行ればわたしもハローワークに登録をする
901 肉体はまだ衰えず血潮熱ければ会社を棄てるに何を憤る

902 ハローワークの求人票めくる憂い顔の王よ夕べ巨人がまた負けた
903 人生五十五年過ぎた日解雇と言わぬ定年理由の離職票を持つ
904 真夏の日盛り涼を求めて若い男女さ迷うハローワークの内外
905 三ケ月失業保険は払われずその間飢えるも死ぬも自由である
906 両の手の拳硬く握りしめれば夏の陽にきつく責められている
907 朝靄の海に艫綱のほどかれて小型頗穏やかに浮いている
908 夏蝉の一夏激しく鳴き終えて階段にころがるその骸
909 野垂れ死にを恐れず見渡たせば報われぬ死などあちこちにある









終電車

910 終電車の座席争い敗れて兵は杭のように突っ立つて揺れる
911 目を閉じて眠りこむ女化粧おちて一日を終える終電車
912 いささか疲れた青年を前に太い足組んで女子高生が席占めている
913 眠さこらえ掃える道雪嶺う空の闇は何もうつさない
914 大勢の人がいても見知らぬ人ばかり声もなく雨が降りだした
915 薄暗い街灯の道ひとり歩けば理屈の向こうにある家の明り









不在の父

916 不在の父を忘れぬ悲しみ拭いきれずにダリアの目が赤い
917 暁に葬送の列が行くその死者の名を叫んで目覚める
918 灯りは沈黙し密かに埋葬される無援のままにわが農夫
919 不毛の地に種子を蒔く農夫ただ生きるだけでも笑っていた
920 若葉芽吹くころまどろむ妊婦の胎内でゴールシュート蹴る胎児








ニセコ 1999年4月

921 夜のゲレンデきらきらと雪 滑走していく影法師たち
922 さらさらと降らぬ地吹雪の雪の情念にほんろうされている
923 雪明りほのかに匂い立ち闇にならない宙に漂ってゆく
924 憂鬱な気分にこな雪がつもり胸の奥まで真っ白になる
925 ニセコの空から滑り出す喜びに立ちはだかる地吹雪である
926 吹き降ろす風がうねり宙に浮き出す下界の雑念たち








雑 念

927 丈の短いスカートはみだす永遠の若さにはらむエロスである
928 あの掃除夫の過去は問うまいいま楽しみながらビルを磨く
929 帝王というには寂しく一人もてあます己が自身の身の自由
930 何を羨むことがあろうか天上天下唯我独尊君は自由だ
931 狭庭に咲く花もなく青々とただ青々と雑草が生い茂る
932 責任の所在不明のままにかの地にて警察官また不正をする
933 都民の流出止まり新白岡ニュータウン分譲地に茂る夏草
934 セイダカアワダチ草の茂る一角は新宿八丁目三番地ビル隣り








迷い船

935 腱綱を解いて小舟を漕ぎ出せば海の広さ測りかねている
936 漕ぐ力弱ければ荒波に翻弄されて沈むかもしれない笹の舟
937 この海の広さどこまでも広く夢えがき海鳥はおおらかに飛ぶ
938 休みなく漕ぎつづけよ天空あおぎながら望みの地に向かう