はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

歌集 色褪せた自画像 第四章  はびこる悪が (4)

2016年05月22日 | 歌集 色褪せた自画像
銀の蘭  93.10


0618 思いがけぬ死が多ければ銀蘭のひざしのなかの寂かなかたち           
0619 冬に咲く花の名は忘れた 地のままに笑いころげる中森明菜
0620 マージャンの牌にぎる指先の明日の運のあるなしさぐる感触


家永裁判
0621 南京はかの虐殺の地、かつまた私の生誕の地にて家永裁判
0622 古事記も書紀も昔より支配者が書く歴史、家永博士八十歳


サクセス
0623 サクセスという夢物語り、夢も見ぬ間に壮年の冬がくる             
0624 夢は始めから見なかったのだと藍色の空の深さをさぐってみる          



松葉杖の人 93.11

0625 松葉杖を足としてゆっくりと歩む人の目は澄んでいる              
0626 足早に階段を登る人の群れに遅れてコッツ、コッツと松葉杖の音
0627 身障者と言われることを自認する冬のひざしの温もりのなか
0628 身障の身を救う者などあるはずもなく神の死すら望んだ思春期
0629 駆けぬける青春を麻痺した足では追うことができない




十二月八日  93.12

0630 あれから半世紀過ぎても殺戮の止まない小さい星の十二月八日       




木枯らし  93.12

0634 冷たい木枯らしに心の炎吹き消されて ああ暗いなあ              
0635 義の失せた時代に抗する術もなければ針金よりも細い両の腕
0636 いま剥きおえた林檎の皮より薄い隣人の情に触れる指先
0637 毒を盛られて死ぬ者を愚者という現代思想の思考その一
0638 麗しく天上の国が在るとすればいま横たわる神々の遺骨

0639 抗することもなく従順に義に遠い日々は今日も雨降り
0640 正しい者を愚者と謗れば神の不在知らせるFAX受信
0641 己がじし」とその己こそ不正の世に金縛りにされている
0642 美しく飾る言葉などなくただ疎ましく喉に刺さる小欲
0643 遠くより口煩く吠える犬に餌をやれば尾を振る、人間に似て



ぬくもる国は


0644 パソコンのシュミレーションが描く六十五歳以降のその日暮らし         
0645 酔うほどに怒りは深くなるばかり無援のままに時だけ流れて
0646 つくり笑いをして得体の知れないテレビの画面に媚びている
0647 弱虫の自分が惨めでならない生きているだけの顔に皺がふえた
0648 欺瞞に満ちた人生なら人間なんかやめてしまえよ


0649 拳を振り上げる力すらもなくなって高い米粒を買う               
0650 世界に孤立する道はいつかきた道、偽善の党を嘆くか
0651 もはや枯れるまでのものか赤い実もみのならい赤い老木は
0652 疎ましい党と思える冬 日向にぬくもる小さな国がある
0653 暗い穴から抜け出せないままやつれ細っていく国もあるぞ







不況風  93.12


0631 一粒の米夜陰にまぎれこんで国会はみだれるままに不況の師走
0632 自給自足の農業めざすときすでに各地の農民は逃亡していた
0633 枯れ葉を散らす風吹いて大学は出たけれど行く当がないんだよ
0654 ちらちらと雪がふる 明けゆかぬ空をかかえて どこかさびしい
0655 蜜柑の一房に残るすじていねいにとる今年の日々の煩いと



もう正月  93.12


0656 世の中の多くのことに腹立てたまま迎える元旦                 
0657 地上を映す元旦の空はどこまでも灰色の曇り空であった
0658 春なのに 沈んだ心かかえてまた一つ階段をのぼる
0659 スキーウェアが派手だから若者の振りをしている正月
0660 立ちならぶビルの狭間に さらさらさらさらふるさとの 風 きいている