『メタモルフォーゼの縁側』 (鶴谷 香央理/カドカワデジタルコミックス)全5巻
芦田愛菜と宮本信子の映画化で話題になり気になっていました。好きなブロガーさんが原作好きだと書いてらしたので電子で購入。
凄くよかったです。二人のキャラクターに共感し、ちょっと泣きそうになる場面もありました。
あらすじ。
夫に先立たれ一人暮らしをする75歳の雪さんは、ある日一冊のBL漫画『君のことだけ見ていたい』にはまり、それを通じて本屋のバイトでオタク高校生のうららと意気投合。一緒に作家のサイン会イベントや同人誌即売会に参加するような仲になる。
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映画化でBLがますます市民権を得て行くのかー(好きだけどあんまり公になるのも恥ずい)とか複雑な心境でしたけど、BLは主題ではない(大事なものとして扱っているけど)ですね。
世代は違っても趣味を通して友達が出来た喜び、趣味のことを語り合う喜びが描かれていてしみじみと共感しました。
■好きな場面
コミュ障オタク女子高生が、おすすめ漫画を貸してと言われて高速脳内検索したり、人生の残り時間が少ない雪さんが「1年に1冊しか新刊出ないのかー」とがっかりし、読むまで生きようと誓うのがオタクあるあるでリアル。
雑誌の発売日にワクワクするほどのハマりぶりとかも、共感することがたくさんありました。よくこういう切り口で話を書こうと思ったなあ…と感心します。折々に挟まれる作中漫画『君のことだけ…』は、幼なじみものセンシティブBLの旨味を掬い取った作品で素敵でした。一瞬で惹き込まれるちょろい私。
うららで一番感動が強かったのは、受験生として苦しい時期のうららが最終回を読んで「どうしてこんなに、どこまでも優しいものを作ったの」と思うモノローグです(5巻)。「あれは紙の上のできごとで、あの人たちは実際にいない人」とわかっていても、その存在やエピソードに癒やされて元気になる。諸々の感情が盛り上がって非常にわかりみが強かったです。
雪さんで最初にぐっときたのは、雪さんが過去に旦那さんと池袋のサンシャインシティの展望台を「またの機会にしよう」と言って行かなかったのを思い出す場面(1巻)かな。ふと浮かぶ「またがあると思ってたのよね」が刺さりました。やってこなかった事どもへの後悔や、やりたいことはすぐやらないと、人生はあっという間に過ぎてしまうことにはっとさせられます。
■孤独からの開放感
自宅で書道教室の先生として子どもやお年寄りの中で生きる雪さんと、同世代の友達が幼なじみの(彼女あり)男子ひとりしかいないうららは、それまでなんとなく孤独な境遇だったと思います。
それが、一冊の漫画で満たされるものがあり、それをきっかけに人付き合いがはじまり、自分の行動力と世界が広がっていく。その流れに、何か開放感のようなものを感じました。
お互いがいい影響をしあって悔いのない行動が出来て行ったんじゃないでしょうか。終わり方も、変に感傷を強くする劇的な展開など無理に作っていないところが良かったです。
■蛇足な余談
うららは一人で漫画を描いて雪さんと即売会に出店までしていました。実は私も高校生のころ、友達と三人で同人誌やってオフセット印刷をつくり、コミケに参加したことがあるので、懐かしく痛い思い出が蘇ってまいりました。