2018年を振り返るみたいなことは、年内にはなかなかできなかったわけですが、去年もそんな感じでございました。
というわけで、今回は、「面白かった、楽しんだ、というわけじゃない」のも含め、項目ごとインパクト高かった順に並べてみました。漫画も混ぜてます。こうしてみると、小説は少なかったですね。ストレートに方法論とか自己啓発的な本を多く読みました。今年は文章が素晴らしくて面白い小説をもっと読みたいものです。
あと、読み切れずに中断した本も多かったですね。もう、そういう本は本当に読みたかったわけじゃない本なんだろうから罪悪感もたなくていいわ、という気持ちになってきています。
■私に爪痕を残した本
教育論「塾に捨てられる子どもたち―外注教育からの解放」小山田 勢津子
90年代、受験戦争激化の中で個人経営の塾を営む著者が、子どもの危機を訴える記録。著者は長年塾で教えた経験から、子供に休息や家族と触れ合う時間がないことの弊害を目の当たりにしており、習い事や塾通いを詰め込むことへ否定的だ。
大事なのは「考える意欲」だが、なんでも先回りしてやってあげる、囲い込んで行動を決めてしまうなどの過干渉が子供の生きる力を奪っていくとはなんと皮肉なことだろう。それが具体的にわかる事例にぞっとした。
小説「みかづき」森 絵都
小説読んで久々泣いた。塾がまだ一般的でなかった高度成長期から現在の私塾事情と日本の公教育の変遷を、人間ドラマを通してていねいに掘り起こし、とても興味深く読み応えがあった。
何も表現できなかった子どもが知識を得て気持ちを表明する、自信をつけていくのを目の当たりにするのは、教育者の一番の醍醐味だろう。
漫画「夕凪の街 桜の国」 (アクションコミックス)こうの 史代
戦後10数年の広島で、被ばくした一人の女性の人生を描く。普通の人の普通の生活が、原爆によって大きく変わってしまった、話題にしなくても、あったことは無かったことには出来ないと強く感じる。
残酷な物語は終わらない。いまも、ずっと続いていると分かる孫子の代を描いた「桜の国」もまた違う意味で鮮烈だった。
漫画「この世界の片隅に」 上中下 (アクションコミックス) こうの 史代
戦時中の市井の人の暮らしを描いていて、戦時下でどんどん厳しくなっていく暮らしの中でも、独特の笑いがこぼれる場面がたくさんあった。
子どもの医学・幼児教育論「メディアにむしばまれる子どもたち」田澤 雄作
ここでいう「メディア」とは、ゲーム、テレビ、ネットなどの映像メディアのことを指す。著者は、長年多くの子どもを診る中で、急激に増えてきた「メディア漬け」がもたらす症状に着目し、子どもがメディアに長時間・長期間さらされることへ警鐘を鳴らしている。
ゲームの目安は1回10分、1日1時間まで、それ以上は前頭葉の働きが低下するそうな。
■それはそれは熱心に読んでしまった本
評論「絵本をみる眼」松居 直
「よい絵本」とは何か。物語の作り方からさし絵など、具体的な人と作品を通して語りながら、子どもにとって絵本とはどういうものかを考える。1978年刊の新装版。
福音館書店の「ももたろう」出版秘話が面白い。松居直氏の、読者がわからなかったとしてもここに込めた俺の熱い思い。なるほど細部の意味まで分からなくても温かさが伝わってくる話なわけだ。
小説「神さまのビオトープ」 (講談社タイガ)凪良 ゆう
幽霊の夫と暮らす若い女性の物語。これは思っていた以上に名作だった。愛情と常識の間にある葛藤を極度に誠実に描く。
■笑える面白さで新しい視点をくれた本
新書「バッタを倒しにアフリカへ」 (光文社新書) 前野ウルド浩太郎
昆虫博士を目指す著者が、アフリカ・モーリタニアの研究所でバッタの大量発生を研究し続ける奮闘記。
バッタを研究する前にまず自分の不安定な立場と戦わなくてはならず、かなり世知辛い。大学院を出ても勉強が好きで研究が好きなだけでは食べていけない現実を、自虐ネタっぽく書いているけど相当葛藤があったことだろう。
アフリカで公務員に賄賂が横行していることや、砂漠の民の風物が知れるところも面白い。
漫画「大家さんと僕」矢部 太郎
87歳の大家さんの二階に住むことになった売れない芸人の日常。最初は距離が近すぎて戸惑うものの、いつしかものすごい年の差カップルを見るような感じになっていく。
大家さんの思出話は物のない時代、疎開先でのエピソードなど時空を越えていて却って新鮮だ。大家さんにとって人生は過去と今しかなく、友人知人が死亡か痴呆とか、初恋の人と再会しても、オリンピックが東京で開催しても、シビアなオチになる。それらがどこかに古風な矢部さんと上手く絡んで面白く仕上がっていた。
■2018年に読んだことを覚えておきたい本
小説「東の果て、夜へ」 (ハヤカワ・ミステリ文庫) ビル・ビバリー
犯罪組織に属する黒人少年の物語。子どもは居場所を選べないということを改めて考えた。
実録エッセイ「ある日うっかりPTA」杉江 松恋
ライターの杉江松恋氏が小学校のPTA会長として奮闘した3年間を綴る。興味ある内容で面白かった。様々な思惑や惰性が渦巻くなか、反骨精神がある著者は、理解ある校長のもと改革を色々しいて、この校長先生がいる間はずいぶんと楽しそうだった。
小説「ピンポン」パク・ミンギュ/斎藤真理子:訳(白水社)
「初めての海外文学」読書会に参加したテーマの本。
自己啓発系ビジネス書『頭に来てもアホとは戦うな!』田村耕太郎/朝日新聞出版
タイトルのまんまの本。2018年のはじめ、いちばんしんどいことがあったとき精神的に救われた。
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