言葉喫茶【Only Once】

旅の途中で休憩中。

八月の終わりに

2020-08-22 22:00:00 | 言葉



雨上がりの朝。歩き慣れた道から立ちこめる、
カルキのような匂い。八月も暮れゆく町に零れ
た百日紅の涙。濡れて黒々としたアスファルト
につかの間描かれた、名前の無い星座の群れ。


うす紅
くれない
グラデーション

一瞬
一秒
一分が積もれば
一時間
さらに降り積もり
一日
そして
一年

春、夏、秋、冬

時計の針は夏と秋のあいだ
足もとから伸びるわたしの影も
だんだん濃くなってゆく
暮れる季節と共に


雨上がりの、見慣れたはずの町が、色鮮やかに
映る朝。立ち止まり、頭を垂れている百日紅の
花束だけに聴こえるように、つぶやく。


わたしもまた
夏の終わりに生まれてきたのです 


















明日へ帰ろう

2020-08-22 20:50:31 | 言葉




五枚切りの食パンを買い
家へ 明日へと
向かう帰り道

天気が悪かろうが
機嫌が悪かろうが
だいじょうぶ
それがあれば
明日は良い日に変わるさ


たとえば今日
どうしようもなく憂鬱だったとして
疲れ果てて 言葉も無くして
すっかり縮こまってしまった背中も

次の朝が 明日が訪れて
厚めのトーストに
一枚にはバターを塗り
もう一枚にはチーズをのせたら

凝り固まったわたしは
たったそれだけで
ふにゃりとほどけて
本来の柔さを取り戻せるだろう


それは
休日を目の前にした
ある日の仕事上がり

抱えなれた悩みごとを片手に
歩きなれた帰り道を
ゆっくりと進む


 しずかにゆるやかに暮れてゆく今日を見送る。
 プツリ、プツリ、とほどける一秒一秒を背中が見ていた。
 明日食べるトーストはどんな味がするだろうか。
 焦がしてしまうかもしれないし、
 焼き色が足りないかもしれないけれど。
 その日その日で焼け方もおいしさも変わるように、
 休日も食パンも、人のように、いろんな表情を見せてくれる。


目が合わなかった
些細な喜びの瞬間にも
きっと 明日には出逢えるさ

うつむいてばかりいたけれど

トーストから始まる一日が
明日の空を見上げるための
力をくれるだろう

さあ 帰ろう
明日へと