言葉喫茶【Only Once】

旅の途中で休憩中。

リピート

2020-08-31 23:52:03 | 言葉






隣に君がいたので
ああ これは夢なんだと気づいた

わたしは
君の腕の中にいたので
誰も起こさないでほしいと願った

人の見る夢と書き
儚い(はかない)と読むが

しがみついて
離れたくないと思ういつかの夢は

繰り返し見る
こんなにも幸せと思えるほどの幻は
はたして 儚いのだろうか


君の不在に慣れる頃
いくつ目かの季節が
訪れているだろうけれど

おそれることなく

繰り返し
くりかえし
わたしは 君を夢に見よう

重ねて
かさねて
こころに焼き付いてしまうまで

儚いと言うより
激しく恋うるように
わたしは 何度でも夢を見る


だから 誰も だれも 起こさないで













いつものように過ぎてゆく今日

2020-08-30 16:32:24 | 言葉






いつものように目覚めて
朝食をとり
仕事へと向かった
真夏の橋を歩ききったのか
わたしから夏を洗い落とすように
涼しい風が吹いている

いつものように働き
買い物をして帰ろうとすると
久しぶりに落ちてくる大粒の雨
空を見上げて感謝した
雨は嫌いじゃないから
今日という日に出逢えて
嬉しかったよ

濡れて帰ろうか
雨を吸った髪からは
ほのかに秋の匂いがするよね
傘なんて無くても
何も無くても
こんなにもこころは
満たされるから
ふしぎ

雨が降るように
流れ落ちてゆく時間の中で
今日はきっと
あっという間に過ぎ去る
ありふれた一日だろう
当たり前に終わる一日だろう

そう

いつものようにわたしは
起きて
食べて
働いて
笑って
歩いて
生きて
眠って
今日という一日を見送る

でも

わたしにとって
ほんの少し特別な
どこにも売られていない
今日という一日
誰も振り向かなくても
何も無くても
こうして生きていられることに
わたしは
ただただ感謝したい


ねえ ありがとう しあわせだよ ほんとうに

いつものように
今年も そう つぶやいた












今日への入口

2020-08-29 06:21:50 | 言葉





動きはじめた
町の片隅のある
家の隅っこの部屋の窓は
風を待ち口をあけたままで
夜明けが訪れた
水色のカーテン
揺れずの一夜
月あかりが白い夜の中
歩いた眠りの森を思い出す
夢の実など
拾うことも見ることもできず
森は深く
そして狭く
あっという間に出口は
目の前に現れた

窓枠のかなた
青黒い空
笑い疲れて泣きたいのか
夜を脱ぎきれないベッドの中
泣き疲れたら笑えばいいと
言われた遠い日を思い出す
天気予報は
晴れのち雨
動きはじめた
町の片隅にある
家の隅っこの部屋のドアは
今日へ通じる入口だ














sweet home

2020-08-26 21:35:08 | 言葉






人がいるのに
やり取りの無い空間は
わたしにとって 家のようだ

人と人がいるだけの
冷えきった空間の中に
安らぎなど ありはしなかった

それでも

人だから
帰りたいと思うのだ
がらんどうのような あの家に

わかりあえないまま
空白だらけですきま風が吹く
それでも それなのに 帰りたいと思うのだ

帰りたくない場所
それが家だった

唯一まともに眠れる空間
それも家だった

コーヒーを飲んで一息付ける
それもやはり家で

悲しい時
まなうらに浮かぶ灯りは
まぎれもなく この家のものだった


人でないとしても
ひとりになりたくても
わたしは帰ってきたいのだ

いつの日も この家に
















2020-08-25 19:17:54 | 言葉







太陽はとけて
あかい空とあおい空が
境界線を失い

ひとつになった

影になりゆく
かなたの住宅街に
ポツリポツリと灯がともる


どこかで誰かが今日に幕をおろしている


外は
一秒ごとに
深く つめたく

走ることをやめた風は
あたり一面を
するする と ただよう

とけた太陽は
宙空で夜になった

不ぞろいの外灯たちが
あくびをしながら
目を覚ます

わたしは
シルエットの一部となり

今も 夜は

幾重にも
降りつもり続けている