大円山徳光院は、明治39年(1906)創設の臨済宗天龍寺派の寺院です。開山は高木竜淵禅師、開基は川崎造船社主川崎正蔵です。 この
多宝塔は、垂水区名谷の龍華山明王寺のものでしたが、同寺が無住となり荒廃していたため、明治33年(1900)川崎氏が買い取り、私邸に移築、更に昭和13年(1938)徳光院に寄進、移築しました。 龍華山明王寺は延暦20年(801)平城天皇の勅願寺として開基、開山は巌賀上人。境内には多宝塔跡が今も残ります。 墨書に文明10年(1478)の銘があり、他に柱・組物に文明5年(1473)9月の銘があることから、文明年間に建立されたとみる事ができます。この多宝塔は兵庫県最古の多宝塔であり、また神戸市内唯一の多宝塔でもあります。ただ、昭和13年の解体移築中に阪神大水害の被害を受け、保存中の部材の一部が流出、そのため後補材が多く、亀腹もコンクリート製です。 第一層は勾欄のない縁を廻らし、正面に木階を設置、中央間は板唐戸、脇間は連子窓、正面上部に「薬師如来」の額が掲がります。斗きょうは一手先で、中備にはかえる股も間斗束もなく、軒は二重繁垂木です。上層は四手先、小造りの亀腹、軒は二重繁垂木、屋根は本瓦葺、相輪は型通りで、四方に鎖を垂らしています。 この塔は一辺が2間(約3.6m)程度の小塔で、飾りも少ない簡素なものですが、木鼻などの細部の手法に見るべきものがあって、全体的なバランスも整っており、多宝塔の優品です。 なお、徳光院及びその周辺は市の文化環境保存区域に指定されていて、徳光院では他に木造持国天立像・増長天立像の2体が県の重要文化財に指定されています。