暮れの混雑したスーパーにて。
レジ待ちで並んでいると、誰かに挨拶された。一瞬どころか、まじまじと見ても、どなたか思い出せない。
「どなたでしたっけ?」というのも間が抜けてるなぁ。仕事のお客さん?子供の友達のお母さん?いいや、もしかして、この人、誰かと人違いしてるんでないか?んでも、改めて「違いますっ!」て言うのもなんだかな…。違っていてもいいや。とりあえず挨拶しておこう。
などと考えているうちに、ようやくその方、「どこそこの、〇〇〇〇です。」と名乗りを上げてくださった。実家の近所の知り合いだ。
「ああ、〇〇〇〇さんでしたか。すみません。ちっともわからなくて。」
と、詫びて、
「退院なさったとは伺っていましたが、お買い物とか、もうお一人で大丈夫なんですか?」
と、尋ねると、タクシーを使って用足しをするから大丈夫、との返事だった。
実はこの人は、12月初旬に手術を受けたばかりなのだ。退院したとは聞いていたが、元通りに動けるようになったものやら、聞くに聞けず年末を迎えていた。
なんでも、先月あたりから、転びやすく足取りがおぼつかなくなり、どうもおかしいと町のクリニックへ行ったところ、すぐさま、大きな病院で精密検査、入院、手術の運びとなったといういきさつは周りの人から聞いていた。
頭の手術のため丸坊主にしたので、深々と帽子をかぶり、さらには風邪予防のためマスクをかけていたので、あたかも天神祭りの化け物状態。そのまま挨拶されてもどなたやらさっぱり分からなかったというわけだ。
女の命の黒髪(ちょっと大げさですね)を、丸坊主にするような手術を受けた理由とは、ここまで読んでお分かりだろうか。