ビョンホンssi・・39回目のお誕生日おめでとう。
きっとあなたの大切な人たちと楽しい一日が過ごせたよね。
またワクワクする一年となりますように・・・。
・・というわけで。
今日は義母の命日な私。
お墓参りに行きました。
そのあとふと思い立ちひたすら携帯で書きなぐり。
久々に創作を書きあげました。
題して・・・「お店屋さんシリーズ」(笑)
流れ的には『AWAYUKI』に近いでしょうか。
彼に演じてほしいものを書いてみました。
今の彼にしてはちょっとソフトな気もしますが・・・。
何でも演じてくれるって言ってたからこんなソフトな彼もいけるでしょう。
これでプレゼントってことでいいよね。ビョンホンssi
皆様にも喜んでいただければ何よりです。
portrait
重すぎる…。
画材やキャンバスのたっぷり入ったトートバックを右の肩から左の肩に掛け変えながら、私は額の汗をハンカチでぬぐった。
とある初夏の蒸し暑い昼下がり。
古書店や画材店が並ぶことで有名な街を私はダラダラと歩いていた。
つい一時間前、講師に最悪だとダメ出しされた私の愛すべき作品を
せめて美しい額縁に入れて飾ってやろうという親心から
この日、家からかなり離れたこの街まで足を伸ばすことにしたのだ。
この街を訪れるのは初めて。
大体必要なものはいつもの画材店で用が足りたのでここまで足を運ぶ必要がなかったし。
きちんとした額縁を買おうと思ったことがなかったな…。
額縁店の看板を探しながらふと思う。
ぶらぶらと20分くらい歩いたころ不思議な看板が目に飛び込んできた。
ボロボロで何が書いてあるかもうわからなくなってきている…山のような絵?
その上にうっすらと「額縁屋」と見える。
額縁店といえばもっと洗練された重厚な店構えをイメージしていたのに、
その額縁店はまるで軒先にバナナを山積みにしている八百屋のようだった。
でもその大胆さに引きつけられて私はその謎の額縁店に足を踏み入れた。
クーラーがきいているとはとても思えない店構えなのに、
妙にひんやりとした店内。
通路の両側には山積みにされた額縁。
今にも雪崩が起きて額縁の山に生き埋めになりそうだ。
触れないように注意深く進むと、
店の奥にうず高く額縁が積まれたカウンターらしきものがあった。
誰もいる様子がない。
「すいません…」
大きな声で私は叫んだ。
「…そんなに大声で叫ばなくても聞こえてるよ」
眠たそうに男の人がカウンターの下から顔を出した。
オンボロ額縁屋の店主はおじいちゃんだと勝手に思い込んでいた私は
若い彼が顔を出したことに驚いた。
薄暗い店内なのに丸い色眼鏡をかけている。
髪はいかにも寝起きらしくグシャグシャ
シワが目立つ麻のシャツをだらしなく着ているが何故か不潔そうではない。
若いと言っても30半ばくらいだろうか…。
「何?僕が欲しいの?」
ぼぉーっと彼を眺めていた私に彼はそう言うと色眼鏡の蓋を開け
私をじっと見つめた。
思いがけない彼の言葉に返す言葉が見つからない。
「…そんなわけないよな」
黙ったまま立ち尽くす私を見ながら彼は頭をかきゲラゲラと笑った。
「で?どれ」
「え?」
「そう、絵」
「え?絵?」
「絵見せてよ。飾りたいんだろ絵」
「あ…はい…」戸惑う私。
「持ってるよね」
彼はそう言いながら私が下げたトートバックをカウンターの中から覗き込んだ。
「ちょっと待って下さい…今出しますから…」
彼の視線に緊張し、隠すように私はトートバックから紙に包んだカンバスを取り出した。
「早く早く…」
目の前の彼は目を輝かせている。
今にもカウンターの上の額縁を乗り越えて飛び出して来そうだ。
「や…やっぱりいいです。帰ります」
私は急に恥ずかしくなって包みをほどく手を止めてバックにそそくさと戻した。
「え?何で?ちょっと待ってよ」
カウンターの向こうで彼が慌てていた。
私は軽く会釈をして踵を返した。
何だか裸の自分を見られるような気がする…。
一目散に出口を目指す。
後ろで彼が何かを叫んでいるがよく聞こえない…。
「…危ないっ」
「え?」
気づいた時はすでに遅く、私は額縁の山に生き埋めにされた。
「大丈夫かい?」
目を開けると私はソファーに横たわっていた。
目の前には彼の顔。
慌てて飛び起きる。
「何にもしてないよ…気を失ってたからここに運んで
頭にタオルを乗せただけだから」
彼はそう無罪を主張すると両手をあげた。
そんなに怯えた表情をしてるのかな私。
反対に彼が怯えているように見えた私はつい笑ってしまった。
「頭痛くない?」
心配そうに彼が私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫です」私はそう答えた。
「良かった…すまなかったね。危ない思いさせて」彼は頭を下げた。
「いえ、私が慌ててお店の中走ったから…ごめんなさい。額縁大丈夫でした?」
「あ~ま、ガラクタみたいなものだから問題ないさ。
じゃ…お詫びに美味しいコーヒーをご馳走するか。飲む?」
「美味しい~」
私は芳しいその香りを吸い込みながらつぶやいた。
「良かった」
彼は満足げに向かいのソファーで微笑んだ。
時が止まったような部屋だった。
彼の後ろの壁には部屋の大きさに不釣り合いな程
大きなモネの「睡蓮」がかけられていた。
不釣り合いなはずなのに妙に部屋の空気と調和している。
コーヒーをすすりながら吸い寄せられるように眺める。
まるでジヴェルニーの蓮池にいるような気さえしてくる。
「モネは好き?」彼が尋ねた。
どこか満足げな顔。
「好きです」
「そう」
ゆっくりと彼はコーヒーを口に含んで微笑んだ。
「上手な模写ですね…」
「君は本物を見たことある?」
「ええ。美術館か…画集か…」
真面目に答える私を見て彼が笑った。
「なんですか?」
「これは本物」
「嘘」
「ホント」
彼はそう言って左の眉を意味ありげに上げた。
そして顔色を変えずまたコーヒーを静かにすすった。
私は慌てて立ち上がり、
彼が隣に座るのも気にせず向かいのソファーの上に立った。
壁とソファーの間に隙間がないので仕方がない。
ガラス越しにじっと眺める…筆使い、絵の具の色調・・キャンバスにのせた量…
絵を勉強しているとはいえ、
それが本物か偽物か区別がつくような知識も眼力も持ち合わせていないことに気づくまで数分かかった。
「どう?わかった?」
夢中で眺め、悟り、ため息をついた私の耳もとで彼が囁いた。
私は首を振りそのまま力無くソファーに腰掛けた。
「君はこの絵好き?」
「ええ。ジヴェルニーの蓮池にいる気がしました…」
「そう…じゃ、やっぱり本物だ」
「え?もしかして…」私はからかわれたのだろうか。
彼はクスクスと笑った。
「誰が描いたとしても…観る人に夢を見せることが出来ればそれは本物ってことじゃないかな…」
私はもう一度本物の睡蓮を見つめた。
「君は…風景画専門?」
彼に気を許したからか…
コーヒーが美味しかったからか…
睡蓮に感動したからか。
私は絵を彼に見せることにした。
でも見せてすぐ後悔した。
彼の目は深くて怖い…。
彼が自分の描いた風景画を眺めているとその奥にある自分が裸にされているような妙な感覚に襲われた。
顔がみるみる熱くなる…。
「え?」
「聞いてなかった?君は風景画しか描かないの?」
私のキャンバスを興味深げに眺める彼は再び私にそう尋ねた。
「そういうわけではないけれど…風景は描いていて安心って言おうか…」
「僕とこうして2人っきり部屋にいて安心する?」
彼は絵をちょっと離れたところに置いて眺めながらそう私に尋ねた。
自分のドキドキを見透かされているようでバツ悪く感じた私は黙って俯いた。
「見ていて安心するものも悪くないけど…
君はもっとドキドキするものを描いてみるといいんじゃないかな。
平和な生活の中で安心する風景を観ても人の心はなかなか動かない。
君のこの絵は荒れ果てた戦地のテントの中で眺めたいね、僕は」
「ドキドキするものって…」
「そうだな…例えば僕を描いてみるとか…」
人物画は苦手だった。
学校の課題で出されるモデルを描くのはまだいい。
ものとして無感情に形状をデッサンすればいい。
作品として自分でモデルを見つけ描くとなると訳が違った。
描いているうちに絵にその人への思いが乗り移るようで怖くなるのだ。
どんなに仲の良い友人に頼んでもその怖さは消えなかった。
むしろ仲が良いほど怖い。
彼女と本当に仲が良かったのか…彼女の口や手を見つめて描いているうちにわからなくなってくる。
私にとって人物画とは極めて内省的なものだった。
だからこそ避けてきた…。
今、私は彼を描いている。
デッサン用の太い鉛筆を持つ手が震える。
結局ダメダメな風景画用の額縁をただでくれるという甘い誘いに乗った私は
簡単に彼を描くことに同意した。
授業で描くジョルジュ像をデッサンする気持ちで「物」だと思って描けばいい。
彼のことはほとんど知らないし、人物画を描いて自分の内側を映し出すこともないだろう…。
書き始めて数分後、自分の認識の甘さに気づく。
あの深くて怖い目の存在を何故忘れていたのだろう…。
脈拍が異様に早くなり、手が止まった。
「どうしたの?」
「描けません…私」
彼はあの目で私をじっと見た。
色眼鏡は外されてテーブルに置かれている。
手には紫の美しい布張りの洋書。
「わかった。じゃあ…僕の背中を描いてくれる?」
「背中ですか…」
「そう…背中」
そう言うと彼は椅子を動かして私に背を向けた。
美しい形の椅子に彼が腰掛けている。
アームレストに軽く肘をつき本のページを黙って捲り始めた。
その背中は驚くほど美しかった。
「僕のこと好き?」
数時間後。
書き終えたデッサンを眺めながら彼は私にそう問いかけた。
「え?…好き…かもしれません」
何故か私は素直に答えた。
彼の背中を描くことはとてもエキサイティングで楽しかったから。
「だろうね…絵にドキドキがいっぱい溢れてる…これくれるかな」
「ええ。もちろん」私は笑って答えた。
安心出来る風景画を
彼が選んでくれた温かい額縁に彼が入れるのをじっと眺める。
テーブルの傍らにはさっきの美しい本
「The picture of Dorian Gray」Wilde Oscar
…私はつぶやいた。
「あ…それ、面白いよ今度是非…」
彼は紫の風呂敷で綺麗に額縁を包み私に手渡しながら言った。
「…読んでみて」
「はい。読んでみます」
私はそう微笑んで答えた。
「新しい作品が出来たら持って来ます」
この店の入り口をくぐった時は絵に対する情熱も自信も全然なかったのに。
店を出る時、絵筆が私を呼んでいる気がした。
早く帰って描き始めないと。
「ああ…きっとぴったりの額縁が見つかるよ」
短パンのポケットに手を突っ込んで彼はちょっとうつむいてそう言った。
すでに日が落ちた街に私は一歩踏み出した。
しばらくして振り向くと彼は微笑んで右手をそっと上げていた。
それからまもなく夏休みが始まり。
私は卒業製作に没頭した。
モチーフは目を閉じるといつ何時でもはっきりと目に浮かぶ。
私は私の全てをキャンバスに注ぎ込んだ。
いつの間にか季節は秋になっていた。
あの風景画を最悪だと言った講師の推薦で私の卒業製作は大きな展覧会に出品されることが決まった。
「え?」
数ヶ月ぶりにあの店に行った。
大作過ぎて持っていけないので絵を写真に収めて持っていく。
懐かしい店の奥のカウンターには店構えにぴったりの老人が座っていた。
「あいつは留守番だよ…今頃は…パリかな。時々日本に帰って来たとき店を手伝ってくれてな。ワシは安心して孫に会いに出かけるわけじゃ」
「そうですか…」力なく答える私。
「ワシじゃ役にたたないかい?」
老人はそういうとにっこりと微笑んだ。
数ヶ月後
展覧会で私の絵は金賞に選ばれた。
100号のキャンバスに描かれた彼はあの深い瞳でこちら見ていた。
老人の選んだ完璧に絵と調和した額の中に美しい彼が腰掛けている。
手元にはあの本
テーブルには丸い色眼鏡とコーヒーカップ。
あの絵を描いたのが彼だと老人から聞いた時、不思議と納得がいった。
老人の話によると彼は複製画家。
卓越した才能、技術を持っているにもかかわらずオリジナルを描くことはなく、
美術館に発注を受けるほどの精巧な複製を作製してまとまった収入を得ては
放浪の旅に出るらしい。
絵の中の彼の後ろには彼の「睡蓮」の片隅が見える。
閉館間際の美術館で自分の絵を眺めながら
彼の勧めてくれたあの本のことを思い出す。
忙しくてすっかり忘れていたっけ。
確か…オスカーワイルドだったか。
帰りに本屋に寄らなきゃ。
閉館を知らせるメロディーが流れる中、美術館の出口で、
受付の女性に呼び止められた。
最年少で金賞を受賞した私はちょっと有名人。
預かったという紙包みを手渡された。
包みに名前はない。
「あの人でした」
受付の女性は興奮気味に届けたのが「彼」だと語った。
たとえ名前が書いてあってもわからない。
老人に彼の名前を聞いてないことを思い出し苦笑いする。
ロビーのソファーに腰掛けて包みを開ける。
中にはあの美しい紫の布張りの本とカードが一枚。
「受賞おめでとう・・僕のこと好きだろ。僕も君が好きだ。」
好きなら声をかけてくれたらいいのに・・
でも声をかけない彼がとても彼らしい気がした。
カードを裏返すとそこには私の寝顔が描かれていた。
自分でもびっくりするほどそっくりで
自分でもびっくりするほど美しい。
「私のこと好きでしょ」
私は笑ってそうつぶやいた。
数日後、展覧会を再び訪れた私は自分の絵を見て驚いた。
私が描いた彼は微笑んでいただろうか・・・・。
絵の中の彼は間違いなく微笑んでいた。
私は美術館の片隅のベンチに腰かけて紫色の美しいあの本のページをめくった。
Fin
さて。いかがでした?
書いてみるとここ数カ月に私が触れたものがかなりたくさん入っていることにびっくり。(笑)
こうやって何かしら書いていけたら嬉しいなぁ~。
私って中性的な彼がどうも好きらしいです。
きっとあなたの大切な人たちと楽しい一日が過ごせたよね。
またワクワクする一年となりますように・・・。
・・というわけで。
今日は義母の命日な私。
お墓参りに行きました。
そのあとふと思い立ちひたすら携帯で書きなぐり。
久々に創作を書きあげました。
題して・・・「お店屋さんシリーズ」(笑)
流れ的には『AWAYUKI』に近いでしょうか。
彼に演じてほしいものを書いてみました。
今の彼にしてはちょっとソフトな気もしますが・・・。
何でも演じてくれるって言ってたからこんなソフトな彼もいけるでしょう。
これでプレゼントってことでいいよね。ビョンホンssi
皆様にも喜んでいただければ何よりです。
portrait
重すぎる…。
画材やキャンバスのたっぷり入ったトートバックを右の肩から左の肩に掛け変えながら、私は額の汗をハンカチでぬぐった。
とある初夏の蒸し暑い昼下がり。
古書店や画材店が並ぶことで有名な街を私はダラダラと歩いていた。
つい一時間前、講師に最悪だとダメ出しされた私の愛すべき作品を
せめて美しい額縁に入れて飾ってやろうという親心から
この日、家からかなり離れたこの街まで足を伸ばすことにしたのだ。
この街を訪れるのは初めて。
大体必要なものはいつもの画材店で用が足りたのでここまで足を運ぶ必要がなかったし。
きちんとした額縁を買おうと思ったことがなかったな…。
額縁店の看板を探しながらふと思う。
ぶらぶらと20分くらい歩いたころ不思議な看板が目に飛び込んできた。
ボロボロで何が書いてあるかもうわからなくなってきている…山のような絵?
その上にうっすらと「額縁屋」と見える。
額縁店といえばもっと洗練された重厚な店構えをイメージしていたのに、
その額縁店はまるで軒先にバナナを山積みにしている八百屋のようだった。
でもその大胆さに引きつけられて私はその謎の額縁店に足を踏み入れた。
クーラーがきいているとはとても思えない店構えなのに、
妙にひんやりとした店内。
通路の両側には山積みにされた額縁。
今にも雪崩が起きて額縁の山に生き埋めになりそうだ。
触れないように注意深く進むと、
店の奥にうず高く額縁が積まれたカウンターらしきものがあった。
誰もいる様子がない。
「すいません…」
大きな声で私は叫んだ。
「…そんなに大声で叫ばなくても聞こえてるよ」
眠たそうに男の人がカウンターの下から顔を出した。
オンボロ額縁屋の店主はおじいちゃんだと勝手に思い込んでいた私は
若い彼が顔を出したことに驚いた。
薄暗い店内なのに丸い色眼鏡をかけている。
髪はいかにも寝起きらしくグシャグシャ
シワが目立つ麻のシャツをだらしなく着ているが何故か不潔そうではない。
若いと言っても30半ばくらいだろうか…。
「何?僕が欲しいの?」
ぼぉーっと彼を眺めていた私に彼はそう言うと色眼鏡の蓋を開け
私をじっと見つめた。
思いがけない彼の言葉に返す言葉が見つからない。
「…そんなわけないよな」
黙ったまま立ち尽くす私を見ながら彼は頭をかきゲラゲラと笑った。
「で?どれ」
「え?」
「そう、絵」
「え?絵?」
「絵見せてよ。飾りたいんだろ絵」
「あ…はい…」戸惑う私。
「持ってるよね」
彼はそう言いながら私が下げたトートバックをカウンターの中から覗き込んだ。
「ちょっと待って下さい…今出しますから…」
彼の視線に緊張し、隠すように私はトートバックから紙に包んだカンバスを取り出した。
「早く早く…」
目の前の彼は目を輝かせている。
今にもカウンターの上の額縁を乗り越えて飛び出して来そうだ。
「や…やっぱりいいです。帰ります」
私は急に恥ずかしくなって包みをほどく手を止めてバックにそそくさと戻した。
「え?何で?ちょっと待ってよ」
カウンターの向こうで彼が慌てていた。
私は軽く会釈をして踵を返した。
何だか裸の自分を見られるような気がする…。
一目散に出口を目指す。
後ろで彼が何かを叫んでいるがよく聞こえない…。
「…危ないっ」
「え?」
気づいた時はすでに遅く、私は額縁の山に生き埋めにされた。
「大丈夫かい?」
目を開けると私はソファーに横たわっていた。
目の前には彼の顔。
慌てて飛び起きる。
「何にもしてないよ…気を失ってたからここに運んで
頭にタオルを乗せただけだから」
彼はそう無罪を主張すると両手をあげた。
そんなに怯えた表情をしてるのかな私。
反対に彼が怯えているように見えた私はつい笑ってしまった。
「頭痛くない?」
心配そうに彼が私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫です」私はそう答えた。
「良かった…すまなかったね。危ない思いさせて」彼は頭を下げた。
「いえ、私が慌ててお店の中走ったから…ごめんなさい。額縁大丈夫でした?」
「あ~ま、ガラクタみたいなものだから問題ないさ。
じゃ…お詫びに美味しいコーヒーをご馳走するか。飲む?」
「美味しい~」
私は芳しいその香りを吸い込みながらつぶやいた。
「良かった」
彼は満足げに向かいのソファーで微笑んだ。
時が止まったような部屋だった。
彼の後ろの壁には部屋の大きさに不釣り合いな程
大きなモネの「睡蓮」がかけられていた。
不釣り合いなはずなのに妙に部屋の空気と調和している。
コーヒーをすすりながら吸い寄せられるように眺める。
まるでジヴェルニーの蓮池にいるような気さえしてくる。
「モネは好き?」彼が尋ねた。
どこか満足げな顔。
「好きです」
「そう」
ゆっくりと彼はコーヒーを口に含んで微笑んだ。
「上手な模写ですね…」
「君は本物を見たことある?」
「ええ。美術館か…画集か…」
真面目に答える私を見て彼が笑った。
「なんですか?」
「これは本物」
「嘘」
「ホント」
彼はそう言って左の眉を意味ありげに上げた。
そして顔色を変えずまたコーヒーを静かにすすった。
私は慌てて立ち上がり、
彼が隣に座るのも気にせず向かいのソファーの上に立った。
壁とソファーの間に隙間がないので仕方がない。
ガラス越しにじっと眺める…筆使い、絵の具の色調・・キャンバスにのせた量…
絵を勉強しているとはいえ、
それが本物か偽物か区別がつくような知識も眼力も持ち合わせていないことに気づくまで数分かかった。
「どう?わかった?」
夢中で眺め、悟り、ため息をついた私の耳もとで彼が囁いた。
私は首を振りそのまま力無くソファーに腰掛けた。
「君はこの絵好き?」
「ええ。ジヴェルニーの蓮池にいる気がしました…」
「そう…じゃ、やっぱり本物だ」
「え?もしかして…」私はからかわれたのだろうか。
彼はクスクスと笑った。
「誰が描いたとしても…観る人に夢を見せることが出来ればそれは本物ってことじゃないかな…」
私はもう一度本物の睡蓮を見つめた。
「君は…風景画専門?」
彼に気を許したからか…
コーヒーが美味しかったからか…
睡蓮に感動したからか。
私は絵を彼に見せることにした。
でも見せてすぐ後悔した。
彼の目は深くて怖い…。
彼が自分の描いた風景画を眺めているとその奥にある自分が裸にされているような妙な感覚に襲われた。
顔がみるみる熱くなる…。
「え?」
「聞いてなかった?君は風景画しか描かないの?」
私のキャンバスを興味深げに眺める彼は再び私にそう尋ねた。
「そういうわけではないけれど…風景は描いていて安心って言おうか…」
「僕とこうして2人っきり部屋にいて安心する?」
彼は絵をちょっと離れたところに置いて眺めながらそう私に尋ねた。
自分のドキドキを見透かされているようでバツ悪く感じた私は黙って俯いた。
「見ていて安心するものも悪くないけど…
君はもっとドキドキするものを描いてみるといいんじゃないかな。
平和な生活の中で安心する風景を観ても人の心はなかなか動かない。
君のこの絵は荒れ果てた戦地のテントの中で眺めたいね、僕は」
「ドキドキするものって…」
「そうだな…例えば僕を描いてみるとか…」
人物画は苦手だった。
学校の課題で出されるモデルを描くのはまだいい。
ものとして無感情に形状をデッサンすればいい。
作品として自分でモデルを見つけ描くとなると訳が違った。
描いているうちに絵にその人への思いが乗り移るようで怖くなるのだ。
どんなに仲の良い友人に頼んでもその怖さは消えなかった。
むしろ仲が良いほど怖い。
彼女と本当に仲が良かったのか…彼女の口や手を見つめて描いているうちにわからなくなってくる。
私にとって人物画とは極めて内省的なものだった。
だからこそ避けてきた…。
今、私は彼を描いている。
デッサン用の太い鉛筆を持つ手が震える。
結局ダメダメな風景画用の額縁をただでくれるという甘い誘いに乗った私は
簡単に彼を描くことに同意した。
授業で描くジョルジュ像をデッサンする気持ちで「物」だと思って描けばいい。
彼のことはほとんど知らないし、人物画を描いて自分の内側を映し出すこともないだろう…。
書き始めて数分後、自分の認識の甘さに気づく。
あの深くて怖い目の存在を何故忘れていたのだろう…。
脈拍が異様に早くなり、手が止まった。
「どうしたの?」
「描けません…私」
彼はあの目で私をじっと見た。
色眼鏡は外されてテーブルに置かれている。
手には紫の美しい布張りの洋書。
「わかった。じゃあ…僕の背中を描いてくれる?」
「背中ですか…」
「そう…背中」
そう言うと彼は椅子を動かして私に背を向けた。
美しい形の椅子に彼が腰掛けている。
アームレストに軽く肘をつき本のページを黙って捲り始めた。
その背中は驚くほど美しかった。
「僕のこと好き?」
数時間後。
書き終えたデッサンを眺めながら彼は私にそう問いかけた。
「え?…好き…かもしれません」
何故か私は素直に答えた。
彼の背中を描くことはとてもエキサイティングで楽しかったから。
「だろうね…絵にドキドキがいっぱい溢れてる…これくれるかな」
「ええ。もちろん」私は笑って答えた。
安心出来る風景画を
彼が選んでくれた温かい額縁に彼が入れるのをじっと眺める。
テーブルの傍らにはさっきの美しい本
「The picture of Dorian Gray」Wilde Oscar
…私はつぶやいた。
「あ…それ、面白いよ今度是非…」
彼は紫の風呂敷で綺麗に額縁を包み私に手渡しながら言った。
「…読んでみて」
「はい。読んでみます」
私はそう微笑んで答えた。
「新しい作品が出来たら持って来ます」
この店の入り口をくぐった時は絵に対する情熱も自信も全然なかったのに。
店を出る時、絵筆が私を呼んでいる気がした。
早く帰って描き始めないと。
「ああ…きっとぴったりの額縁が見つかるよ」
短パンのポケットに手を突っ込んで彼はちょっとうつむいてそう言った。
すでに日が落ちた街に私は一歩踏み出した。
しばらくして振り向くと彼は微笑んで右手をそっと上げていた。
それからまもなく夏休みが始まり。
私は卒業製作に没頭した。
モチーフは目を閉じるといつ何時でもはっきりと目に浮かぶ。
私は私の全てをキャンバスに注ぎ込んだ。
いつの間にか季節は秋になっていた。
あの風景画を最悪だと言った講師の推薦で私の卒業製作は大きな展覧会に出品されることが決まった。
「え?」
数ヶ月ぶりにあの店に行った。
大作過ぎて持っていけないので絵を写真に収めて持っていく。
懐かしい店の奥のカウンターには店構えにぴったりの老人が座っていた。
「あいつは留守番だよ…今頃は…パリかな。時々日本に帰って来たとき店を手伝ってくれてな。ワシは安心して孫に会いに出かけるわけじゃ」
「そうですか…」力なく答える私。
「ワシじゃ役にたたないかい?」
老人はそういうとにっこりと微笑んだ。
数ヶ月後
展覧会で私の絵は金賞に選ばれた。
100号のキャンバスに描かれた彼はあの深い瞳でこちら見ていた。
老人の選んだ完璧に絵と調和した額の中に美しい彼が腰掛けている。
手元にはあの本
テーブルには丸い色眼鏡とコーヒーカップ。
あの絵を描いたのが彼だと老人から聞いた時、不思議と納得がいった。
老人の話によると彼は複製画家。
卓越した才能、技術を持っているにもかかわらずオリジナルを描くことはなく、
美術館に発注を受けるほどの精巧な複製を作製してまとまった収入を得ては
放浪の旅に出るらしい。
絵の中の彼の後ろには彼の「睡蓮」の片隅が見える。
閉館間際の美術館で自分の絵を眺めながら
彼の勧めてくれたあの本のことを思い出す。
忙しくてすっかり忘れていたっけ。
確か…オスカーワイルドだったか。
帰りに本屋に寄らなきゃ。
閉館を知らせるメロディーが流れる中、美術館の出口で、
受付の女性に呼び止められた。
最年少で金賞を受賞した私はちょっと有名人。
預かったという紙包みを手渡された。
包みに名前はない。
「あの人でした」
受付の女性は興奮気味に届けたのが「彼」だと語った。
たとえ名前が書いてあってもわからない。
老人に彼の名前を聞いてないことを思い出し苦笑いする。
ロビーのソファーに腰掛けて包みを開ける。
中にはあの美しい紫の布張りの本とカードが一枚。
「受賞おめでとう・・僕のこと好きだろ。僕も君が好きだ。」
好きなら声をかけてくれたらいいのに・・
でも声をかけない彼がとても彼らしい気がした。
カードを裏返すとそこには私の寝顔が描かれていた。
自分でもびっくりするほどそっくりで
自分でもびっくりするほど美しい。
「私のこと好きでしょ」
私は笑ってそうつぶやいた。
数日後、展覧会を再び訪れた私は自分の絵を見て驚いた。
私が描いた彼は微笑んでいただろうか・・・・。
絵の中の彼は間違いなく微笑んでいた。
私は美術館の片隅のベンチに腰かけて紫色の美しいあの本のページをめくった。
Fin
さて。いかがでした?
書いてみるとここ数カ月に私が触れたものがかなりたくさん入っていることにびっくり。(笑)
こうやって何かしら書いていけたら嬉しいなぁ~。
私って中性的な彼がどうも好きらしいです。
7月12日・・・夫々、意義のある一日を過しているんだね。
夫々のおめでとうはきっと彼の元に届いてるよね。
そして、日を跨いで出合ったharuさんの素敵なお話。
とってもほんわか・・・大人の童話「お店屋さんシリーズ」だ~いすきです!
ありがとうございます。
名前も無い役だけど・・・彼に演ってもらいたいよ~
読んでいて「えっ!」と思ったり、「ふっ!」と思ったり脳みそのかる~いところで感じてる感じ・・・?
わかる?読み終えたらわくわくしてまたもう一回読みたくなるような・・・
読む度に自分がピュアになっていくような・・・
こんな素敵なプレゼントが出来るharuさんが羨ましくて誇らしいです。
びょんちゃんって幸せだな~
特別な日に(読んだのは日付かわってましたけど・・・)
不思議な彼の素敵なお話サンキュー
いつも思うんだけど
こんな彼が何処かにいそうで・・・
こんな彼の映画を想像してみたり・・・
是非みてみたい
あーやっぱりHaruさんのお話好きだーーー
ビョンホンシ 39歳 おめでとう~
来年は40歳だね・・・
いつまでも少年の面影を残した中年になってね。・笑
短時間にこんなステキなお話が描けるなんて
天才じゃない?
読みながら私に中では彼がきっちり演じてくれてました。
筋肉少し落としてるけど・苦笑
ラブファンタジー
ジャンルとしてとっても好きなので
これからも突然こんな彼に会わせてね。
私もharuさんのお話大好きです。
とても心が和みます。いつかビョンホン氏が、監督するならラヴファンタジーを撮ってみたいって言ってたように思うんだけれど。
でもまだまだ彼が主演でこんなお話の映画も見てもみたいです
ファンの欲求は尽きることなくて
ますます磨きのかかる彼には頑張ってもらいましょうね。
きっと素敵な誕生日を過ごしたんでしょうね
ビョンホン氏。
この彼は最近の彼とは違いますね。
どの彼かなといろいろ映画やドラマを思い浮かべたけどいませんでした。
こんな爽やかで中世的な役も演じてもらいたいですね。
梅雨の晴れ間が見えたようで安心しました。
美術館の壁一面をぐるりと取り囲むようにして展示しているモネの「睡蓮」の連作を観るためでした。
私は、真ん中にあるソファにすわり、ゆったりと8点の大作を眺めました。
美しい睡蓮の世界に引き込まれ、ため息が出るようなひと時を過ごしました。
このお話を読みながら、その時、目に焼き付けた睡蓮の絵を思い出しました。
たしかに絵にとって額縁は大切。
私も額縁屋さんって、好きですよ~
でも、彼みたいな店番に遭遇したことないです。
あ、当り前か…(笑)
遭遇したいなぁ~
「お店やさんシリーズ」?いいですねぇ
AWAYUKIの雰囲気、とても好きですが
今回のも、haruさんらしくてSHORT FILMみたい。
AWAYUKIもこれも、どこか、イ空間というのか
ちょっと昔みたいな雰囲気とか感じるよね。
ビョン、ばっちりいい役だね。
現実離れした雰囲気もあるのに、ちゃんと痕跡残してるなんて。
「俺のこと好きだろ?」
「好きかも」
そんな会話してるのに、それでどうなる・・・みたいなことは敢えて書かないところが
オシャレというのか上級と言うのか!!
今のharuさんの彼に対しての心地よいスタンスを感じましたよ。
あ!でも両思いだなんて言わせないわ!(笑)
このシリーズ・・・いいね~
今度、カメオ出演しかしてないのにめっちゃビョンホン感じる~~~みたいなの、ぜひ書いてね。(ウソ ウソ!書きたいときに書きたいものを書いてくださいね)
HAPPY BIRTHDAY!!
今年も深く静かに彼を愛します!
今年も彼の誕生日を一緒にお祝出来たことを嬉しく思います。
俳優が毎週違う役柄で登場する短編ドラマって
今まであまりお目にかかったことはないけれど。
演技力バツグンの彼なら毎週違う人を演じてくれそうで。
恐るべし野望としては
初回「美容師」第二話「額縁屋」・・
てな具合にどんどん。
13話でドラマ1クール・・毎週新たな彼に出会える・・なんて夢のような生活をしてみたい
そう思いだすと歩きながらキョロキョロネタ探し。(笑)
かなり怪しい人になっております。
気にいってもらえて良かったです。
また書けたらお付き合い下さいね~。
お付き合い感謝。
この役柄は最近の彼から想像するのはちょっと難しいけれど、きっと彼の中にこういうちょっとナイーブな部分、今眠っていると思うのです。
何でも演じてみたいとHIPKOREA で語った彼を信じて敢えて難題を吹っ掛けてみました。
シャープな筋肉を落として極力着やせするソフトな感じに変身して~とお願い。
こんな彼もいいですよね。
好き?ありがとうございます。
天才のことを今若者は「神」というらしい。
あなたが○○作ったよとメールくれなかったら
たぶん私はこれを書かなかったと思うのです。
だから半分はあなたが神さまよ(笑)
書きたいと思っても書けないこともあるし。
書けないと思っていてもふと書ける時もある。
神のみぞ知るかしら。
ご協力ありがとう。
かなり筋肉落としてね
しかも贅肉つけないでねぇ~(笑)
今の体でソフトな役をするのは難しいかなぁ~ってあの傷ついた嵐影を見てまた思う。
肉体派・・と変な冠がつく前にあっと驚くような変身をしてくれるんじゃなかろうか。。と密かに期待してるんだけど。
私、華奢男好きだからさ
着やせしてる彼がいいな。
洋服はそのままで(爆)