前回の滋賀県立美術館、”野口謙蔵展”の
続きです。洋画家、野口謙蔵の大作を
こんなにたくさん見るのは初めてでした。
野口謙蔵は滋賀県で生まれ、滋賀県に住み
滋賀県の風景を数多く絵にした洋画家です。
2021年は謙蔵さんの生誕120周年で
滋賀県立美術館の所蔵する絵画に加え、
代表作の”霜の朝”が展示されています。
謙蔵さんの多くの作品は地元、滋賀県、
現在の東近江市周辺の田園風景と、
そこに暮らす人々の姿が描かれています。
今回の展示は帝展を始め、数々の展覧会に
出品された大作が、ずらりと並んでいました。
大作”霜の朝”の前に人だかりができています。
謙蔵さんの作品に中で一番人気かしら…?
一面グレーの冬景色の中に、鮮やかな
蛍光オレンジ色の着物を着た女の子が、
両手を挙げて走っている絵でした。
当時、一番権威のあった展覧会、帝展の
第15回で特選になった作品です。
今回のチラシとパンフレットに登場しています。
一見、どこにでもある風景画のように見えて
何か惹きつけられるものを感じる絵ですね。
専門家の目で見ても、謙蔵さんは芸大じこみ
非常に卓越した技術があると言っていました。
構成や色彩などもよく考えて描かれている…。
その上で型にはまらず、遊んでいるように
自由に描いて、のびのびと個性を発揮…。
ここが彼の作品の素晴らしいところです。
展覧会は1室だけでしたが、見ごたえ充分…。
大画面の絵は、まず遠くから全体を眺めて
美しい色彩の対比や筆使いの勢いを感じる。
次に近寄って見て、繊細に描かれている
”何か”をじっくり眺める楽しさがありました。
例えば、こんな作品が印象に残りました。
これ、美術館でゲットした絵葉書ですが…。
画面の半分が一面の青空、半分が麦畑です。
遠くのほうに山があり、ふもとに集落があって、
よく見ると、ほんとに小さ~く…、細やかに
民家の”鯉のぼり”が描かれているのです。
緑一色といっても、いろいろなニュアンスの
緑…。勢い溢れる筆使いに圧倒されながら
よく見ると、雑草の茂みやため池の中に
小鳥や鯰が、丁寧に描かれているのです。
初期の絵から、晩年の絵までありました。
謙蔵さんは、芸大に入ったエリートでしたが、
芸大時代に描いた絵は満足できなかった…。
郷里に帰る前、ほとんど破棄してしまったので
若い頃の作品は、あまり残されていません。
わずかに残された小さな作品が2点だけが
大正期の作品として展示されていました。
謙蔵さんは43歳という若さで亡くなったので
作品の数はそれほど多くないようです。
いよいよこれから大活躍…!という時…、
昭和19年に亡くなったのが惜しまれます。
晩年の作品は、次第に抽象画のような
方向に進んでいました。幻想的な絵…。
1940年の作です。絵葉書をゲット…!
色調も、若い頃の鮮やかな色彩のものから
ややダークな、落ち着いたトーンに変化…。
段々と成熟しているように感じました。
謙蔵さんは、昭和8年に建てたアトリエ
周辺の田園風景を多く描いたようです。
アトリエが復元され、”野口謙蔵記念館”
として現在、一般公開されています。
以前、東近江市にある記念館を訪ねた時、
アトリエには、謙蔵さんが絵を描いている
とてもリアルな像が置かれていました。
これ、生きているみたい。ちょっと怖かった。
記念館には、謙蔵作品の”ホンモノ”は
一つも展示されていませんでした。
全部レプリカでしたが、アトリエ周辺の眺めは、
謙蔵さんの絵そのものの風景でした。
多くの絵が生み出された空間に立って、
謙蔵さんを偲ぶことができました。
展覧会に関連して、東近江市観光協会の
昼食付バスツアーが企画されていました。
美術館学芸員さんによる解説付きで
展覧会を鑑賞した後、東近江市にある
謙蔵さんゆかりの地や生家などを訪ねる
”謙蔵さんの故郷、蒲生野を訪ねる
バスツアー”…という魅力的なもの…。
「あ、これいいわ~!行きたいな~!」
さっそく申し込みをしたら、残念ながら、
「すでに定員に達しました。」とのことでした。
でも、ここであきらめない…。
しぶとくキャンセル待ちを申し込みました。