今日は久々にカラオケへ行った。午前中に外に出るなんて久しぶりである。仕事へ向かう人たちを見つつ、目的地に向かった。
カラオケ屋に着くと、女性の店員さんが対応してくれた。コロナでお店も大変だろうなぁ、なんて思いつつ受付をしてもらう。最近たばこを吸っているので、「灰皿ありますか？」と聞いてみた。俺の声が小さかったようで、「はい？」と聞き返されてしまった。そうだ、人と喋るの久々だった、と思って、「たばこ吸ってもいいですか？」と聞きなおした。すると、「電子たばこなら大丈夫ですよ」と言われ、少し焦ってしまった。そうだったのか。あ、じゃあ大丈夫です、すみません、と言い残して、足早に部屋へと向かった。
部屋に着いて1曲歌い終わった頃だろうか。ズボンのポケットに違和感を感じた。左手でポンポンすると、あるはずのものがなかった。携帯がない。通路に落としてしまったのだろうか？、そう思い、探しに出た。しかし通路には落ちていない。1度部屋へ戻る。誰か拾ったのかな？ 受付に行き、携帯の落し物が届いていないか確認した。店員さんの答えは、届いていないだった。ということは、カラオケ屋に来るまでの道か。そんなことを思いつつ、久々のカラオケを楽しんだ。以前の5分の1くらいしか声が出なかった。
カラオケを終え、携帯さがしに向かった。来るときに通った道を自転車を押しながら歩いていく。注意深く目をこらしていたが、携帯は見つからない。そしてそのまま家に着いてしまう。どうしたものか。一応ロックはかかっているが、機械に詳しい人に見つかれば簡単に悪用されてしまう。そんな悪用するほどのものは持っていないのだけれど。ネットで「携帯 落とした」で調べると、ある情報が目についた。僕の携帯はiPhoneなのだが、それには携帯を探すアプリというのが入っているらしい。携帯がないので意味ないのだが、パソコンでも自分の携帯の位置を把握できるというのだ。こりゃいい。すぐにiCloudに入り、携帯の位置を突き止めた。どうやらさっき通り過ぎていたらしい。急いで部屋を出て、自転車を猛スピードで爆走させた。
目的地に着いたが、携帯が見当たらない。あれ、誰か拾っちゃったかな。素敵な社会人の人々が通る中、社会のダメ人間たる私はあたりをウロウロしていた。しかし見つからない。すぐそばにレンタカー屋さんがあった。しょうがない、ここで電話を借りて、かけながら探させてもらおう。店に入り、なんと言おうか5秒ほど考えてから、「すみません、ちょっと電話をお借りしたいのですが」と告げた。店員さんは、なに言ってんだこいつ、という顔をしていたように見えた。実はさっきこのへんで携帯を落としまして、と付け足すと、店員さんの挙動が変わった。「お名前は？」と聞かれ、苗字を名乗る。この時点で警察に通報されるのではないか、と少し焦った。次に、「携帯の色は？」と聞かれ、一瞬戸惑った。なんで？、と思ったから。「黒ですけど」と答えると、店員さんがカウンターの下からなにかを取り出した。そのときの気持ちは、誕生日プレゼントをもらうときのような高揚感だった。俺の携帯だ。「歩行者の人が拾って届けてくれたんですよ」と言われ、すげぇびっくりした。そんないい人がいるのか、と。
携帯を受け取り、お礼を告げて店を出る。こんなに人に感謝するのは久しぶりだった。とても温かかった。嬉しかった。歩行者の人、拾ってくれてありがとう。人は人とつながっている、そんな世界が、嬉しかった。どうかその歩行者の人に、幸せあれ。