雨の記号(rain symbol)

マッスルガール第3話(2)



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 つかさたちから話を聞いた梓は、舞の隠密デートをとがめた。
「本当なの?」
「・・・」
「みんなに嘘ついてまで・・・信じられない」
「・・・」
「どういうつもり?」
「・・・それは」
「白鳥プロレスは今が勝負なの。経営を立て直さなきゃいけないし、マッスルカップにも勝たなきゃいけない」
 梓は身を乗り出すようにした。
「リーダーの舞が恋にうつつを抜かして場合じゃないってことくらい、舞がいちばんよくわかってるよね」
 ジホやつかさたちが心配そうにしながら後ろで話を聞いている。
「私だって社長としていっぱいいっぱいだのに、何で今こういうことするかなあ・・・!」
 舞は梓の話にじっと聞き入っていたが、意を決したように口を開いた。
「あんたに私の気持ちなんてわかんないわよ」
 梓は舞を見た。
「普通に女子高生やってきて、普通に恋愛してきたあんたには!」
「・・・どうして三禁なのか、どうして恋愛禁止なのか、わかってるよね」
「・・・」
「彼氏ができると人前でコスチュームを着たり、足を開いて技をかけたり、勇ましい顔や苦しんでる顔を見られたりするのが嫌になる」
「・・・」
「身体に傷や痣ができるのが嫌でファイトが弱くなるし、そんな戦い方じゃ相手に怪我をさせる。舞が恋をすることで、向日葵や薫やつかさやほかの団体の選手に怪我をさせるなんてこと、私は白鳥プロレスの社長として絶対許すことが出来ない」
「・・・」
「それでも恋がしたい?」
「・・・」
「そんな中途半端な選手ならうちにはいらない」
 驚いている舞に梓は言った。
「男のとこでもどこでも行きなさいよ」
 二人はしばらくにらみあっていたが、舞は切り出した。
「やめる。やめればいいんだろう!?」
 そう言って部屋を飛び出して行った。
 やりとりを見守っていたジホは梓に走り寄って手を取った。



「追いかけてください!」
「いいの」
 梓はジホの手を振りほどいた。
「どうして?」 
「舞の好きにすればいい」
「梓さん・・・! 自分に嘘ついてます」
「・・・」
「舞さんのこと、いらないなんて思ってません! 仲間に嘘ついてもダメです」
 ジホも怒ったようにして部屋を出て行った。
 ジホの言葉は図星をついている。
 梓は泣きそうな思いをこらえた。

 白鳥プロレスを飛び出した舞は例の追っかけファンに電話を入れた。

 白鳥プロレスのポスターに見入りながら梓は思案に沈んでいた。自分が女子高生だった頃のことを思い出した。
 あの頃から舞は、時に友達、時に姉や妹のような存在だった。
「ついにコクったんだ。どうだった?」
「えへっ・・・うん」
「うわーっ、おめでとう、よかった」
「ありがとう。舞が相談に乗ってくれたおかげだよ」
「何言ってんだよ」
「ねえ、舞も彼氏つくればいいのに・・・!」
「ここが三禁なのは知ってるだろう? それに男なんていらない」



 舞はバーベルなど持ち上げて続けた。
「プロレスが恋人だから」
「もったいない。舞、普通にしてればけっこうかわいいのに」
「大きなお世話」
 そんなやりとりして笑い合ったものだった。

 部屋を飛び出したジホは舞の後を追っていた。
 舞を探し当てた時、彼女は追っかけファンと一緒だった。
「舞さん」
 ジホは彼女に呼びかけた。
 ちらとジホを振り返った舞は急ぎ足になった。
「寺元さん、行きましょう」
「ちょっと待ってください」 
 ジホは彼女を追いついて言った。
「舞さん。この人といる時の笑顔幸せそうです。恋もプロレスも舞さんにとって大事なものです。舞さんなら、恋をしても戦えます。だから梓さんにお願いしましょう」




「ほっといて!」
 舞は叫んだ。
「もう、どうでもいいの、プロレスは。私は普通の女の子に戻るの」
 ジホは悲しそうにした。
「舞さんは嘘ついてます。プロレスがどうでもいいなんて嘘です」
 そう言われて舞は黙りこんだ。
 やがて、「ごめん」とジホに謝り、「行きましょう」と追っかけファンの腕を取った歩き出した。
 ジホは彼女の背中に必死で呼びかけた。
「舞さん!」
 舞は振り向かなかった。

「舞は行ってもいいんだよ」
 舞を誘ってくれたプロレス団体への移籍を勧めた時のことを梓は思い出した。
 舞はその話を拒んだ。
「何言ってんだよ、梓」
 梓の肩を取って舞は言った。
「社長。これからは梓さんがこの白鳥プロレスの引っ張って行くんです。そんな愚痴を言ってるようじゃ困ります」
「えへっ。何だよ、その言葉遣い。気持ち悪い」
「経営者とレスラーなんだから敬語はあたり前じゃないですか」
「ほんとにうちでいいの? 経営だって厳しいし、三禁だって厳しいし」
「そんなの今に始まったことじゃないじゃないですか。貧乏も三禁も慣れっこです。何年ここにいると思ってるんですか? 七年ですよ、七年」



「・・・ありがとう。私、社長として頑張る。舞もリーダーとして残った子たちの指導、お願いします」
「はい、社長」
 舞は自分の目を見てはっきりそう答えてくれた。

――あんたに私の気持ちなんてわかんないわよ!

「ごめんね、舞・・・社長失格だ・・・!」

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