マッスルガール第10話(1)
担当医は病室へ急ぎながら訊ねた。
「血圧は?」
「80を切っています。76です」
「超音波!」
「はい」
「・・・速めて」
「はい」
「・・・酸素は?」
ジホは悲痛な顔で病室へ走った。
「マッスルガ~~ル ~!」
リング上に各団体から八人の代表が勢ぞろいした。
「押し寄せる緊迫感。最強都市に咲いたマッスルガールカップ2011が今開幕です」
猛烈な拍手と歓声が湧き起こる。
「一日限り、夢のワンデートーナメント、今年はどこが栄冠を手にするのか! 今回の実況は私、辻よしなりがお届けしてまいります」
舞を送り出した梓の中ではいまだ期待と心配が錯綜している。
サイは投げられた。すべては舞に託すしかない。しかしすべての覚悟はできている。
郷原はスカル杏子に作戦を授けた。
「魚沼まいの膝は持って一試合。万一、決勝に上がったとして・・・」
郷原はスカル杏子を振り返った。
「お前なら赤子の手をひねるようなものだ」
「・・・全力で潰しますよ」
「プロレスどころか、二度と立てないようにしてやれ」
圧倒的優勝候補の青薔薇軍スカル杏子。対抗的存在ながら、青薔薇軍スカル杏子の卑怯な手にかかって膝を負傷し、一回戦突破すら危うくなった白鳥プロレス魚沼まい。
ダークホース的存在はアイスリボンの志田光ならぬ藤本つかさ、JWP女子プロレスのコマンド・ボリショイ。
出場者8人の闘志とモチベーションが錯綜して一回戦が始まった。
舞は出番が来るまでウォーミングアップなどせず、ひたすら身体を休めている。
梓が控室に戻ってきた。控室には悲壮感が漂っている。
「舞!」
「・・・」
舞はじっと気持ちを集中させたままだ。
「みんな、行くよ」
梓のその声を聞いて、舞は立ち上がった。
「ヨッシャーっ!」
と気合を入れた。
他の三人も「オーっ!」と呼応した。
しかし、気力とは別に舞は足を引きずらせている。
痛みに耐えての猛練習とモチベーションが吉の結果をもたらしてくれるのかどうか・・・!?
控室を出て行こうとする時、舞は足をつまずかせて転びそうになった。
その姿を見て心配が高まってくる梓であった。
「白鳥プロレス魚沼まい選手、序盤から攻める攻める、攻めまくる・・・!」
魚沼まいはスカル杏子との対決に備え、相手と短い時間での決着を挑んでいた。しかし、相手もそうは問屋がおろさない。当然、相手の反発も強かった。
「入りました情報によりますと、右ひざを負傷してるとのこと。大丈夫でしょうか!?」
舞は相手の投げを食らう。
「あーっと膝の踏ん張りがきかない! かなり悪い状況なのかーっ?」
投げを踏ん張った時、膝に激痛が走る。舞は顔を歪めながらこらえた。そこをついて相手が出た時、鋭く反撃してフォールに持っていった。必死の押さえ込みでフォール勝ちに持っていった。
魚沼まい
、緒戦突破。
「魚沼まい、大逆転で緒戦を突破しました。しかし、膝の状態が心配です」
舞の緒戦突破に梓は胸を撫で下ろした。
しかし、梓の視線の先では郷原の不敵な笑いが・・・。
続いてコマンド・ボリショイがジ・アイコンズをギブアップで制した。
その頃、ジホの母親は医療スタッフの救急処置で状態の落ち着きを取り戻していた。
2回戦。
舞は桜花由美の執ような右ひざ攻撃に苦戦を強いられた。この選手、どうやら郷原の手が回っているらしい。
「ああーっと、これはつらい、つらい膝攻撃であります」
しかし、舞は相手の執ような膝攻撃を受けながらも反撃の機会をうかがった。一瞬の隙をつき、右腕を逆に攻めて相手をギブアップに持ち込んだ。
「決まった。ここでも勝ちました。魚沼まい、這いずり回ってここでも勝って決勝進出です」
勝った瞬間、舞はリング上で動けなくなった。すかさず、梓や向日葵らが手を貸しに飛び込んでいった。
スカル杏子はコマンド・ボリショイを楽勝で下して勝ち上がった。
「これによりまして決勝戦は因縁深い白鳥プロレスVS青薔薇軍の戦いとなりました」
最後の戦いに備え、身体を休めながらスカル杏子攻略の突破口を探らねばならないのに、舞や梓たちはそれどころじゃなかった。舞の膝が悲鳴をあげていたからだ。決勝戦の開始を待ちながら彼女はただただ必死で右膝の痛みに耐えているだけだった。
「舞さん・・・」
薫が心配そうにするのにかまわず、舞はテーピングを始める。
「あとひとつ・・・!」
自分に言い聞かせるようにつぶやく彼女の姿は勝負に賭ける執念によって支えられている。
「あとひとつ・・・、あとひとつ・・・!」
舞の言葉を悲愴な面持ちで聞きながら、梓は思案に沈んでいる。
梓は思い切って口を開いた。
「舞! もう」
「梓!」
その先の言葉を舞は制した。
「私、やるから」
「舞・・・!」
舞は顔を上げた。
「絶対に、試合、止めないで!」
「・・・」
その目には断固たる決意がにじんでいる。
「勝つから」
「・・・」
「勝って賞金一千万、金のネックレス取り戻すから」
「・・・」
「私が白鳥を救う。絶対、負けない!」
「分かった」
梓は腹を決めた。
これまでがそうだったように、彼女の痛みや苦しみは自分のものだ。それに白鳥の家族みんなで戦うと誓った。みんなで一緒に彼女の痛みや苦しみを分かち合おう。
「舞、行くよ」