マッスルガール第10話(3)
魚沼まいは苦しい戦いを強いられていた。
魚沼まいを卑劣な反則攻撃で徹底的にいたぶった後、頃はよし、とスカル杏子はフォール勝ちの態勢に入ろうとしていた。
しかし、魚沼まいはそのピンチを何度もしのぎ続けた。勝利への執念でスカル杏子の強烈な攻めに幾度も耐え続けた。
魚沼まいの顔を踏みつけながらスカル杏子の膝攻撃が再び始まった。
「舞・・・!」
――絶対に、試合止めないで!
これでいいの? ほんとにいいの?
舞に問いかけるような梓の悲痛な応援が続く。
――私が白鳥を救う。絶対、負けない!
しかし、現実の舞はスカル杏子の醜悪な攻撃に今にも踏み潰されそうになっている。
梓の口から、ふいに、あらん限りの声が絞り出された。
「舞! 負けないで!」
この声は百人力の声援だった。
梓の声に力を得た舞は自分のプライドを押しつぶそうとするスカル杏子の足を必死で押しのけた。渾身の力で後ろに投げ飛ばした。
立ち直ろうとするスカル杏子の胸板に舞お得意の飛び蹴りが炸裂した。スカル杏子ともども舞いはリング下に転落した。
リング下に転落したスカル杏子に向ってカウントが始まる。
「ワン、ツー、スリー・・・」
「レフリーのカウントが進む。20カウント以内にリングに上がらなければ、失格、負けとなります。さあ、どちらが先にリングに這い上がってくるのか」
先に立ち上がったのはスカル杏子だ。スカル杏子は手にチェーンを持っている。それを舞の右膝に巻いてギュウギュウ締め付け出す。
「うわー、ひどい。邪悪過ぎるぞ青薔薇軍」
梓は舞のところに駆けつけようとする。
「舞!」
しかし、青薔薇軍レスラーが飛び出してきて、梓の前に立ちはだかる。邪魔して近寄らせようとしない。
両者入り乱れての乱闘が始まる。薫は相手から椅子攻撃を受けている。
気力もプライドも回復した舞はスカル杏子の攻撃だけを一方的に受けてはいない。相手の攻めをかわすとすかさず起き上がり、渾身の力をこめての飛び膝蹴りがスカル杏子の胸板に再び炸裂した。
これを見ていた郷原の表情が変わった。スカル杏子のもとに走り出す。
梓は叫んだ。
「舞! リングに上がって」
魚沼まいは先に起き上がる。リングに這い上がろうとする。しかし、中立のレフリーがリング上から舞に蹴りを入れてきた。舞はリング下に再び転落した。
どうして!?
梓は怪訝な眼差しをレフリーに向けた。
スカル杏子のもとに郷原も駆けつけた。
「おい、しっかりしろ」
彼女に手を貸し、リング上に戻してやろうとする。レフリーも手を伸ばしてきて助けようとする。
実況アナは絶叫する。
「どこまで――どこまで卑劣なのだ青薔薇軍」
観客も呆れて郷原らにヤジを飛ばし出した。
郷原は観客をにらみ返した。
「うるさい! 勝てばいいんだ勝てば!」
そこに誰かの叫ぶ声がした。
「待ってください!」
レフリー姿の男が走ってくる。ロープを飛び越えてリングに入場したのはジホだった。
「ジホ!」
と驚く梓。
「おっと、ここで新たなレフリーが乱入? もうわかりません」
ジホは叫んだ。
「反則は許しません。梓さん!」
梓は頷いた。
ジホはレフリーに、梓は郷原にかかっていった。
反則レフリーも邪悪郷原もそれぞれ2秒でノックアウト。
梓とジホは目を見合わせて頷きあった。
ジホはカウントを数え始める。
「ワン、ツー、スリー・・・」
梓はダウンしたままの舞を励ました。手は貸さない。
「舞、頑張って! 立って! 舞~~~ッ!」
「舞さん!」
「舞さん、頑張って!」
舞への声援をこめてジホのカウントは続く。
実況アナも声援をこめてカウントを数え出す。
「セブンティン、エイティン・・・」
舞は必死で起き上がった。
最後のカウントが読み上げられた時、舞はリング上に転がっていた。
梓たちは歓喜でリング上に飛び込んでいった。向日葵、つかさ、薫らも飛び込んでいった。全員で舞の身体をささえ、彼女の右腕をジホが高々とかざした。
「白鳥プロレス、勝ちました!」