「アンナは僕に一度も会ってくれなかった。100日が過ぎて・・・僕はあきらめようとしていた。アンナは自分にとって高嶺の花だったんだ。ところが・・・アンナの方が自分を訪ねてきた・・・」
「シビレルーッ!」
コン室長はガッツポーズをした。
「奥様を感動させたわけですね?」
「いや」ビリーは首を振った。「日にちを間違えたんだ。一日勘違いして最後の日に訪ねなかったんだ。まるで奇跡だった・・・」
ビリーはうっとりした目を天に向けた。
「その度胸が気に入ったわ。あなたと結婚してあげる」
アンナはそう言って左手を差し出した。
ビリーは彼女のその手を取って指輪をはめてあげた。
「そうして僕はアンナの心をつかんだのだ」
握りこぶしをつくり、ビリーは自分の手にはめられた指輪を見た。
そこでふと、新たな作戦が思い浮かんだ。
「そうだ、これがあった」ビリーの楽天性は再び花を開かせた。「アンナの心をつかめばいいんだ」
「ええっ?」
ビリーはベッドから脱け出た。
「アンナをもう一度振り向かせればいいんだ。これだこれ」
「そんな手でいけるでしょうか?」
コン室長は点滴の容器を握ってビリーについて歩きながら訊ねた。
「何をいう?」
ビリーはコン室長を振り返った。
「僕は彼女を知り尽くしてるんだ。嫌いな物も好きな物も全部知り尽くしてる。アンナが忘れた過去まで知ってるんだ」
点滴の管がもつれないように握ったままコン室長は頷く。
「それは確かにそうですね」
さっきまでの悲観はどこへやら、ビリーは悦に入りだす。
「彼女の心を開かせれば・・・記憶が戻った時も許してくれるさ」
「・・・」
ビリーの描いたストーリーはどんどん進む。
「チャンと暮らす姿に胸を痛めながら・・・それを静かに見守っていたと言えばいいんだ」
コン室長はこっくり人形のように頷いた。
「ずるい考えですが、悪くない方法ですね」
コン室長は指を鳴らそうとしたが鳴らなかった。
「純情精神ですね」
「そうだ、純情精神だ。僕は今から純情まっしぐらで進む」
チョルスはアンナを探し回った。
「家にも帰らず、電話にも出ないで・・・あいつ、どこで何やってるんだ・・・これじゃあ、携帯を買ってやった意味がないよ」
あっちこっち探し回り、チョルスはようやくアンナを見つけた。バスの待合ボックスの中に彼女はいた。
「やれやれ・・・あそこにいたか」
チョルスは安心して、ゆっくり歩き出した。
物思いに耽っているらしいアンナはチョルスに気付かない。チョルスはアンナの後ろ側に立った。そこからアンナに電話をかけた。
アンナは携帯を耳に当てた。
「何?」
「家に帰らないのか?」
「心配する振りはやめて。一人でちゃんと帰れるから」
「非行少女か? 早く帰ってこい」
「いやよ。気分が悪いの。一時間たったら帰るわ」
アンナは携帯を切った。
意地っ張りな表情で物思いに耽りだす。
「困った。どうしたもんかな・・・」
チョルスは持て余した目をアンナに送る。
「本当のことは言えないし、このまま待つしかないかな・・・」
チョルスはアンナと背中を向け合ってその場に座り込んだ。
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