「おい、雪だ。雪が降ってきたぞ」
ホテルのスタッフも外へ飛び出してきた。
「ほんとだ。わぁ、きれいだ」
みんな天からの白い贈り物に喜んでいるのに、ユギョンはひとり戸惑い、浮かぬ顔だ。額の上に手をかざす。
「突然、何なのよ」
髪に降りかかる雪を手ではらう。
アンナは目を開けた。
「どうしたの。進むのがのろいわね」
この時、外が吹雪いているの気付いた。
「雪だわ・・・カンジャが喜ぶわね」
アンナの顔から久しぶりに笑みがもれた。
――チャン・チョルス・・・あの時は大雨だったわ。飛んだ出会いだったけど・・・過ぎてしまえば懐かしい・・・だけど、あそこへ戻ることはもうない。
アンナはカンジャに向けてつぶやいた。
「私を待たないで」
心を癒すために眠り続けるチョルスのところにグンソクたちが駆け込んでくる。
「叔父さん、雪だよ」
「たくさん降ってる」
ユンソクが大きく腕を広げる。
チョルスは目を開けた。
「雪だって?」
「そうだよ」
ジュンソクたちはまた外へ飛び出していった。
チョルスは窓の外を見た。
確かに大雪だ。
珍しいな、と考えたりしていると携帯が鳴った。
ドックからだ。
「兄貴、ビニールハウスの工事を急いでくれって連絡が入った。俺はまっすぐ向かうから現場で合流しよう」
ドックはそう伝えて携帯を切った。
「雪なんて何年ぶりかしらね?」
ケジュが両手で雪を受けて言った。
「早くしないと・・・やばくなりそうだ。母さん、急ごう」
「そうね。すごい降りだわ」
アンナは雪を見て言った。
「最悪な雪だわ。からかってるの? 何で急に降り出すのよ」
チョルスはビニールハウスの工事現場に向けて車を走らせた。
到着が遅れそうだと先方に連絡を入れる。
「雪のせいで道が混んでるんです。ともかく急ぎますから」
農機(のうき)を走らせながら依頼者は仕事をせかす。
「早くしないと農作物がダメになる。ああ、そうか、わかったよ」
農機の後ろには車が詰まりだす。
すぐ後ろについてクラクションを鳴らしたのはアンナの乗った車だ。
空港に向かうアンナは苛立った。
後ろからもクラクションが鳴らされる。
「何、ノロノロ走ってるのよ。最悪な耕運機ね。早く追い越しなさい」
農機を走らせながらオヤジは携帯でのんきに話を続けている。
「ああ、農業は順調さ。・・・」
「あのオヤジ、運転中に電話を? いい度胸してるわね。車を左に寄せて」
運転手に命じる。
アンナの乗った車は対向車線に出た。農機に並びかけたところでアンナはドアの窓を開けた。
農機を運転するオヤジに向けて叫んだ。
「どきなさい。何してるの。早くどいて」
農機のオヤジは電話相手に言う。
「後ろで騒いでるんだ」
「どきなさいと言ってるでしょ!」とアンナ。
「おい、切るぞ。チョルス、早く来てくれ」
「はい、すぐ行きます」
電話を切った農機のオヤジは後ろに連なる車を見てぼやいた。
「まったく、うるさい連中だ」
農機を追い越そうとした車は前方からやってきたトラックにあわてふためく。かろうじて農機を追い越し、走行車線に飛び込んで急停止した。
肝を冷やしたアンナは怒り心頭で車をおり、農機のオヤジのところに詰め寄った。
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