アンナの隠し場所から出てきた金をぜんぶテーブルの上に並べた。
「こんなにも出てきた。金では不自由なく育ったくせに、隠し方はずいぶんせこい。疑り深いやつだ。ぜんぶバレてたっていうのに、ご苦労様だったな」
チョルスは深いため息をついた。
部屋から海を見つめているビリーのところにコン室長がやってきた。
「社長。チャン・チョルスのことは本当に話さないつもりですか?」
「話す気が失せたよ。アンナ自身が望んだことだ」
「結局、そうやって逃げるんですね。奥様が知れば、ホテルも没収されて何もかもが…」
そこまで言って室長はあわてて口に手をやった。
ビリーは苦笑して言った。
「考えてみるよ。手続き後に話した方が彼女のためにもなるだろう」
何をする気も起きなかった。
アンナが寝床にしていたソファに身を横たえ、チョルスは悶々と考え込んでいた。
「どうしてこんなに胸がうずくんだ? ズキズキするんだ?」
寝返りを打つ。横になって目を開ける。
「そういう時、あいつはきっと、”湿布を貼れ”っていうだろうな」
アンナを乗せた車は空港に向かって走り出していた。
彼女は外に目をやった。見納めの景色が流れていく。
流れる景色をうつろな目でやり過ごしながら、アンナは胸元に手をやった。すべてを忘れて去るつもりなのに、さまざまの思いが胸を締め付けてくる。
「胸が苦しい」
アンナは目をつぶる。
目の裏に浮かんでくるのはチョルスの姿だった。
何をする気も起きないチョルスの目から涙が流れだし、鼻梁を伝う。涙はあとからあとから流れ出す。
アンナはじっと目をつぶり続けた。
チョルスとのいろいろの出来事が目の裏を流れる。最悪の出会いも今となってはすべて愛おしさでしかない。
カンジャは小さな花束を握り、自分の願いが叶うのを信じていた。雪が降り出すのをひたすら念じていた。
やがて、雪は静かにひとひらずつ降り出し、時間を追って激しく降りだした。
手のひらに雪を受けてカンジャは顔をほころばせた。
「わ~っ! 雪だ、雪だ。雪が降ってきた~ッ!」
突然の雪にコッスンは面食らっている。しかし、尻尾を揺らし、嬉しそうだ。
アンナのお気に入りだったぬいぐるみも部屋から雪を眺めている。
ソファに横たわったチョルスの目からは絶え間なく涙が流れ続けている。
アンナの抱いていたプリンセスも、時ならぬ雪の来襲に異変を感じてる様子だ。
アンナはその雪に気付かない。目を閉じたままだ。
「あれれ? 急に雪が降りだしましたね」
ビリーも窓から上空を見やる。
「ここは滅多に降らないのに…」
「空がイカれたのさ」
二人は顔を見合わせ、再び上空に目をやった。
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