韓国映画「ビューティ-・インサイド」から㉑
家に帰った後、イスに辛い時間が流れた。
ウジンは別れを告げてきた。あまりに突然のことだった。
立ち去っていく彼を追いかけようと思っても身体が動かなかった。
イスは眠れないまま朝を迎えた。ご飯も食べずに出社した。
ウジンと会わない日々は次々と流れていく。
━ 今でもあなたを近くに感じるけど、気づく振りをする勇気がない。あなたが”別れよう”と言った時、なぜかほっとしたのを見透かされそうで…。
姉がイスの傍に来て訊ねる。
「これ、何なの?」
イスの目の前には梱包の段ボール箱から出された木製の椅子があった。アレックスのウジンから送り届けられたものだ。
イスの姉は椅子に歩み寄った。
「男が去っても物は残るのね」
座り心地を確かめて訊ねる。
「ビッグサイズね。あんたに合わせたの? そうみたいね…」
姉は立ち上がってイスに歩み寄る。抱きしめる。イスの顔は悲しみでクシャクシャだった。姉に抱かれてイスは嗚咽を漏らし、泣きじゃくった。
「お姉ちゃん…どこに行って何を食べたか…お店のメニューまで全部覚えてるのに…あの人の顔が思い出せない…どうしよう…」
その夜、イスは姉の腕枕で眠りについた。
━ 嘘のように…すべてが以前に戻った。薬を飲まなくても眠れ、楽に目覚め、起きられる。運動も始めた。小さな計画を立て、行動し、日常を埋めていく。そして時々、自分に問いかけた。今日の私は昨日の私と同じだろうか? 毎日、同じ姿をして――違う心で揺れていた。毎日、違う人だったのは、あなたじゃなくて私の方だったかも…ふと、そう思ったりもする。
そんな風に時間を埋めて時は流れた。
「このソファーは存在感があるので…リビングや自分だけの空間に置いてもいいですよ」
今日もイスはお客を相手にテキパキと仕事をこなしていく。
「一人掛けはあちらになります。ゆっくりご覧ください」
イスのところに本部長がやってきた。
「これ、個人ブロガーの写真よ。どう?」
「いいですね」
「でしょ? 世界は広いわね。こんな掘り出し物が隠れていたなんて…ネット様々ね」
イスはデザインに見入り、言葉を失っている。
「デザイナーとエージェントを調べましょ」
「…」
「それから、アレックスとの契約も延長しないと…」
サンベクは得意先との電話を終えてイスを見る。
「お待たせ…急ぎの電話だったもんだから。え~と、どこまで話したっけ?」
イスは苦笑する。
「仕事で来たんです、サンベクさん。だからそんなに構えないでください」
「…出庫は一週間以内ということで」
「どうも。こちらもそれで準備しておきます」
書類を封筒に入れ、行こうとするイスにサンベクは言った。
「電話でよかったのに…次から担当を替われば?」
サンベクの話に足を止めたイスは何も答えずドアに向かう。
その時、ドアの横に無造作に置かれた梱包物に目を止める。
「MADE IN CZECH」と書き込まれている。
イスは”もしや”の思いに見舞われる。本部長に見せられた写真に眺めいった時と同じような感情の動きだった。
イスはサンベクに訊ねた。
「ウジンはどうしてる? 元気にしてる?」
サンベクは応えない。
イスは書き込みを見てつぶやく。
「チェコ…ビーズとビールの国、チェコ…遠くに行ったのね」
ウジンは別れを告げてきた。あまりに突然のことだった。
立ち去っていく彼を追いかけようと思っても身体が動かなかった。
イスは眠れないまま朝を迎えた。ご飯も食べずに出社した。
ウジンと会わない日々は次々と流れていく。
━ 今でもあなたを近くに感じるけど、気づく振りをする勇気がない。あなたが”別れよう”と言った時、なぜかほっとしたのを見透かされそうで…。
姉がイスの傍に来て訊ねる。
「これ、何なの?」
イスの目の前には梱包の段ボール箱から出された木製の椅子があった。アレックスのウジンから送り届けられたものだ。
イスの姉は椅子に歩み寄った。
「男が去っても物は残るのね」
座り心地を確かめて訊ねる。
「ビッグサイズね。あんたに合わせたの? そうみたいね…」
姉は立ち上がってイスに歩み寄る。抱きしめる。イスの顔は悲しみでクシャクシャだった。姉に抱かれてイスは嗚咽を漏らし、泣きじゃくった。
「お姉ちゃん…どこに行って何を食べたか…お店のメニューまで全部覚えてるのに…あの人の顔が思い出せない…どうしよう…」
その夜、イスは姉の腕枕で眠りについた。
━ 嘘のように…すべてが以前に戻った。薬を飲まなくても眠れ、楽に目覚め、起きられる。運動も始めた。小さな計画を立て、行動し、日常を埋めていく。そして時々、自分に問いかけた。今日の私は昨日の私と同じだろうか? 毎日、同じ姿をして――違う心で揺れていた。毎日、違う人だったのは、あなたじゃなくて私の方だったかも…ふと、そう思ったりもする。
そんな風に時間を埋めて時は流れた。
「このソファーは存在感があるので…リビングや自分だけの空間に置いてもいいですよ」
今日もイスはお客を相手にテキパキと仕事をこなしていく。
「一人掛けはあちらになります。ゆっくりご覧ください」
イスのところに本部長がやってきた。
「これ、個人ブロガーの写真よ。どう?」
「いいですね」
「でしょ? 世界は広いわね。こんな掘り出し物が隠れていたなんて…ネット様々ね」
イスはデザインに見入り、言葉を失っている。
「デザイナーとエージェントを調べましょ」
「…」
「それから、アレックスとの契約も延長しないと…」
サンベクは得意先との電話を終えてイスを見る。
「お待たせ…急ぎの電話だったもんだから。え~と、どこまで話したっけ?」
イスは苦笑する。
「仕事で来たんです、サンベクさん。だからそんなに構えないでください」
「…出庫は一週間以内ということで」
「どうも。こちらもそれで準備しておきます」
書類を封筒に入れ、行こうとするイスにサンベクは言った。
「電話でよかったのに…次から担当を替われば?」
サンベクの話に足を止めたイスは何も答えずドアに向かう。
その時、ドアの横に無造作に置かれた梱包物に目を止める。
「MADE IN CZECH」と書き込まれている。
イスは”もしや”の思いに見舞われる。本部長に見せられた写真に眺めいった時と同じような感情の動きだった。
イスはサンベクに訊ねた。
「ウジンはどうしてる? 元気にしてる?」
サンベクは応えない。
イスは書き込みを見てつぶやく。
「チェコ…ビーズとビールの国、チェコ…遠くに行ったのね」