雨の記号(rain symbol)

韓国映画「ビューティ-・インサイド」から⑰





 韓国映画「ビューティ-・インサイド」から⑰



「驚かしてごめん」
 手枕でイスを見下ろしてウジンは何度目かの詫びを入れる。
 眠っていたかに見えたイスは目を開ける。
「二度と驚かせないで」
 頷くウジンにイスは笑顔を返す。今日のウジンに気持ちよく別れを告げてイスは眠りに沈んでいく。

 そして新しいウジンと出会う朝がやってきた。
 まだ寝ているウジンをそっとそのままにしてイスは彼の家を出た。
 目覚めた時、隣にイスの姿はなかった。ウジンはすぐイスに電話を入れた。
「起こしてくれたら家まで送っていったのに」 
「大丈夫。ちゃんと帰れたわ」
「なぜ小さな声なの?」
「帰宅が早かったから、お姉さんとお父さんはまだ寝てる。私も今、部屋にいるの」
「そうなのか…もしもし…もしもし…」
 イスからの返事は途絶えた。

 イスの部屋に顔を出して姉はびっくりする。外出着姿で妹がベッドに転がっている。あわてて父親を呼んだ。
「お父さん、ちょっと来て。イスが支度の途中で寝ちゃってる」
 ゲラゲラ笑っている。
 そばに立って妹に呼びかける。
「あなた最近、変だわよ」



 変なのはイスだけではなかった。ウジンもだった。
 やって来るなり、サンベクはグチを並べる。
「クソ野郎。お雨は最近、変だぞ」
 差し入れをぶら下げてウジンの前に立った。差し入れを置いていう。
「女に夢中の男がいるって噂の主はお前だったのか?」
「待たせたな。悪かった」
「俺はいいんだ。おばさんにはちゃんと電話しろ。おばさんから心配の電話をもらったんだ」
「俺に電話くれたらいいじゃないか」
「電話はかけたぞ。しかし出なかった。出る相手を選んでたろ?」
「…すまない」
「それ、冷蔵庫に入れろ。必ず冷蔵庫に入れろっておばさんは言ってた。わぁ、何だこれ!?」
 サンベクは冷蔵庫を開けてびっくりする。食べ物を入れたタッパーがぎっしり詰まっている。
「イスと一緒に作ったんだ」
 答えるウジンにサンベクはきっぱり言う。
「なら、イスさんと所帯を持てよ」
「そう思うだろ。俺もだよ」
「チンピラみたいな顔してロマンチストかよ。今日はキャラがだいぶずれてるぞ」
「…」
「ああ、ほんと、愛に溺れた奴につける薬はないな」

 サンベクが引き上げた後、ウジンは思案に沈んだ。

━ 結婚。僕が結婚する? そうだ。今ここでためらったら、彼女に申し訳ない。折を見て、その気持ちを彼女に伝えよう。

 仕事に打ち込みながら、ウジンはイスにプロポーズする機会を待った。その日は彼女に見合った年齢と容姿を持った時がいいに違いない…。手製の指輪も作り、ウジンは着々とその準備を進めていった。
「今日、指輪を作ってる時、ケガをしたけど女性の日でない限り明日は大丈夫…」
 そしてすべての準備は完了した。


「最高級の原木で木目もとても自然です」
 ウジンとの交際仕事も順調に推移し、イスも傍目には毎日が充実していた。
 しかし、たまに物思いに耽ってる時があるようになった。
「これは何の木ですか?」
 お客がそばにいるイスに訊ねた。物思いに耽っていたため、イスは反応が遅れた。すぐには答えられず、他の店員がそこに駆けつける始末だった。
「サイズは?」
 続いての質問にも答えられない。
「先輩」
 後輩から助け舟が入る。
「お願い」
 イスは沈んだ表情でそこを離れた。いつの間にか彼女はストレスをかかえ、薬に頼るようになっていた。



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