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韓国ドラマ「病院船」から(連載85)
「病院船」第8話➡微妙な関係⑥
★★★
ヨンウンはスマホのメールを開いた。ヒョンに見せる。
「あなたからのメッセージよ。忘れた?」
―”別れたくない。考え直して”
「覚えてるさ。あの夜に君は…」
ヒョンは別の男と会っていたヨンウンを思い浮かべた。ヨンウンに会うため息せき切って駆けつけた場所で、彼女は別の男と熱い抱擁を交わしていたのだった。
「あの夜?」とヨンウン。「あの夜に何かあった?」
ヨンウンは思い当たる節を感じないようだった。
ヒョンはそれをほじくり出すのをやめた。
「…もう過ぎたことだ」
「そうよ。忘れましょ」とヨンウン。「いつものことだし、喧嘩しても私のことを待ち続けて―私を優しく受け入れてくれたわ」
「僕は本気だったからだ」
「過去形はやめて。私は…すごく反省した。だから、今回だけは許して」
「いや、もう無理なんだ」
「なぜ?」
「答えたくない」
ヒョンは立ち上がった。ヨンウンも立ち上がる。
「理由は何? 他に女ができたの?」
ヒョンはヨンウンを見た。
「早く帰ってくれ」
「ヒョンさん」
「”クァク先生”と呼んでくれ。僕も”チェさん”と呼ぶから」
「嫌よ」
「距離を置こう」
「まだ話があるわ」
「僕はもうない。2人で会うのも最後にしよう」
ヒョンは先に店を出ていった。
★★★
ヒョンは取り付く島もない態度に終始した。店に取り残されてみるとヨンウンはすっかり気落ちしてしまった。
ヒョンはヒョンでヨンウンの自分に対する執着の強さに困惑していた。
ヒョンはテーブル席に座っているヨンウンの後ろ姿を店の外から見やった。自分がそこに戻るのを待っているようにも見えてため息をついた。
ウンジェは脳内のモヤモヤを吹き飛ばすため、夜の浜辺をひとりで走った。ひたすら走った。”恋などにかかずらっていられない”と自分に言い聞かせながら。
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シャワーを浴びて部屋に戻るとヨンウンが戻ってきている。部屋に私物を広げている。
「運動してきたのですか?」
頷いて部屋に入ってくると誰かの呼ぶ声がする。
「ソン先生」
ドアを開けるとアリムが何やら抱えて入って来る。
部屋に投げ入れた。後ろを向いて言う。
「布団です」
「こんなに薄いのじゃ腰が痛くて眠れないわ」
「だったらソン先生に借りるしかないですね」
ヨンウンは2人の前にやってくる。
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「いいわ。ヒョンさんと寝る」
そう言って2人の間をすり抜けて外に出ていく。開いたドア口からゴウンが入ってくる。
「あんなはしたない恰好でどこへ?」
アリムがヨンウンの口ぶりをなぞる。
「”腰が痛くてねむれないわ””ヒョンさんと寝る”ですって」
ゴウンはびっくり。
「ほんとに? 何て子なの」
ゴウンはウンジェを見た。
「それでいいんですか?」
「だとしたら?」
「平気だと?」
「何か問題でも?」
「そうじゃないけど…」
「明日は早いのでもう寝ましょう」
そう言ってウンジェは自分の寝間に入っていく。
「そ、そうですね」とゴウン。
外に出たゴウンは首をかしげる。
「おかしい…すましていたけど何か変だわ」
「どこがです?」とアリム。
「いいえ、気にしないで」
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アリムを先に行かせて、ゴウンはちらとウンジェの部屋を振り返る。ニヤリとした。
「私の勘ははずれないわよ」
寝床に入ったウンジェは頭からすっぽり毛布をかぶった。
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ヨンウンはこっそりヒョンの部屋に入ってきた。
忍者のようにヒョンのベッドに近づく。すばやくヒョンのベッドに滑り込む。後ろからヒョンの身体に密着する。
走ってシャワーを浴びて脳内をすっきりさせたはずなのに、ウンジェの脳内はまたモヤモヤが発生した。それはどんどん密度を増すのでたまらず身体を起こした。
ヒョンの部屋に行ったヨンウンのことが気になって仕方がなかったのだ。ウンジェは出入り口に目をやった。
「どうして戻ってこないの?」
とうとう立ち上がる。出入り口に向かう。ドアの前で立ち止まる。
―部屋に行って引きずりだす気なの?
衝動を制して寝床に戻り毛布をかぶる。
―勝手にやってなさいよ。
しかし、やっぱり寝付けない。ガバッ、と身を起こす。毛布を払いのける。
―確認してみようか…。
立ち上がり、部屋を徘徊する。
―クァク先生を疑いたくない。…
出入り口に向かって振り返る。毅然として顔になり、自分に言い聞かす。
―ならば、確認すべきだわ。
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ドアをそっと開け、外を窺う。人の気配がないのを確かめ、抜き足差し足でヒョンの部屋に向かって壁づたいで歩き出す。
「どこへ?」
ふいに声がして足を止める。ゴウンたちの部屋だ。
「クァク先生と寝るなんてどういうこと?」
ウンジェは聞き耳を立てる。
どうも寝言のようだった。
ふうーっと息を吐き。ウンジェはそこの関門を過ぎる。
ウンジェは階段をおりてくる。そこまで来てまた自問自答が始まる。
―ウンジェ、あなたはいったい何してるのよ。
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ウンジェは再び自分を制して部屋に戻った。寝床に入ってつぶやく。
「くだらないことで時間を無駄にしたらダメ! 人生の無駄!」
毛布を頭からかぶった。
そうして眠れないままに朝を迎えた。