雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載212)

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   韓国ドラマ「病院船」から(連載212)




「病院船」最終話➡好きだから③
★★★


 事務長とウンジェの受け止めている事態は深刻だった。
 事務長は大きくため息をついた。2人ともレントゲン写真が示すものに気づいている。ここで話し合う段階はすでに過ぎている。
 ウンジェはあらためて訊ねた。
「骨肉腫ですよね?」
「組織検査をしないと断定はできない」
 ウンジェは鼻先で笑う。母親や自分の健康に無頓着できた自分を笑う。何が自分にこんな生き方をさせたのか…。
「第一病院に行きましょう」
 事務長は立ち上がった。
「行って組織検査を受けるんだ」
「…」
「早く着替えて」
「事務長…」
「そのままでも構わない」
「私に任せてください」
 事務長は呆れた。腰をおろした。
「この状況で、何をどうする気だ」
「それからこのことは、当分の間、誰にも話さないでください」
「なぜ? 仲間には少しくらい心配をかけたっていいんだ」
「患者としてのお願いです」
 事務長は黙り込んだ。
「医者としてではなく、患者のソン・ウンジェとして放射線技師に秘密保持を頼んでいるんです」
「…」
「秘密―守ってください、事務長」
「分かった」事務長は頷いた。「だから組織検査を…」
「受けます」
「約束だぞ」
 ウンジェは頷いた。




 ウンジェは帰路につきながら、病んだ脚にまつわるエピソードがヒョンとの間でいくつかあるのを思い起こしていた。
 ウンジェは歩道脇のベンチに腰をおろした。
 医師たる自分がこれしきのことにどうして気付かなかったのだろう…彼を意識し、夢中な自分だったから、気づくチャンスを逃がしてしまっていたのか…?
 カバンで携帯が鳴っているのにも気付かず、ため息がついて出た。


★★★

 寮の庭に帰り着くと、子犬が郵便物とじゃれている。ジェゴルとジュニョンは慌てて駆けつける。
「オイ、コラっ―、やめろ!」
「ポング、おいで」
 封筒はだいぶ食いちぎられている。
「配達員は庭に投げて行っちゃったんだ」とジュニョン。
「いつも紙を食いやがって何てこった。お前はヤギか?」
 ジェゴルは犬の頭などを小突く。
「それ、誰だ?」
「何が?」
「”ポンぐクジ”の当選者」
「宛名ラベルはこいつの腹の中にある」
 ジェゴルは子犬の頭を撫でつける。
「まいったね…」
 寮に入るとジェゴルはさっそく封筒を開く。中の冊子を取り出す。
「どこからだ?」
「さあ~な」
 ジュニョンが封筒を手にする。
「王立ロンドン病院?」ジュニョンはジェゴルを見た。「イギリスからだ」
 ジェゴルはパラパラと冊子のページを繰っている。中からハガキが出てきた。
「ソン先生宛てか?」
 そこへヒョンが顔を出す。
「どうした?」
 冊子を気にしだす。
「ソン先生、イギリスの外傷センターに志願書を送ったのか?」
「何?」
「そうみたいだ」

 ジェゴルはハガキを差し出す。ヒョンはハガキに見入った。
「初耳か?」
 ヒョンは黙ってハガキに見入っている。
「まさにこれだ」
「何のことだ」
「事務長が怒った理由だよ―ソン先生が病院船を去ると言ったからだ」
「あるいはな…」
 ヒョンにとって2人のやりとりは現実味がなかった。いや、2人のやりとりによって、ウンジェの差し迫った現実が見えて来る気がした。




 事務長は居酒屋にいた。ひとりで酒を飲んでいた。ウンジェは誰にも言わないでくれ、と言った。話したところでそれはどうなるものでもない。みんなに余計な心配をさせたくないから彼女はそう言った。
 それはもちろんそうだろう。
 しかし、そうすることが事務長はつらかった。その思いを制するために彼は居酒屋にひとりでやって来て酒を飲み続けた。




 ウンジェは手術衣を着て手術室にやって来た。手術台に座って物思いに沈んだ。患者のように横になって物思いに耽った。
 横になって無影灯を見つめあげる。いつも生と死の際に立ってメスを握ってきた自分。訪れる死を迎える準備はいつでも出来ている。怖くも悲しくもないがなぜか涙が目尻から流れ落ちる。
 ウンジェは身体を起こした。左足のパンツをたくし上げる。レントゲン写真で暗い影を印した部位にポビドンヨードを塗った。その上から手術用のシートをかぶせた。その上から麻酔薬を打った。メスで肉片を切り取り、血液を採取した。
 それを持って巨済第一病院の検査科に顔を出した。
「ソン先生、どうかしましたか?」
「骨肉腫が疑われる患者の検査をお願いします」
 ”組織検査 依頼書”を提出する。
「名前は”X”ですか? どうしてです?」
「匿名を希望する臨床試験の参加者です」
 検査科のスタッフはそれが当人だと気づかず得心する。
「かかる時間はどのくらいです?」
「1日―急ぎましょうか?」
「明日の午前中で」
「頑張ってみます」
「お礼はコーヒーで」
 ウンジェは脚を引きずりながら検査科を後にした。
 廊下を歩いている時、携帯が鳴り続けた。しかし、ウンジェは誰であれ電話に出るつもりはなかった。
 しかし夜通し、ヒョンからの電話は鳴り続けた。
 そして朝がやってきた。

 検査科からは予想より早く結果がもたらされた。
「やっぱり骨肉腫でした。がん細胞の中でもタチが悪く、肺に転移したら生存率はかなり下がります。ご希望の時間より早く結果を出しました―コーヒーが楽しみです」
 ウンジェは”コーヒーが楽しみです”の一文に苦笑しつつ、サバサバした表情で病院を後にした。

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