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草原を進み、休息を取っていた朱蒙たちを取り囲むように迫る一団がある。襲いかかってくるというより、数にものを言わせてにじりよってくる感じだ。
彼らに気付いた朱蒙らは応戦姿勢を取った。剣を抜き、矢を構えた。彼らはひるまず、どんどん迫ってくる。しかし、かかってくるわけじゃない。
彼らに殺気より怯えるものを感じ取った朱蒙はつがえていた矢をゆっくりたたんだ。
「みんな武器を捨てろ。この人たちは怯えている」
朱蒙は弓と矢を彼らの前に投げ出し、戦う意志がないことを示した。オイやマリたちもやむなく剣を投げ出した。
朱蒙らは縛り上げられ、彼らの在所に連れて行かれた。何と彼らは女子供を引き連れた流民であった。
朱蒙らは自分たちがハンナラの手の者でもなければ、匪賊でもないことを必死で説明した。しかし、彼らは納得しなかった。
「この者の父親はタムル軍だったのだ」
「そう言っても我々は信じないぞ」
「嘘じゃない。ちゃんとその証拠もある」
ヒョッポが胸にぶら下げた木札(軍証)を見て、彼らはようやく納得した。
縄を解かれた朱蒙は、あなた方が安全な場所にたどり着くまで護衛したい、と申し出るが、疑心暗鬼の彼らはあっさり断ってきた。
「私たちは誰も信じない。いいから早くここを去ってくれ」
朱蒙は彼らに馬を提供し、徒歩で彼らのもとを離れた。
道々彼らの心配をしていると、果たしてハンナラ鉄騎軍が現れた。やつらに見つかったらまたつかまって奴隷となってしまう。
それを防がんと朱蒙らは彼らに立ち向うが、まるで歯が立たない。矢は鉄の鎧にはじき返され、剣は相手の一撃で折られてしまう始末だ。朱蒙らはやむなく引くしかなかった。逃げる朱蒙らを鉄騎軍は追ってくる・・・
(第24話より)
朝鮮流民を救うべく敵兵に向けて矢を放った朱蒙だったが、矢は鉄騎軍の鎧に跳ね返され、交えた剣も折られた。これでは太刀打ちできない。
鉄騎軍の噂以上の強さにさすがの朱蒙も退却するしかなかった。しかし、これで引き下がる朱蒙ではなかった。彼にはヘモス将軍の教えが魂の底まで染みとおっている。
「鉄騎軍は私にまかせ、お前たちは流民たちを救え」
「しかし、一人では」
「心配しないでいい」
いったん退散した朱蒙は夜を待ち手分けして行動を起こした。
オイ、マリ、ヒョッポは流民たちを救い、朱蒙は鉄騎兵の鎧の弱点をついて逆転勝利に結びつけた。
襲撃にあって流民たちが奪われた報はすぐさまヒョント城ヤンジョンのもとにもたらされた。
短気直情型のヤンジョンは怒りに駆られ、すぐに流民を取り返してこいと再び鉄騎軍を追っ手に立てた。
朱蒙らを追う鉄騎軍がヒョント城から出て行くのを召西奴たちは不快げな表情で見送った。
朱蒙たちは流民を引き連れ、ハンナラ軍の手の届かない場所へ送り届けようとしていた。
しかし、ヒョント城から送り出された追っ手が迫る中、女子供を交えた集団の逃亡は遅々として進まなかった。
ヨンタバルはヤンジョンやハンナラの鉄官ノグンと会い、意図的に彼らを怒らせて帰ってきた。
一方、夫余の商人トチはヨンポを炊きつけ、ヨンタバルを夫余から追い出すようそそのかしていた。ヨムウルを夫余から追い出し、朱蒙も自分の力で太子争いから退けたと思っているヨンポは、トチのおだてに乗ってすぐさま実行に及ぶ。
そうしてヨンタバル商団におしかけ、押収物の中から、言いがかりがつけられそうな木簡を見つけて金蛙王に報告する。
朱蒙らは追いついてきた鉄騎軍との本格的な戦いに入る。それはヘモス将軍の実践した「人が最大の武器となる」戦いそのものだった。
ヒョント城の市中居酒屋で勝利の美酒に酔いながら、朱蒙はヒョッポに訊ねた。
「タムル軍だったお父さんの木札(軍証)をもらった瞬間なみだを流していたが、どうして泣いたのだ」
ヒョッポは答えた。
「父は大意を成し遂げるため命がけで戦ったのに、自分のやってきたことが恥ずかしくて思わず涙を流してしまいました」
ヒョッポの言葉に同調するように朱蒙は言った。
「私がなぜ太子競合をあきらめたかわかるか」
ヒョッポやオイはそれは・・・という顔になった。オイが下を向いて言った。
「プヨンのためだったら、トチを殺してプヨンを救っただろう。私が太子競合をあきらめた理由は、太子になって何をするべきかがわからなかったからだ」
マリは狐につままれた顔をした。
「目標もなく競合をしている自分自身が恥ずかしくなったからだ。ヒョッポと同じような気持ちだったのだ。だが、もう・・・何をするべきかはっきりわかったような気がする」
そこへサヨンとケピルが姿を見せる。
双方は意外な場所での再会を喜び合った。
ケピルは朱蒙を召西奴のところへ案内してきた。
信じられないという顔で朱蒙を見た召西奴は次第に嬉しさを表した。
「ここへ・・・どうして・・・?」
「・・・弓術に優れていて、弓を鉄騎軍のよろいの透き間に矢を命中させたそうです・・・」
帯素の感情は複雑だった。鉄騎軍と戦って彼らを退けた連中が朱蒙のように気がしてならなかった。しかし、一方で否定する感情も強く働くのだった。それは朱蒙の力や能力を認めたくないからだった。
朱蒙と召西奴は再会した喜びを分かち合っていた。
しかし、朱蒙が鉄騎軍と戦ってきたと聞いて召西奴の顔色は変わった。
「鉄騎軍に立ち向うなんて危ない目にあったでしょう?」
「引っ張られていく流民たちを見てやり過ごすことはできなかったんです」
「・・・ともかく、無事でよかったです・・・」
朱蒙は召西奴の指にはめられている指輪を見た。
召西奴はちょっぴりはにかむような表情をした。二人の心は通じ合った。
ナロに話を聞かされた帯素は召西奴に会いにやってきた。
「召西奴。私だ」
外から声がかかってすぐ帯素は部屋に入ってきた。召西奴と朱蒙はバツが悪そうに席を立った。
朱蒙を見て帯素は言った。
「ヒョント城に何のようだ」
「あっちこっち巡り歩いているうちにヒョント城にたどり着きました」
「ヒョント城で会おうと二人で約束でもしていたか」
「偶然、会っただけです」と召西奴。
笑いながら帯素は席についた。
「座れ」
朱蒙らも席についた。
「夫余はいま、災いのきざしが現れ、陛下と民は心配で夜も昼も眠れないのに、仮にも王子が羽を伸ばしているの気楽なご身分だ」
「兄上こそ何のようですか。ヒョント城にひんぱんに来ますね。太守と内密に取引でもやっているのですか」
「何だと。私をなめているのか」
「夫余が危機に直面している今、夫余の太子になる兄上こそどうしてヒョント城に来ましたか」
「ハンナラとの危機が高まったらまた交易に問題がおこりそうなので、事前に調整しにきたのだ。お前が疑う取引などない」
朱蒙と会って言い争い、朱蒙への腹立ちが収まらない帯素は、ヤンジョンに鉄騎軍を襲ったのは朱蒙だと報告を入れた。すぐさま朱蒙を捕らえるべく兵が繰り出された。
朱蒙らは辛うじて囲みを突破し、召西奴らの馬を拝借して逃げ去った。
帯素は鉄製武器の職人を夫余に連れてきた。しかし、ハンナラの人間とは言えない。陛下には古朝鮮の流民だと説明した。
ヒョント城からやってきた職人らは態度が大きかった。モパルモの作った剣を折ってはその技術をあざ笑った。
彼らはモパルモを追い出しておいて剣を作った。
やってきた職人らの仕事ぶりを金蛙王が見にやってきた。金蛙王はそれらの剣を試した。剣を折れず、帯素は得意満面の表情をした。
その頃、朱蒙はチョンム山に向かった。
「兄貴。どうしてまたここに・・・」
「夫余に戻る前にお前たちに話しておきたいことがある」
そこに立った朱蒙は言った。
「夫余に戻る私はもう夫余の王子ではない。タムル軍の子孫だ。私の実父はタムル軍の大将だったヘモス将軍だ」
三人は驚きの目を朱蒙に向けた。
父の成し遂げられなかった夢をこれからは私が引き継ぐ。ハンナラに束縛され、苦しんでいる古朝鮮の流民たちを救い出し、失った土地を取り戻す。これが私が夫余に戻る理由だ・・・オイや、マリや、ヒョッポや、ついてきてくれるか」
三人は声をそろえた。
「もちろんです」
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