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韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(111)
クムスンはヨンオクのそばに歩み寄った。何も言わず母親のカバンを奪い取った。怒りの目をぶつけ、黙ってヨンオクの病室へ歩いていった。
カバンを奪われた以上、ヨンオクはクムスンについていくしかなかった。
ヨンオクの病室に入ったクムスンはカバンをベッドに押し付けるように置いた。
この時、クムスンの目に封筒が目に止まった。手紙に書かれている内容がどんなものかクムスンには想像がついた。
力ない足取りでヨンオクは病室へ入ってくる。そっとドアを閉める。
「置き手紙までして、どこへ?」
ヨンオクは黙ってベッドのそばに来る。
「逃げようとしたんですか? まさか、また米国へ」
「・・・」
「答えてちょうだい。どこへ行くつもりだったんです」
「・・・」
「逃げるつもりね。そうでしょ」
ヨンオクはクムスンを見る。
「何とか言いなさいよ」
ヨンオクはクムスンの前でオドオドした。
「私が――あなたから腎臓なんかもらえるわけない。とても無理だわ」
「だからって・・・逃げたら、残された人はどうなるの?」
「・・・」
「幼い子がいるんでしょ。そんな身体で逃げて、万一のことがあったら・・・その子は私の二の舞ね」
「違う、違うの。私は絶対に死なないわ。透析を受けてちゃんと生きていくの」
「どうやってよ」
クムスンはヨンオクを睨みつけて言った。
「今までだって、透析しては何度も倒れたでしょ」
「・・・」
「本当にあなたは自分勝手な人だわ。いったい、どうして? 自らの立場や感情でしか物事を考えてない」
「・・・」
「私がこれまでどんな思いだったか――反対や逆境を乗り越えてここまで来たの」
「・・・」
「私にとっては――母親だから生かそうとした。息子の祖母が増えた喜びもあって――義父母まで説得した。おばあちゃんにはひどいことまで言ったわ」
ジョムスンに言われた言葉を思い出し、ヨンオクは涙を流した。
「なのに逃げると? そんなに良心が大事なの? 私の身にもなってよ」
ヨンオクは泣いて、許しを請う目をクムスンに向ける。
「なるほど・・・今になって理解できる。さすが子供を捨てた人だわ。先を考えず――無責任で自分勝手なんだから。弱気になり――すぐ泣くばかりで、辛くなったら逃げるだけ」
「・・・」
「いいわね。そうする逃げ場があって。私には逃げる場所などなかった。
父親も母親も最初からいなかったし――親戚の家もない。だから姑に嫌われててもずっと嫁ぎ先に――いるしかなかった。私が母親だから。どんなに惨めでも――私がフィソンの母だから。孤独の辛さを知ってるから」
「ごめんね」
ヨンオクはクムスンに腕を伸ばした。あげた手を震わせた。泣きじゃくりながら言った。
「ごめんなさい。このとおりよ。本当に、ごめんなさい」
「・・・」
「でもね――1日も・・・あなたを忘れた日はないのよ。これだけは信じてちょうだい」
「・・・」
「たった一瞬たりとも私の心の中から――あなたのことを消したことはないわ」
涙を浮かべてクムスンは言った。
「嘘つき――そのくせ、また逃げるの? 思い続けた娘に会えたのに・・・その娘が、心から腎臓の手術を受けて――生き延びてほしいと頼んでるのに、また身勝手に逃げようと? なぜよ。移植を拒否すれば、良心のある母親になれて――それで、過去が許されるとでも?」
「・・・」
「いいわ。行って。行って構わない。どこで死のうともう気にしないから。私も病室を出たら――数ヶ月間のことを忘れるわ。今までのは悪夢で――最初から母親なんかいなかったと思う。だから行って。いつもどおり逃げたらいい」
言いたいことをありったけぶつけ、クムスンは背を返した。振り向かずに病室を出た。
涙を手で拭いながら廊下を歩き去った。
病室に残されたヨンオクは声を殺して泣いた。
自分の気持ちが母親にどれだけ通じたのか――最後の言葉も手術の決心を促すためだった。
だがクムスンは不安だった。母親はまたカバンを握っているかもしれない。
もやもやした気分を引きずるように歩いていると前方からジェヒが歩いてくる。
クムスンはほっとなる。少しは気分転換にもなるかもしれない。
そう思って笑顔で挨拶しようとしたら、ジェヒはクムスンに目もくれずに傍らを通り過ぎてしまう。
クムスンはジェヒの後姿を見やった。ジェヒは振り返る様子も見せない。クムスンはショックだった。
バスを待ちながら、今しがたジェヒの取った態度についてクムスンは考え続けた。
一方、クムスンをシカトしたジェヒも心中は穏やかではない。ドクタールームでカバンを投げ出し、クムスンのことを考えた。
寝付けず、テワンは身体を起こした。すると、ベッドの下で丸くなって寝ているシワンが目に飛び込んできた。
「すっかり大事になったようだな」
テワンはシワンを起こして訊ねた。
「いったいどれほどの浮気をやったんだ? 現場を押さえられたのか?」
「そんなんじゃないよ。俺が浮気なんかするか」
「そう言ったくせに」
「両親には内緒だぞ」
シワンは部屋に戻った。
ソンランは布団をたたんだところだった。
「よく寝たか?」
シワンは黙って出ていこうとするソンランの腕を取る。
「俺がどうすれば怒りは収まるんだよ」
「とりあえず、腕を離して」
「お前ってヤツはひどすぎるぞ」
「そう思ってるうちは、解決にはまだまだ遠いわ」
ソンランは部屋を出ていった。
静かな朝食になった。誰も何も言わず淡々と食事が進行する。
昨夜、ソンランが何事もなかったように帰宅したので、シワンとソンランの間には一段と深い謎が広がってしまった。
ピルトもジョンシムもさすがにシワンの浮気でないことには気づきだしている。
ソンランが顔を上げると二人は彼女から目をそらした。
ソンランは切り出した。
「お義父さま、現場監督の件ですが、先輩がお義父さまにお会いして――それで問題なければ来週から仕事を」
「そうか。俺は大丈夫だ。いつ会おうか」
「お義父さまのご都合でどうぞ」
「じゃあ、明日でいいかな」
「では、先輩と場所を決めて夜にお話しします」
「ああ、頼むよ」
ジョンシムは、わけがわからない、という顔をピルトに向ける。
――捨てた娘の腎臓をもらう。
ヨンオクは自分の罪を呪った。無慈悲で破廉恥な自分を呪った。
呪って泣き続けた。
捨てた娘の言葉を思い返しながら泣き続けた。
――また逃げるの? 思い続けた娘に会えたのに、その娘が心から腎臓の手術を受けて――生き延びてほしいと頼んでるのに、また身勝手に逃げようと?
泣くだけ泣いてヨンオクは決意した。
購えない罪なら、娘の気持ちと意思に従おう、と。
すると自分の気持ちも少しは楽になったような気がした。
ヨンオクは主治医の部屋を訪ねた。
ノックして部屋に入っていくと主治医は訊ねる。
「なぜ私服を?」
「・・・」
「座って」
腰をおろすとヨンオクは話し出す。
「東京にいる姉の家に行くつもりでした。長距離の飛行が不安で」
「・・・」
「今――私が娘に出来る唯一のことは――手術を断ることだとずっと思ってたんです。でも――それさえ、できません」
「・・・」
「私の娘の――健康状態はどうなのでしょうか」
「先日の検査結果は良好でした。貧血気味ですが――鉄分剤を服用しており、手術に支障はありません」
「手術を・・・手術の際には――最高の医療スタッフをつけてくれますね」
「もちろんです。ご決断を――決める時です」
「分かりました。手術を・・・受けます」
病室に戻ったヨンオクは寝巻きを握り、ベッドにうつ伏せ、堰を切ったように泣き出した。
そこにキジョンが飛び込んできた。
しかし、泣き続けるヨンオクの姿を見て、そっとドアを閉めて出て行った。
クムスンはユン室長から仕事のノウハウを吸収するのに必死だった。
「20号と22号を用意して、トップ部分を巻いて――」
頷いて行こうとして、クムスンはハッと室長を見た。
「やってみなさい。前回の様子なら平気よ。自信を持ってやるの」
「はい」
クムスンを見、室長はその客から離れた。
クムスンの携帯が鳴った。クムスンは店の外で電話に出た。キジョンからだった。
「妻が手術を決意してくれたよ」
「はい。ありがとうございます。私も早い方がいいです」
ウンジュはミジャを見舞った。
「身体の具合はどうです?」
「すっきりしたわ。もう大丈夫よ。来なくてもいいのに」
「見舞いですよ。院長のお好きなアンコウを買ってきました」
「ありがとう。匂いだけでおいしそうよ」
クマが帰宅した。
「早かったのね」
「食事会が中止に」
クマは部屋に上がってくる。
「おばあちゃん、ただいま」
「ええ、ご苦労様」
「おばあちゃんの好きなアンパン買ってきたわ」
「気が利くわね。食後に食べたらいいわね」とスンジャ。
「ええ、ありがとう」
しかし、ジョムスンは食欲が湧かないようである。
フィソンはピルトとジョンシムの前で保育園で覚えた歌をうたった。
ピルトたちは拍手喝采する。
「あら、すごいわね。上手に歌えましたよ」
クムスンは飲み物を運んでくる。
「フィソンったら上手だったわよ」
クムスンはフィソンを抱いた。
「上手なんだから照れないのよ」とジョンシム。
「はい、お茶です、お義父さん、お義母さん」
ピルトはお茶を飲む。 クムスンは切り出した。
「お義母さん――どうか許可してください」
ジョンシムは黙っている。少し間をおいて話す。
「なぜ反対すると思う? フィソンのため? あなたが哀れだからよ」
「私は大丈夫です。最初は悩みましたが、今は何ともありません。祖母も決めたのなら、気楽に考えて快く受けろと言ってくれました。本当に平気です」
「そういうことなら止められないわ。好きにしなさい」
「お義母さん、ありがとうございます」
「・・・フィソンをおいてここにきなさい」
ジョンシムはクムスンを抱きしめた。
「大丈夫よ。きっとうまくいく。心配いらないから」
部屋に戻ったクムスンに気がかりが戻ってきた。
携帯を握り、クムスンは今朝のジェヒのことを考えた。
ジェヒはドクタールームに戻り、帰るしたくにかかった。そこに研修医が戻ってきた。
「チャン先生の奥様は手術を受けられるとか」
「何だと。それ本当か?」
「月曜日だそうです」
「誰が言った?」
「オ先生から聞きました。朝に決断したと」
ジェヒは部屋を飛び出していった。
車のところにやってきたジェヒはクムスンに電話を入れた。
「手術するのか? ・・・応じるのかよ」
「はい。応じます」
「分かった」
ジェヒは携帯を切った。クムスンはびっくりして相手に呼びかけた。
「ねえ、ちょっと待って」
しかし、通じない。やむなく携帯を閉じる。
だが昼間のこともある。彼に対するモヤモヤは晴れない。
クムスンは部屋を出た。家を出た。
通りに出てタクシーをつかまえて乗った。
ジェヒはドクタールームに戻ってきた。上着を脱ぎ、医書を手にする。ページを開いたら携帯が鳴った。
クムスンからだった。
「私ですけど、話があって病院の前に・・・」
「今、忙しいんだ」
「少しだけです。すぐすみますから」
「忙しいから切るぞ」
「もしもし」
ジェヒはまたも電話を切った。
電話を切ったジェヒは医書を開く。
すると携帯が鳴った。
「しつこいぞ」
「すみません。すぐすみます。前に話をしたベンチにいます。来るまで待ってます」
携帯を切ったジェヒだが、迷いは続いている。
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