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韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(54)
「話しづらいことか?」
ピルトはシワンを見て続けた。
「それなら――俺から話そうか? 俺も話があるんだ」
「はい。先に話してください」
「俺が今、どこから来たと思う?」
「会社からでは?」
ピルトは首を振った。
「区立図書館からだ。最近、図書館に出勤してる」
「父さん、それはどういうことです?」
「退職したんだ」
シワンは声を失った。不可解な顔をした。
「会社を辞めたんだ。半月くらい前だ」
「父さん・・・」
「社長が・・・今の社長、知ってるだろう? 俺を呼んで頼むと頭を下げたんだ。若い人たちが――楽に働けるようにと・・・。若いヤツらは・・・俺と一緒に働きづらいようだし、そろそろ退くべきかと考えてはいたんだが――俺が話すまでは待ってほしかった。恨めしかった。この年まで働けたから、いいんだが」
「・・・」
「お荷物扱いは嫌だから、パソコンの研修やら、新しい工事技法が出たら、本を買って勉強をしたりした。しかし歳のせいか――ぜんぜん頭に入らなくて・・・何回、説明してもらっても聞きなおしても、理解できないんだ」
「・・・」
「それで――お前の結婚式には祝賀客が少ないかもな」
「・・・」
「母さんの強い願いだし、どうにか結婚式までは粘ろうと思ったんだ」
「父さん、そんなこと・・・もっと早く、言ってくれればよかったのに」
「結婚式が終わったらと考えていた。結婚のことで母さんが嬉しそうにしてたから」
「・・・」
「久しぶりだろう? 母さんがあんなに喜んでるのは?」
シワンは頷いた。
「俺が退職しても、すぐにお前が結婚したらショックも和らぐだろうさ」
「父さん・・・」
「俺のことは心配するな。今は清々してるんだ。もう半月なんだぞ」
「それじゃ今まで――朝、早くに出て、図書館にいたんですか?」
ピルトは苦笑する。
「図書館や他にもあっちこっち行ったりした。映画館にも行ったな。母さんの脚が治った記念に映画に行ったんだが――なぜか俺が見た映画を見たがって・・・あの時は困ったな」
ピルトはお茶をぐびっと飲んだ。
「俺の話はここまでだ。お前も話してみろ。口にしづらい話なんだろう?」
シワンはためらい、どこから話すべきか迷っている。
「何だって聞くから話してみろ」
「いえ、大したことじゃないんです」
「だったら話しなさい」
「実は分家しようと思ってたんです。すみません。一緒に住みます」
「・・・そうか。一年だけ一緒にな」
二人は料亭を出た。
料亭の前で別れ、シワンはピルトが帰っていくのを見送った。
父親を見送りながら、ソンランのことを話せなかったのを悔やんだ。
食事の最中、ヘミはクムスンに言った。
「クムスン、私、氷水が飲みたいわ」
「それで?」
「”それで?”」
ヘミは訊ね返す。
「わかったわ」
ヘミの顔色を見てクムスンは席を立つ。氷水を作りに行く。他のスタッフはあっけに取られている。
ヘミはにんまり。ひとりご満悦である。
実習を受けながらクムスンは熱心にメモを取った。教え甲斐を感じてユン室長も満足そうだ。
「はい、後をお願い」
室長は別のスタッフのところへ行く。
後を受けて、クムスンの張り切った仕事は続く。
客が入ってきた。
「ヘミさんお客さんです」
客を見てヘミは一計を案じる。またひとつからかえる。
ヘミはクムスンに声をかける。
「ここは私がやるからあっちへ行って。あなたと同じおばさんだからさ」
「・・・」
先輩の言うことは聞かなければ仕方がない。言うとおりにする。
クムスンが携帯を操作していると、ヘミがやってきて取り上げる。トイレだった。
「何をするの? 返して」
「待って、フィソンを見せて。おおっ、この子がフィソンか・・・全然あなたに似てないわね。旦那に似てるの?」
「・・・」
「旦那は何してる人?」
「返してよ」
「待ちなさいってば」
「何のつもりなのよ」
「息子の写真ばかりじゃない。旦那の写真は1枚もないの? 離婚したの?」
「早く返しなさいよ」
ヘミは舌打ちする。
「またそんな顔しちゃってさ」
ヘミは携帯をクムスンに向かって投げる。
クムスンは携帯を握り、怒りを抑えてトイレを出ていく。
クムスンは店の外に出た。携帯写真のフィソンを相手に悔しさを紛らわした。
そこに院長を送ってジェヒがやってきた。
ジェヒはクムスンを見つけて急に元気が出た。彼女に会うとなぜか胸がときめくのだが、母親がいる手前、目が合うと急に知らない振りをする。
今時、腕時計で時刻を確かめる人間などいはしないのに・・・。
シカトされて気分を悪くしたクムスンだが、仕事中なのを思い出して店に戻っていく。
ジェヒはその様子を楽しそうに目で追った。
二階の窓からジェヒを見つめおろしているウンジュにはそれが怪訝でならなかった。
階下に自分がいなければどこにいるかは見当もつくだろうに、ここへは一瞥すらなかった。
ウンジュはすぐ電話を入れた。
「私よ、今どこ? そう? 今すぐ会いましょう。・・・今じゃないとダメなの。カフェで待ってるわ」
キジョンがヨンオクのところへやってくる。
二人はウンジュの心配を始める。
電話がつながらない、とヨンオクは言う。
「何かあったのかしら?」
「あったんだろう。ジェヒが――ウンジュと結婚する気はないと言った」
キジョンはジェヒと会った話をした。彼の話を聞いて失望したのを話した。殴りたい気持ちを辛うじてこらえたと話した。
「こらえないで、殴ればよかったのに」とヨンオクは言った。
キジョンは驚いてヨンオクを見た。
「だから、電話にも出なかったのね。ウンジュがかわいそうだわ」
スンジャは仕事を終えて帰路に着く。階段をあがり、出口に向かおうとしたら、前方から歩いてくるキジョンに気付いた。
挨拶しようと頬を緩ませたら一緒に歩いてくる女性に見覚えがある。
いや、あるどころじゃない。3秒でスンジャの顔は強張りだす。スンジャの口は驚きとともに大きく開いた。目はまん丸になった。
キジョンと目が合ったとたん、物陰に逃げ込んだ。
胸の動悸が速まる。スンジャは胸を押さえ、大きく息をつく。
キジョンは目が合ったスンジャを気にしながらヨンオクの身体を支えて歩き続ける。
「誰か知り合い?」ヨンオクが訊ねる。
キジョンは動揺を見せながら否定する。
キジョンの連れ合いがヨンオクらしいのを知り、スンジャのショックは大きかった。
疑心暗鬼の強いスンジャの中で、クムスンを通じた一連の出来事がすべてつながりだしていた。
ヨンオクを車に乗せたキジョンはスンジャに妻を見られたことで悪い予感を覚えていた。
キジョンからもらった果物をみんなで美味しく食べているところにスンジャは帰ってきた。
彼女は家族の談笑に加わらず隣りの部屋に引っ込んだ。
夜中、スンジャの疑心暗鬼はどんどん泥沼に入っていった。彼女の目に、キジョンはクムスンの腎臓を狙う鬼畜のように見えてきた。否定する気持ちは一つずつ潰されていった。
病棟で菓子をつまんでいる女性スタッフを見ているうち、彼女らの姿がジェヒの目にクムスンとダブりだした。自分の前で、パンをナイフで切ってフォークで食べていたクムスン。その姿がジェヒの前に立ち現れていた。ジェヒはエンゼルのような笑みを彼女らに向けた。女性スタッフはそんな彼に気付き、怪訝そうな表情を返す。
笑顔でじっとみつめられ、彼女らもはにかみだす。
用向きが停止し、所在なげな後輩らもジェヒの異変に気付いた。
さすがにジェヒも我に返った。あわてて平常心を取り戻そうとしたジェヒは足元をもつれさせた。次の足を送れず、その場に転倒した。
スタッフや後輩らは懸命に笑をこらえた。
明日はロット巻きの試験だ。夜は深まっているが、クムスンの練習は続く。テワンが引っ込んだ後シワンが帰ってきた。
「まだ起きてたの?」
「お帰りなさい」
「練習中でしたか・・・上手くいってる?」
「いいえ。セクションして、ラウンディングを時間内にするのが難しくて」
クムスンは照れた。
「意味不明でしょう?」
「ああ、何の話かわからないな」
微笑を返したシワンはクムスンの手を見て言った。
「その手はどうしたの?」
「ああ」
「見せて」
クムスンの手を取ってびっくりする。
「こんなにも・・・ひどく荒れちゃってる」
「大丈夫ですよ。誰でも最初はそうなんです」
「――薬品のせいで? 軟膏でも塗らないともっとひどくなるんじゃ」
クムスンは自分の手を見た。
「塗るんですけど、毎日、手を使うので・・・それに今日はパーマの客が多くて・・・あとで薬を塗って寝れば大丈夫です。心配しないでください」
「・・・」
「大丈夫です。もう遅いから休んでください」
「クムスンさんも無理しないで。じゃあ、お先に」
部屋に入ったシワンはテワンと雑談した後、おもむろに切り出した。
「テワン。高校の同級生のクアンミンを知ってるか?」
「クアンミン?」テワンは身体を起こした。「知ってるよ。何?」
「実は今まで会ってきたんだが、彼に問題があって相談に乗ってたんだ。何と答えたらいいかわからない」
「どんな問題?」
テワンはシワンとまっすぐ向き合った。
「あいつに結婚したい女がいるんだが、バツイチなんだ」
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