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家を出ていく自分をチョルスは必死に引き止める。
「どこへ行くんだ?」
「清算はすんだわ」
「いや、すんでない。ジャージャー麺と同じくらい、俺が好きだと言ってたじゃないか」
「もう全部やめたわ」
「全部やめても俺のことは好きでいろ」
「断ったら?」
「どこにいても、どんなに遠くても…俺はお前を捜しに行く」
チョルスは悲痛な声で自分にすがってくる。
アンナは愉快な気分になってきた。ニコニコしてチョルスを見やった。
「そうよ。今頃になって、私にドキドキしてきたのよ」
チョルスはぐっすり眠りに沈んでいる。
そんなチョルスを気分よく眺めているうち、アンナは次第に腹を立ててくる。
「ふん、こっちを悩ませるだけ悩ませておいて、ノー天気に熟睡?」
歯軋りしだすとチョルスが突然目を開ける。アンナは顎をしゃくった。そのまま目をつぶった。眠った振りをした。
いかにもの格好にチョルスは笑った。
「サンシラーッ、そろそろ着くぞ。寝た振りしてたらまた乗り過ごすぞ」
そう言ってチョルスは立ち上がった。
チョルスの嫌味に腹を立てながらアンナもついて立った。
先にチョルスがバスを降りる。
さっきからずっと考えていた。チョルスの態度がどうも煮え切らない。アンナはそれが許せない。
「チャン・チョルス、はっきりしてよ」
チョルスは振り返る。
「俺も混乱してるんだ」
「…」
「自分のついた嘘のせいで錯覚を起こしてる。今の状況で・・・結論を出すのは不公平だろ」
アンナはチョルスのそばに歩み寄った。
「なぜ?」
「お前には記憶がない。喧嘩したことも…憎み合ってたのも覚えてないだろ」
「だから?」
「だから」チョルスはアンナの頭に手を置いた。「お前の記憶が戻ったらその時に考えよう」
「つまり~、記憶が戻った時、あんたは私に嫌われるのが怖いのね?」
チョルスはアンナのうぬぼれに呆れた。
「よく言った。さすが、サンシルだ。うん」
チョルスは首を横に振った。
「気遣いというものがない、気遣いが」
アンナを捨て置いて先に歩き出す。
何を思ったか、アンナは嬉しそうな顔になる。
空を仰いでため息をついているチョルスに追いついた。横に並んで言った。
「チャン・チョルス。気の毒だけど私はあんたをやめるつもりだから。いい? あっはははは」
気持ちよさそうに笑いながら今度はアンナが先に立った。
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