雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載49)






 韓国ドラマ「病院船」から(連載49)






「病院船」第5話➡騒動⑥




★★★


 病院船内を騒がした患者の手術は始まろうとしていた。
 ウンジェは患者に説明した。
「手術は簡単です。結手を除去して縫合します」
 患者は殊勝にウンジェの説明に聞き入る。
「ただ、破裂部位に変形は生じます」
「…機能の方は大丈夫でしょうね?」
 患者はスタッフを見回す。ウンジェは頷く。
 サブについたヒョンは言った。
「意識の高揚が見られるので、鎮静剤も投与します」
 ウンジェは了承する。


 この時、手術室にアリムが飛び込んできた。彼女も興奮していた。
声を荒げてウンジェに訴えた。
「どうしてこんな奴に手術を?」
 アリムの声に患者は目をあけ「ふぅ―っ」と息を吐く。
「アリムさん」とウンジェ。
「しないで」とアリム。「する必要はありません」
「自分が何言ってるか、わかってる?」
「ええ。愛と信頼を裏切るヤツは、ほんとの男じゃない。だから」
「ストップ、そこまで」
 ウンジェはアリムを睨みつける。
 アリムは黙った。
 ヒョンが言った。
「ジュニョン、彼女を外に」
「いいえ」とウンジェ。すかさずアリムに指示を出す。「手術着に着替えて」
 一瞬、静寂がきた。アリムはウンジェを見つめ返す。
 ウンジェはアリムの目を見て言った。
「あなたもここに参加するのよ」 


★★★


 ヒョンもさすがに話をやめさせようとする。
 しかしウンジェは続けた。
「男に浮気された女でなく、プロの看護師として治療を手伝いなさい」
「しかし、先生…」
 ゴウンも後ろから声をかける。
「早く!」
 アリムはギヨンを見た。すでに麻酔は効き始めている。
「私には無理です…」アリムは激しく言い放つ。「出来ません!」  
「断るなら…」ウンジェは冷静だった。「今後一切、手術室への出入りを禁じるわ」
「…」
「それでもいい?」
 アリムは動揺する。唇を噛み、顔をしかめ、ウンジェを睨みつけた後、黙って手術室を出ていった。
 ドアが閉まるとウンジェは横に手を出した。
「メス!」
 何事もなかったように手術を開始した。




 外に出たアリムは口惜しかった。師と崇めるウンジェに理解されなかったのがショックだった。目に涙は溢れ、悲しさに噎んだ。口を押えてすすり泣いた。泣いてる自分が情けなくてもっと泣いた。
 泣くだけ泣いてアリムは手術着姿になった。手を消毒して手術室に戻った。
 ウンジェは黙ってアリムを迎え入れた。アリムはウンジェの横に立った。
 ウンジェはクールに指示を出した。
「アリムさん、ハサミ」 
 ハサミはゴウンの手からアリムに渡った。
「気を楽にして1センチ間隔で切って」
 アリムはスタッフとしての作業に入った。
「カット」
 すかさずアリムのハサミが動く。
「カット」…
 手術は無事に終了した。




 手術を終えた後、アリムは1人で船室から外に出た。外は雨が降り出していた。
 赤い傘をさし、ウンジェがアリムを追って出てくる。
 後ろから声をかける。
 振り向くと缶ビールが飛んでくる。アリムははっと受け止める。
 2人は海側に向かって並び、プルリングを外した。
 アリムは言った。
「先生は腕が良すぎますよ」
 ウンジェは黙ってビールを飲む。
「あいつは今後も男として生きていけますね」
 ウンジェはアリムを見た。
「でも破裂部位は変形するわ…」
「…」
「すご~く、ひん曲がる」
 アリムはビールの炭酸でむせた。
 2人は一緒に笑い出した。
「それにあなただって、女の生き方、やめるわけじゃないでしょ」
「先生ったら…!」
 2人はビール缶をぶつけ合った。軽快な笑い声は雨の中でこだました。




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