雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「30だけど17です」(連載77)




韓国ドラマ「30だけど17です」(連載77)



「30だけど17です」第9話(戸惑いと心地よさ)③


☆主なキャスト&登場人物


○シン・ヘソン➡(ウ・ソリ)
○ヤン・セジョン➡(コン・ウジン)
○アン・ヒュソプ➡(ユ・チャン)
○イエ・ジウォン➡(ジェニファー(ファン・ミジョン)
○チョ・ヒョンシク➡(ハン・ドクス)
○イ・ドヒョン➡(トン・ヘボム)
○チョン・ユジン➡(カン・ヒス)
○ユン・ソヌ➡(キム・ヒョンテ)
○チョ・ユジョン(イ・リアン)
○ワン・ジウォン(リン・キム)
○アン・スギョン(チン・ヒョン)


★★★ 

 一番遅く家に帰り着いたのはウジンだった。ドアノブを握ったウジンは手を放し、庭先の長椅子でしばし思案に耽った。
「遅かったですね」
 横から声がかかり、ぎょっとなる。ジェニファーだった。 
「驚かせたならお詫びします」
 ウジンは小さく頷く。
「庭に唐辛子を干しています。そこで重要なのは―天日に干した唐辛子が夜露に濡れないことです」
「…」
「美味しく干すには…」
「あの…聞いてませんけど」
「確かに聞かれてませんね」
「はい」
「夜食を召し上がるなら…」
「必要ありません」
「確かに夜食は召し上がりませんね」
「はい」
 2人はしばし黙っていた。 
 ウジンが言った。
「まだ何か?」
「月明かりがきれいなので、月光浴をしようかと」
「咲良が開いたかと思ったら時が経つのは早いですね」
「そうですか…僕は遅く感じます」
 ジェニファーはウジンを見た。
「時が進むのがもっと早ければいいのに…目が覚めたら一か月後になってるとか」
「引き止めたくても急いで進めたくとも時は一定に過ぎます。死んでしまいたいくらいつらく苦しい時間も―いつかは通り過ぎます」
 ウジンはジェニファーを見上げた。
「永遠に消えないと思えた辛く苦しい記憶すら―思い出さなくなる日が来ます」
 ウジンの眼差しは真剣味も帯びた。
「時間が過ぎる前から目を背けてしまえば―大事なものまでその時間と共に流されてしまいます。後悔しても遅いのです」
 身を起しかけたウジンにジェニファーは言った。
「月光浴はここまで。これで失礼します」
 ジェニファーはウジンに深々と挨拶して背をを向けた。
 ウジンはしばしそこに佇んだままだった。

★★★ 


 夜中に目が覚めたソリは水を飲んで2階へ上がっていった。酔いは完全に彼女の理性を奪っていた。
 そこは違う、とばかりトックが塒から出てきて呼んだ。
「そこは違う、部屋はこっちだよ!」
 トックは鳴いて叫んだが、その声はソリに届かなかった。
 泥酔状態のソリはふらふらとウジンの部屋に入り込んだ。そのまま寝床に潜り込んだ。毛布にくるまって寝てしまった。


 そうして朝がやってきた。
 先に目覚めたのはソリだった。
 毛布の中で目を開けると目の前に横になったウジンがいる。夢かと思い、一度目を閉じた。もう一度、目を開けた。
 やっぱり目の前でウジンが寝ている。
 何だか変だわ。夢でも見ているの? 夢におじさんが現れたの? お酒を飲んだからかしら? おかしな夢だわ。まるで本物みたい…。
 じっと見つめているとウジンは目を開けた。
 イヤだ、目を開けた。ものすごくリアルだわ。
 ソリはそっと腕を伸ばした。手のひらでピタンと頬を叩いてみた。すると夢の中のウジンは声を出した。
 ソリははっとなった。
「これは夢なのよ」
 ソリは言った。
「夢じゃないと思います」
 ソリは夢と信じて疑わない。
「夢でなければ―なぜおじさんがここにいるの?」
「僕の部屋だから」
「私の部屋です」
「13年前はそうだったでしょう」
「はい?」
 ソリはそっと毛布をはぐった。部屋を見回した。
 急激に現実が戻ってくる。
 びっくりして飛び起きる。ベッドの外に飛び出した。
「ど、どうして?」
 ウジンは不機嫌そうに身体を起こした。
「お、お酒が美味しくてつい飲み過ぎて…」
 ソリは急いで弁解する。
「ほんとにすみません」
 部屋を飛び出そうとしたら、外から声がかかった。
「ミスター・コン、起きた?」
 外には出られない。ソリは急いで隠れ場所を探す。箪笥の中に逃げ込んだ。
 すぐにチャンが入って来る。
「おはよう」
 チャンはベッドの前に立った。
「愛する甥っ子に香水を貸して」
「ああ、持っていけ」
「ついでにTシャツも貸して。タンスの中?」
 箪笥をあけた時、ウジンから声がかかった。
「そこにはないよ」
 箪笥は開けたが、チャンはすぐ振り返った。
「そうなんだ。それは残念」
 ソリに気づかず箪笥を閉めた。
 出て行く時、チャンは言った。
「やっと顔が見れたよ。香水をサンキュー」
 ソリは胸をなでおろした。
 そばにラバーカップがあって手にする。
 その時、箪笥が開いた。ウジンはソリを見下ろして言った。
「なぜ隠れた?」
「えっ! あ…、おじさんが困ると思って」
「説明すれば困ることはない。だろ?」
「ええ…」
 ソリはラバーカップを手にした。
「このスッポンをなぜ箪笥の中に?」
「いけませんか?」
「あ…、外にかけておいた方がすぐに使えて便利かと…」
 ソリの話を無視してウジンは言った。
「身支度するから外に出て」
「あ、わかりました」
 ソリは外に出た。ペコンと頭を下げて部屋を出ていった。


 
 神経科医に伝えた自分の言葉を思い出した。
「思い出したくない記憶を彼女が堀り起こすんです。必死で拒もうとしても、なぜか彼女のことは拒めません」
 ウジンはラバーカップを元に戻して箪笥を閉めた。机に座って考え込んだ。


 自分の部屋に戻りながらソリは首を傾げた。
「なぜ、スッポンをしまったのかしら…」
 下にいたチャンが声をかけてくる。
「いたんだ。洗面所だったの?」
「はい…」
「今朝もトレーニングがてら送りましょうか?」
「あ、いえ…、早すぎるからゆっくり出勤しろと」
「ええ? ヒスさんは何を考えてるんだ。やる気を踏みにじるなんて」
 ソリは黙って背を返した。チャンの話は上の空だった。
「どこへ?」とチャン。
「洗面所に」
 チャンは気抜けする。
「行ってきたのに、また?」





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