雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載47)









 韓国ドラマ「病院船」から(連載47)






「病院船」第5話➡騒動③




★★★


 みんながぞろぞろ集まってきて、船長の景気のいい声が響く。
「さあ~、魅惑の島で催される船上バーベキュー。豚の丸焼きです」
 丸焼き機の蓋が開けられた。
 集まった者たちがどっと沸いた。手を叩いた。
「さあ、みんな。皿を持て」
「早く食べよう」
「最高」
 みんなが沸き返っているところに、男の声が駆け込んで来る。
「先生、先生…先生、来てくれ~」
 みんな声のする岸壁側のデッキに集まった。岸壁を見下ろした。
「大変だ。ぽっきりと折れちまった」
「骨折みたいだ」とヒョン。
 怪我人も車いすで運ばれてきたようだ。
「救急キットを」とウンジェ。「行きましょ」
 ウンジェたちは駆け出していく。


「この人です、この人」
 ヒョンとウンジェが怪我人の前に駆け付けた。
「お名前を」
「ナム・ギヨンです」
「出血がひどい。患者さん、骨折はどちらの脚?」
「そ、それが…」
「…?」
「脚じゃないんです」
 誰かの声がした。
 女がバツの悪そうな顔で歩み寄って来る。
「…」
 さては……!

  ウンジェは彼女を見て思い出した。巨済病院で自分を院長室に案内した女性だ。

「折れたのは…脚じゃなくて」話し辛そうにして答えた。「アレです」
 ゴウンは患者に目をやった。他の者も続いて彼に目をやる。最後にウンジェも彼を見下ろした。
 みんな考え込むだけで言葉はない。
「穴熊のアレは折れて大きくなってたけど、人はどうかなあ…」
 誰かが誰にともなくつぶやく。
 女は手を合わせて訊ねた。
「彼は大丈夫でしょうか?」
 そこへアリムが急いで駆けつけてきた。
「先生、救急患者は…?」
 女を見て急ブレーキをかけた。
「あんた…」
 アリムを見て女は顔を覆う。アリムは車いすの男を見た。
 いきなり叫んだ。
「ギヨン! なんてひどい男なの!」
 男の腕をつかんで平手で叩いた。ヒョンが止めに入ってもバチバチ叩き続けた。
 ヒョンに引き離されて目が合った。アリムは言った。
「彼氏なんです…」
 豚も食わない三角関係の顛末である。






★★★




 噂好きの船長は甲板長を引っ張ってきて訊ねた。他の連中も寄ってきた。
「じゃあ、何か…アリムさんの彼氏が、アリムさんの友達と浮気を?」
「…」
「それでその最中にアレが?」
「みたいですね」
「まったく何てことだ。まさに世も末だな…」




 ウンジェは艶福患者の治療に取りかかった。
 敏感な場所なせいか、彼はちょくちょく悲鳴をあげた。見物のヒョンは呆れた目を彼に向けた。
「ひどく折れてます?」
 顔を起こし彼は訊ねる。
 ゴウンが答える。
「正確には裂けてます」
 ウンジェが付け足す。
「骨はないので…診断名は”白膜破裂”です」




 休憩室は船長、甲板長、看護師、ジェゴルらが集まり、”アレの患者”で盛り上がっていた。
「やっぱり腫れてるんだろうな」
「これくらいは…」拳を見せる甲板長。
「まさか、ほんとか?」
 根がオーバーな船長は目を丸くする。
「嘘でしょ」
 看護師も関心ありありで相槌を打つ。
「ここに目撃者がいる…後で」
 そこへ覗き見をやっていたジュニョンが戻って来る。みんなの前で意味不明なことを口走る。
「女じゃない、女じゃ…」
 ジェゴルはマグカップを差し出す。
「飲むか?」
 熱さを確かめてマグカップを握り、ジュニョンは言う。
「ソン先生は女じゃない」
 ジェゴルは笑う。
「顔色ひとつ変えないなんて…男か…ロボット…」
 そう言ってマグカップを口に持っていく。カップが口に触れた時、ジェゴルはジュニョンの後頭部を叩いた。
「何言ってるんだ」
 ジュニョンは口に含んだものを吐き出しかけた。ジェゴルを見て咳き込んだ。
 ジェゴルはそのまま部屋に戻っていった。




 周囲が可笑しさで沸き返っている中、一番真剣でショックなのはアリムだった。 

 アリムは呼び出した友達に詰め寄った。
「アリム、私の話を聞いて」
 アリムは言い訳は聞かない態度だった。
「私は拒んだの。でもギヨンさんが…」
「その口を閉じなさい!」
 友達は階段口まで追い詰められた。もう後ろがない。さっと横に逃げ、ドアの中に逃げ込んだ。
 アリムはドアを叩いて友達を罵った。
「開けなさい。勝手なことして、この性悪女! 開けなさい」
 やがてアリムの声がしなくなった。
 ほっとして後ろを振り向くとそこはスタッフの休憩室だった。 


 ジェゴルが驚いている。
「ホン秘書がなぜここに? まさか」
 ホン秘書は懇願した。
「お父様には黙ってて…ではなくて」
 手を合わせて頼み込む。
「院長にはどうか内密に」
 これには船長もびっくりだ。
「何だ、知り合いか?」
「”秘書”? ”お父様”?」
 ジュニョンはジェゴルの身分をいぶかりだす。
 ジェゴルは黙ってその場を去る。
「待って」とホン秘書。
「父親が院長ってことは…まさか」
 ジュニョンはホン秘書を見た。ホン秘書は仕方なく頷いた。
「ジェゴルは巨済第一病院の院長の息子ってこと?」
 ジェゴルの身分がそこにいるスタッフらに伝わり、ホン秘書は頭を抱え込んだ。






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