雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載82)








 韓国ドラマ「病院船」から(連載82)






「病院船」第8話➡微妙な関係③




★★★


 夫が姿を見せて一息ついたヨンウンは食堂に顔を出した。そこではジェゴルやジュニョン、看護師らが待機していた。
「どうぞこちらに」と看護師が声をかける。
 ジュニョンも「コーヒー飲みませんか?」と誘う。
「ありがとう、お邪魔します」
 ヨンウンは長いすに腰をおろす。
 ジュニョンはコーヒーを淹れて戻る。
「お口に合うかどうかは分かりませんけど」
 マグカップをヨンウンの前に置く。
「ありがとう。何でもおいしいわ」
 席につくとジュニョンは訊ねた。
「手話がお上手なんですね」
 ヨンウンは素直に頷いた。
「ヒョンさんと一緒に習ったんです」
「お二人は親しいんですか?」
 少し考え、ヨンウンは照れ臭そうに答える。
「ええ、まあ…」
 ジェゴルはジュニョンと目を合わせる。
「恋人同士?」と看護師のひとり。
 もう一人が質問を続ける。
「出会いはどこで?」
 賄いのおばさんもその先を聞きたげにしている。
 ヨンウンは満更でもなさそうに答える。
「手話教室で」
 みなはそれぞれ顔を見合わせる。
 ヨンウンはヒョンらと手話を習った頃を思い出していた。
 
―”好き”と伝えるには、手でグーを作って鼻に近づけます。


 そこを習ってる時、ヒョンは遅れて教室にやってきた。


―では、”あなたが好き”と言ってみましょう。


 平手を相手に向けて”あなたが”、平手を鼻の前でタテにして”とても”、平手を丸めて”好き”です。


 その時、ヒョンは隣に着席したのだった。すると先生は右手の甲に左手を乗せて、”遅刻(遅れた学生)”と言った。先に来て習っていた女性たちは笑い声を立てた。ヒョンは自分を見て笑い声を合わせてきた。
 ヨンウンにとって懐かしいエピソードだった。


★★★


 彼女はその時のことをジュニョンたちに話した。
 
―それでは次に”愛してる”と言ってみましょう。左手でグーを作って右手で撫でるようにします。”愛してます”


―隣の人とペアになって”好きな季節はいつか”と聞いてみましょう。 


 ヨンウンはヒョンと向かい合った。”好きな季節はいつですか?”とヒョンの方から始めた。その時、ヒョンを意識する自分がいた。
 ヨンウンは”冬が好きです”と答え、”あなたの好きな季節は?”と返した。”僕も…冬が好き”とヒョンは答えた。…




「お互い学生生活最後の年でした」
「なぜ手話を?」とジュニョン。
「私は美術のセンスを磨くためでした。手で話すって素敵でしょ?」
「クァク先生は?」と看護師。
「ヒョンさんは患者のためでした」
「患者ですか?」
 ヨンウンは頷く。
「白血病で入院していた子が耳の不自由な子だったの…その子が話す内容を理解できるようになりたいって始めたんです」
「頑張って勉強したんだね」
「そうね…私たちは優秀でしたよ」
「その子はすごく喜んだでしょうね」
「そうだとよかったんですけど…」 
 ヨンウンの話に皆の表情は暗くなる。


 ヨンウンはヒョンに案内されてその子と会った。2人は手話でやりとりできるまでになっていた。
 その日、その子は”喉が渇いた”とヒョンに伝え、水を求めた。
それですぐヒョンは水を入れてあげようとした。しかし、その時に容体の急変が起こった。あっという間の出来事だった。医療スタッフの必死の治療も実らなかった。ヒョンたちは呆然とその子の死んでいくのを見守るだけだった。
「水をくれと言ってたのに」
 ヨンウンの前でヒョンは涙を見せた。
「僕は何もできなかった…」

 ヒョンはヨンウンの腕の中で泣き続けた。
 ヨンウンは言った。
「彼は人目もはばからずに泣いてた…」
「かわいそうに」と看護師たち。
「その時、彼にしようと決めたんです。手放したくないと思ったんです」
「まあ、ドラマみたいにロマンチックだわ」




ヨンウンの話を聞いた後、ジュニョンとジェゴルは診療室に戻った。
「今の話は本当かな?」とジュニョン。
「どうかな…」
 ジェゴルは診療ベッドに転がった。
「ヒョンさんは恋人いないよね?」
「そう聞かされたじゃないか」
「チェさんの言ってることと違う」
「なら、確認してみろよ」
「ソン先生の気を引くための作戦かな?」
「…」
「好きなのかな?」
「俺の勘ではね」
 ジェゴルは身体を起こした。 
「じゃあ、二股か。意外とやるな。ジェゴルさんだってしないのに…」
「だよな」ジェゴルは頷く。「しかし、そんなタイプじゃないけどな」 
「大人しい人ほど大胆なんだよ」
 ジェゴルは頷きながらまたベッドに転がった。




 ウンジェ達の応急処置は無事終了した。子供を病院に搬送するため救急車が迎えに来た。
 家族を見送りに出てヒョンは手話で説明した。
「応急処置はしましたが、治療が必要です。病院には手話のできる看護師もいます」
「どうもありがとう」
 両親はヒョンに感謝を伝え、子供に付き添って救急車で走り去った。




 看護師らの話にアリムは敏感に反応した。
「えっ! 6年も付き合ってるの?」
「うん、ラブラブみたい…」
 ロッカーの前に立つウンジェも彼女らに目をやる。
「結婚するらしいよ」
「結婚、結婚って…」
 アリムはさらに驚く。
 ロッカーの扉がガチンと鳴った。みんなギョッとする。閉めたのはウンジェだった。扉に触り、ブツブツ呟く。
「調子が悪いわね…」
 話をする女たちは見ずにドアを開けて出ていく。そばにいたゴウンは軽く笑みを浮かべた。









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