韓国映画「ビューティ－・インサイド」から⑭

韓国映画「ビューティ－・インサイド」から⑭

　

　サンベクはウジンとは別の意味でイスに好感を持ったようだった。
「ちょっと来て」
　ウジンは出来上がりの長いすにイスを座らせる。
「座り心地はどうだ？」
「いいわよ」
　後ろからサンベクが訊ねた。
「ママスタジオの創立記念パーティーをやるって？　招待状はありがたいけど、行けそうにないな」
　イスはウジンを見上げる。
「アレックスは神秘主義だし、ウジンのこともあるし…」
「…」
「それにかわいい子と同伴でないと出る気も湧かない。悪く思わないでくれ」
　イスはクスクス笑う。
　サンベクの話を聞いたウジンは、長いすの背に手を預けてイスに訊ねる。
「いつやるの？」

　会場は招待者らで埋まり始めている。
　アレックスの家具も創立記念パーティーにお目見えした。
「素敵な家具よね。でしょ？」
　招待者らがやってきてアレックス提供の長椅子に腰をおろす。そこからパーティー会場全体を満足そうに見やる。
　ウジンからはまだ連絡が入らない。携帯をチェックした後、イスは飲み物を口にする。ウジンが来る気になってくれたのは嬉しい。
　しかし、イスの気持ちは複雑だった。彼がどんな姿でやって来るかが見当もつかないからだった。



　その頃、ウジンは鏡を見て途方に暮れていた。この朝、ウジンは望んでいた容姿を得られなかった。男として朝を迎えたが老人の姿だった。これではイスも落胆するだろう。もう一度寝なおしたのだ。どうやら眠ることは出来て、急いで鏡の前に立ったら年取ったおばあさん姿になっていた。　
「やっぱり願うようにはならないか…」
　もう一度とばかり、寝床に入ったが睡魔はやってこない。
　ウジンは布団を押しのけた。現実は受け入れるしかない。
「これで行こう。イスの祖母だと言えばいい」　
　しかしすぐ否定の感情がこみ上げる。
「とんでもない。学芸会じゃないんだぞ」
　ウジンは覚悟を決めてベッドに入りなおす。腹の上に両手を持ってくる。
「高望みはしないから、せめて男の姿に…」
　そう念じて目を閉じた…。
　
　
　ウジンを待ち続けるイスのそばに本部長がやって来る。
「彼は来なかったの？」
　何とも答えようがなく、イスはため息を返す。
「みんな、パートナー同伴だわよ」
「…」
「来るって話だったのに、欠席するの？」
　イスはワインをあおって上司の話を受け流そうとする。
「今日の最大の見どころはあなたの彼氏って話だったのに」
「どうしてです？」
「それは…人によって目撃談が違うし、誰が本命か気になってるからよ」
　イスは上司の目を避ける。戸惑いに沈む。こんな場所で説明できる話でもない。
「本当に…彼氏はいるの？」
　笑みを浮かべつつイスははっきり言い切る。
「いますよ。見たら驚きますよ」
「わかった。でも、こんな日にずっと待たせてるのは悪い彼氏だわ。ここで新しい彼氏を見つけたらどう？　誰がいいかな…」
　そう言って上司は辺りを見回す。

　しばらくしてイスのそばにそっと近づいてきた男がいる。彼はそっとイスの手を握る。イスはびっくりして顔を上げる。
　目が合った瞬間、ウジンは頷く。イスの顔は明るく弾ける。
「早かったろ？」
　複雑な思いでイスは頷く。遅かったのはそれなりの事情があったからと理解できたから。
「こんばんは」
　ウジンは傍らの女性に挨拶した。
　さっきまで悪い彼氏と言っていた相手が思わぬイケメンで、イスの上司は馬鹿笑いで応えた。
「あっはははは、あっはははは…」
　ひと呼吸いれて挨拶を返す。
「初めまして…イスの上司です」
　彼女はイスの彼氏が現れて安心したらしい。
「私はあっちにいくわね。楽しんでください」
　とウジンにも挨拶してその場を離れた。
　イスの耳元に顔を寄せてウジンは言った。
「今日はヒヤヒヤしたよ。2時間前まではおばあさんだったんだ」
「（そうだったの？）」
「（ああ。諦めてあの姿で来ようかと思ったほどさ）」
　見つめ合ってる二人のそばにサンベクがやってきた。ウジンの肩に手をおいて言う。
「今日の二人は輝いてるぞ。眩しすぎて吐きそうだ」
　ウジンを見て満足そうな顔をする。
「場所を変えて一杯やろう」
　サンベクの話は二人に伝わっているのかいないのか、ウジンとイスはニコニコしながらただ見つめ合ったいる。
「何だこの二人…こっちが照れちゃうよ」
　
　ママスタジオの創立記念パーティーは次第に盛り上がりを見せていく。