韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(125)
ミジャに続いてクムスンが入ってくる。
振り返るなりミジャはクムスンを睨みつけた。
「出てって」
「・・・」
「クビよ」
「・・・」
「追求されないことに感謝し、二度と現れないで」
「院長」
「荷物をまとめ、すぐ出ていきなさい」
「なぜ辞めなければいけないんです? 約束を守ったのに」
「約束ですって? 下手な芝居はやめて」
「・・・」
「ずっと息子と会ってたくせに」
「会ってなんかいません」
「私がどれだけ我慢してるかわからないの? 早く出ていきなさい」
「院長・・・」
「我を失うほど責めてほしい? 立場をわきまえなさい。まだ分からないの」
「・・・」
「出てって」
「院長――どうせクビなら、息子さんと交際しても構わないと?」
「何ですって!」
ミジャはクムスンの頬を張った。
「あなた、もう一度言って。何だって?」
「どうして何度も叩くんですか? 開き直って彼と交際しちゃうかもしれませんよ」
もう一度、頬を張りかけてミジャは思いとどまった。
「働かせてください。院長を欺いてまで彼と会う気はありません。信じてください」
「・・・」
「それに――これまで、この店で誰より頑張りました。実力不足でもなく、クビになるのは嫌です」
「・・・」
「おっしゃったはず――私が約束を守れば、早く一人前にすると。責任を果たしてください」
「・・・」
「お分かりのはずです。息子が小さいうちに一人前にならないといけないんです。移籍したらそれだけ遅れるし――いい先生に出会えるかどうかも・・・先生、お願いします。約束を守るので働かせてください」
「・・・」
「院長・・・」
「スタッフみんなの前で私が恥をかいたことは――分かってるわね」
「・・・」
「それでも目をつぶるんだから気持ちを察しなさい。いいでしょう。解雇しないから約束を守りなさい。もし一度でも息子と会ったりしたら――その時は許さないわよ」
「・・・はい」
「戻りなさい」
クムスンは一礼して部屋を出た。
部屋を出たクムスンは携帯を開いた。待ちうけ画像のフィソンを見て決意を新たにした。
ユン室長はクムスンがどうなったか心配だった。
クムスンが戻ってくるとすぐ訊ねた。
「どうなった?」
「心配しましたよね。また先生から教えてもらえます」
室長は自分のことのように息をついた。
ふとウンジュに気付いた。ウンジュは怖い表情を残し背を返した。
円卓を拭きながらジョンシムはジョムスンの言葉を思い返した。
「孫は何かあったとか・・・」
まさかテワンが嘘を・・・あの子がそんな・・・
部屋からピルトが出てくる。
「今日は遅く出てもいいの?」
「ああ――ただ、帰りは少し遅くなるぞ」
「わかったわ――ところで・・・婚家のクマのことだけど、顔も知らないのよね・・・」
「いや、一度、会ったぞ」
「それ、いつの話?」
「先週だったかな・・・どんな娘か気になって会った。つつましく、きれいで、礼儀正しい。それに芯のある娘だぞ。テワンには過分なほどだ」
「何なのよ」
「しかも仕事をしてる。教職に合わないと判断して就職したそうだ」
「何が不満で? 教職は安定してて定年まで働けるのに」
「おい――怒りの程度が下がってないか?」
「・・・ただの客観的な意見よ。間違ってないでしょ――会ったのなら、私に話すべきじゃない?」
「特に何もなかった。テワンと話したかったが、バタバタしてたから・・・ちょうどいい」
ピルトはテワンを呼んだ。
「もう出たわよ。何の話をするの?」
「決ってるさ。クマと結婚しろと」
「何て大変なことを――職場はどこ?」
スンジャはジョムスンに留守を任せて買い物に出た。
スーパーでジョンシムに出会った。
ピルトの話もある。ジョンシムは親しくスンジャに話しかけた。
「サバを?」
「ええ。暑くて食欲がないので煮付けにしようかと・・・お宅は何を?」
「私はイイダコとテナガダコでも買おうかと。おばあさまはお宅に?」
「ええ。暑いから」
二人は話し足りなさを覚え、話を続けようとする。その呼吸が同時だった。
スンジャが譲った」
「どうぞ」
「特に話すこともないんですけど・・・」
「ええ、私の方も・・・あっ、テナガダコは、炒める前にゆでておくと弾力が」
「ええ、知ってます」
スンジャが買い物をすませ、行こうとするとジョンシムが言った。
「暑いですから、さっき買った飲料水ですけど、飲んでくださいな」
「いえ、汗っかきなだけで大丈夫です」
「でも、ひとつです、どうぞ」
「では、ありがたくいただきます」
「今度ぜひ、遊びに来てください」
「はい、そちらも私の家に」
「はい」
「では失礼します」
スンジャは先に魚売り場の前を離れた。
ジェヒが部屋から出てきた。
ミジャは家政婦を家に帰した。
「謝るよ、母さん。ごめん」
「分かってるわけね」
「でも・・・彼女が必要なんだ――母さん・・・許可してくれ」
「自分が何をしたか、自覚がないのね。何よ――あんなことしといて、許可しろと?」
「・・・」
「女に目がくらんでるとはいえ――どこで何をしたかわかってる?」
「悪かった・・・ごめん」
「この私のことを少しも考えなかった? みんなあなたを誰だか知ってるのよ。あなたにとって私は――それしきの存在だったわけ?」
「母さん・・・」
「今の気持ちは表現できないけど――とても悲しくて絶望的なんだから。子供で得する気はないけど、こうして裏切られるのはごめんよ」
「母さん・・・本当にすみません。でも仕方ないんだ。彼女が会ってくれず、電話を切られてた。だから母さん・・・彼女が必要なんだ」
「・・・」
「こんなことは今までなかった――初めてだろ。彼女しかいない。初めて・・・母さん・・・彼女を思うと胸が張り裂けそうになる。会えないと――不安になり何も手につかない。食事も睡眠も不可能なんだ」
「・・・」
「母さん・・・今後はもっと尽くすよ。今まで以上に親孝行するからさ。どうか頼むよ。今回だけは負けてくれ。これだけは許してほしい」
ミジャは涙ぐんでいる。
「彼女を――愛してるんだ」
愛――ミジャはすかさず返す。
「愛ですって? 私もあなたを愛してるわ」
「母さん・・・」
「私もあなたを愛してる――ひどすぎるわよ。あなただけが支えの私に何てことを」
ジェヒは必死だった。
「どうか許して――彼女がいなきゃ俺は生きていけない」
ミジャはクムスンの存在に対抗した。
「私も・・・あなたなしじゃ生きられない。いなくなったら死んでしまうわ」
ミジャは息子の前でグスグス泣いた。
「この親不孝者――苦労して育ててあげたのに・・・」
苦しそうに胸を押さえた。
家を出たジェヒは大きく吐息をもらした。
テワンとクマはデートで恋愛映画を見た。
ラブシーンの時、クマは隣の王子(テワン)を気にした。テワンは淡々と場面を受け入れている。テワンの手が伸びてくる気配はない。クマはそっと飲み物を口に持っていく。
「クマ」
ふいにテワンの顔が寄せてきてクマは驚く。
「面白い?」
「べ、別に・・」
「だったら・・・息苦しいから出ようぜ」
「そうね・・・」
テワンは席を立った。仕方なくクマもついて立った。
スンジャは亭主(サンド)の顔パックをしてやった。
ジョムスンにはこの景色が見るに耐えない。
「その膝枕を何とかしなさい」
何だかんだと絡み、自分もしてくれと言い出す。
「日焼けしちゃったし、潤いがないのよ」
サンドもしてやれという。
スンジャはこれは高いし、数もないとやりたがらないが、サンドは明日買ってくるから、母さんやってもらえばいいよ、と気前がいい。
ジョムスンはトイレットペーパーを枕に横になった。
「さあ、貼って。スンジャは肌がきれいからいいわね」
「・・・」
スンジャは義母と旦那をまとめて顔パックしてやることになり、ムカムカの手つきで大根の皮を剥いた。
「準備できました」とクムスン。
「ハサミを持つときは集中よ」とユン室長。「指や耳を切るのはあっという間なんだから」
「はい」
「カットにはワイレングス、グラデーション、レイヤーがある――」
クムスンは集中してカットに励んだ。
車の中で寝ていたジェヒの携帯が鳴る。
クムスンからだった。ジェヒはためらいながら電話に出た。
「もしもし、私です」
「ああ・・・分かるさ――どこだ? 息が詰まりそうだった。いいところに電話したな。おかげで生き返ったよ。お前の声を聞いたら救われた」
「今、どこにいるんですか? ああ・・・いつもの公園だ会いましょう。30分くらい後で」
シワンとソンランはピルトに呼ばれて料亭で会った。
「息子だと?」
「はい・・・」
「年は?」
「9歳です」
「・・・父親が育ててるのか?」
「はい・・・」
「外国にいるそうだが」
「北京にいます。前夫が北京に移住してもうかなり経ちます」
「子供には会ってないのか?」
「はい」
「なぜ離婚を?」
「・・・」
ピルトはソンランを見た。
「言いたくなければいい。こうしよう――当分、母さんには内緒にしておいて」
「・・・」
「お前たちは家を出ろ」
「父さん」
「最後まで聞け。どうせ1年間、同居して出る予定だっただろ。前倒しになったと思え。半年以上同居して、情も深まったし――出ても構わない。母さんには俺から話す。最初から同居には反対してた人だから――何も言わんだろう。いいな」
「お義父さま」ソンランは言った。「私はお義母さまにも話していただきたいです。知る権利があると思うので」
「言うとおりにしてくれ。事実を話すには遅すぎる。子供とも会ってないんだし――母さんには知らせないことにしよう」
「お義父さま――正直に話さないと爆弾を抱えてる気分です」
「・・・」
「話をさせてください。すごくつらいんです」
「辛いのは俺もシワンも同じだぞ」
「・・・」
「もちろん――お前の過ちじゃない。すべてはシワンのせいだろう。だが、どうしても・・・お前を許せない」
「・・・」
「シワンは憎らしい。当然許せないんだが、お前も同じくらいなんだ。だが――うちの家族だ。何とか庇おうと努力してる。2人を許そうと頑張ってるんだよ。それだってのに原則論や自分の意見ばかりいうな」
「・・・」
「これで話はおしまいだ。俺が許して終わりにする。お前らはなるべく早く準備し、秋のうちに家を出ろ」
食事時にウンジンがぼやく。
「図書館で騒ぐのよ。だから注意したら睨まれたわ。そういうの理解できない」
「お前の話し方が悪かったんじゃないの」とヨンオク。
チャン家には少しずつ日常と憩いの団欒が上辺では戻ってきているようだ。
「違うわ」ウンジンはウンジュを見る。「だけどお姉さん、なぜ黙ってるの?」
「話したくないからよ」
「嫌なことでもあった?」
「・・・」
「そうだ――ジェヒさんに会った。挨拶したのに気付かず通り過ぎたわ」
しかし、みんなの反応が変だとウンジンは感じる。
ウンジュとキジョン、ヨンオクにはわだかまりがまだ完全には解消されずにいる。
楽しい気分でクムスンのやってくるのを待つ。待つ気分がこんなに楽しいのは久しぶりに思うジェヒだった。
やがてクムスンが現れた。
足取りは重いがジェヒは気付かない。笑って手を挙げる。
「ここに座って」
クムスンは言われた場所に腰をおろす。
「心配したろ」
「・・・」
「大丈夫さ」
「・・・」
「俺は平気だが――お前は?」
「・・・」
「ごめん。不本意だった。心配したよ。あの後、責められたのではと――そうだったろ?」
クムスンはじっとジェヒを見つめ続けている。
「美容院を辞められない?」
「先生。今日はお願いしに来た。私をもう解放して」
「・・・」
「お願いです。私を――解放して」
「・・・」
「あなたのせいで――とてもつらい」
「ダメだ。それはできない」
「あなたは身勝手だわ。まだ分からない? 私はそんなに好意を抱いてないの。あなたよりも嫁ぎ先の家族の方が好きなの」
「・・・」
「ねえ。このとおりよ。息子にとって――自慢の母になれるよう私を解放して」
「じゃあ俺は? 俺はどうすればいいんだ。お前なしじゃダメだ。それじゃ死んでしまう」
「・・・」
「クムスン」
「でも死なないはず。人はそう簡単には死なないから。心配ないわ。赤ん坊を捨てても――夫を失っても生きてる。誰もみんな・・・」
「・・・」
「先生。私はね。昔からほしいものを手に入れたことがない。だから与えられた物だけを大事に思って――頑張って生きたわ。だけど、あなたはどうしてすべてを得ようとするの?」
「・・・」
「あなたが偉いから? お願いよ。フィソンのために堂々とした母親になりたい。もう苦しめないで。私を解放して」
ジェヒはクムスンを見つめた。
クムスンはその目を振り切り立ち上がった。背を向けて歩き去った。
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