雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載105)






韓国ドラマ「病院船」から(連載105)






「病院船」第10話➡他人行儀④






★★★


「どうした?」
 ヒョンはヨンウンを睨みつけた。
「らしくないぞ。何が言いたいんだ」
 ヨンウンは苦い表情になった。
「私の負けよ」
「…」
「私もいい女なのにソン先生には勝てない。足元にも及ばないくらい魅力的だわ。あなたも変わった。いいえ、あの人に出遭って変わったのかも…今のヒョンさんはソン先生のことが好きなんでしょう?」
「…」
「私が正式に許可するわ」
 ヒョンはヨンウンを見た。
「ソン先生のことを好きになっていいけど…2年待って、少しだけ我慢してほしい。2年後に私が死んでから」
「ヨンウン…」
 ヨンウンは涙ぐんだ。
「この世から私が消えた後なら許す。ソン先生を好きなだけ愛してもいい」
「ヨンウン…何を言ってる? どういう意味だ?」
 ヨンウンは声を震わせた。
「急性骨髄性白血病だって…私、死んじゃうの」
 すべて話して涙ぐむヨンウンを見つめたままヒョンの表情は凍り付いた。


★★★


 その夜、ウンジェはウジェの部屋で泊まった。しかしなかなか寝付けなかった。
「起きてる?」 
 後ろからウジェが声をかけてくる。
「寝ないと」
「ちゃんと食べなよ。少し痩せただろ」
「いいから自分の心配をして」
 ウジェは舌打ちする。
「ウジェ」
 ウンジェは振り返る。
「何?」
「父さんから連絡があったら私に言うのよ」
 ウジェは黙って返事しない。
 ウンジェは念を押す。
「いいわね」
 ウジェは面倒くさそうに答える。
「わかったよ。伝えりゃいいんだろ」
 ウンジェはまた横になる。
「ところでささっきの内科医さん」
「うん…」
「いい人だね」
「まあね…」
 ウンジェは次の言葉を待つ。彼はどんな風にいい人と思ったのか…。
「いい人なのに姉さんは冷たすぎる」 
「何でよ」
「お礼もろくに言わず、お金を渡してた」
「…」
「もっと愛想よくしないと…姉さんのことが好きみたいだし」
 ウンジェは目をつぶった。自分もほんとは好きだ…。
「もう、寝なさい」
 ウジェは身体を起こした。
「姉さんも好きでしょ?」
 ウンジェは目をつぶって答えない。
「違うの?」
 ウンジェは目を開く。
「じれったいな。どっちだよ。嫌いなの?」
「…好きだと言ったら、何か変わるの?」
「簡単じゃないか。付き合えばいいだけだ」
「…」
「これからは、チャンと恋愛して、人生を楽しまないとさ」
「ウジェ」
 ウンジェは向き直った。
「知ってる? 母さんは20歳で父さんに会って…」
「大恋愛をした」
「そうよ」
「チェっ、それだけか。僕の方が詳しい」
「2人の愛の結末を見なさいよ。母さんは…父さんに会えずに死んだ」
「…」
「私は恋愛する気はない」
 ウンジェはウジェに背を向けて寝る態勢に入った。
 恋愛なんて誰ともしない…そう言い聞かせながら。




―急性骨髄性白血病だって…


 部屋に戻ったヒョンはヨンウンのかかった病気について改めて調べた。


―急性骨髄性白血病は、病状の進行が速いため、急に症状が出現する場合が多い。早期の診断と速やかな治療の開始が極めて重要である。
症状が起こる原因は大きく2つに分類される。骨髄で白血病細胞が増加することによって、造血機能が低下する。正常な血液細胞がつくれないために起こる症状と、白血病細胞が臓器に浸潤(しんじゅん)することで起こる症状がある…


 ヒョンの顔は歪んだ。絶望的な病気だった。




 翌日、ウンジェは弟宅から病院船に直行した。スタッフがお茶を飲んでいるところにウンジェは姿を現す。
 ウンジェを見てアリムが駆け寄る。
「病院へは行きましたか?」
 話が伝わっているのでウンジェは驚く。
「弟さんの容態は?」
「葉や耳でびっくりした?」とゴウン。
「ええ」
「病院船でも寮でも電話が鳴りっぱなしだった」と事務長。
「ご迷惑かけてすみません」
「何言ってる」と船長。「君が謝ることじゃないだろう。弟さんは大丈夫なのか?」 
「幸い、軽傷だったので退院しました」
「そうか、不幸中の幸いだね」と船長。「では、スタッフも揃ったようなのでそろそろ出発しようか」
 看護師が慌てて口を挟む。
「チェさんがまだです」
 すかさず事務長が答える。
「チェさんは通院があって数日休むらしい」
「数日ですか?」
「どこか悪いのかしら?」
「そうみたいだ」
 


 ヨンウンの病気が頭を悩ましているヒョンのところにアリムがマグカップを持って現れる。
「コーヒーです」
 声をかけて机上におくが、ヒョンは返事しない。
 珍しいな、と思ってアリムはモニタを覗き込む。ヒョンはヨンウンの病気のことで頭がいっぱいだった。
「白血病ですか…?」
 ヒョンはようやくアリムに気づく。
「白血病を調べているんですか?」
「…」
「ずいぶん調べましたね。もしや、患者さんでも?」
 関心を見せるアリムにヒョンはとぼける。
「いや、何となく調べただけなんだ」
 立ち上がり、モニタを消して出ていく。
 アリムはヒョンの行動に首を傾げた。





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