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藤井聡太叡王 vs 出口若武六段
(叡王戦 第三局)から
― 将棋の終盤戦は悪手の海…
そんな言葉を残したのは中原永世名人だった…。
「叡王戦」の 第三局は一手一手に複雑な変化を秘めた難しい将棋になった。
先手番を持った時の藤井五冠は、実戦においてあえて難しい変化に踏み込んでいるように見える。実戦が研究の場であるかのように…。
今日も相がかりの難しい将棋となった。
この日、藤井叡王は先手番から一歩得、手損の戦いを選んだ。
後手の出口六段は、ならばとばかり、7三銀から先手の飛車を追い、7二飛車から先手の左辺玉頭目指してグイグイ銀を繰り出す。一歩損、急戦志向である。
先手は5八から6八に玉を寄って守備陣に厚みを加える。
6八から5八に一度戻った玉だったが、戦いが起これば左辺の守備駒はすぐにも剝がされる。玉頭で戦いになれば、玉も守りに役立たねばならないというわけだ。
実際、一連の攻防から、藤井玉は敵の攻め駒の前に飛び出す事態も生じた。
この時、AI評価は50対50だったが、敵前に飛び出した藤井玉と比較的金銀の集まった場所にいる出口玉とでは、どう見ても藤井玉の方が危うく感じられた。
受け一方ではじり貧に追い込まれかねない。
藤井叡王が後手の攻めに強く反発して6五に桂馬を飛び出した時、出口六段はその桂馬を咎めて9二に角を打った。
受け手は自陣の桂香角が生打ちの飛車では簡単に取られない。攻めては遠く敵の弱点である4七の銀を睨んでいる。この角打ちは解説からも素人目からも盤上この一手の名手と見えた。
この局面を見た時、腰を落とした戦いに進めば藤井叡王に勝ち目は薄い気がした。6五の桂馬がいなくなった時、9二に打った角がズドンと4七の銀と刺し違えるのが脅威だった。角でその銀を取り、その銀で金と飛車の両取りがかかれば、藤井玉には左右挟み撃ちの攻めが残り、いっぺんに危機に瀕するからだった。
木村九段いわく「攻めが漠然とした6五の桂馬…」と木村九段は表現した。
難解で忙しい局面であえてその手を選んだ藤井叡王。
「忙しい局面で、羽生九段にもこういう手が出て来たりしていた…」
とも木村九段は話しておられた。
藤井叡王はAIとの一致率の高い棋士の1人だ。しかし、差のついた局面ならともかく、互角の攻防の続く終盤ではさすがにそんな手ばかりさせるわけではない。持ち時間のプレッシャーもかかって来るし、攻めと受けで一手ごとに正着手が変わって来るからだ。すなわち、攻めなければいけない場面で受け、受けなければならない場面で攻めたりしてしまうからである。
藤井叡王がもっとも負けやすい将棋は、秒読みに追われ指運にかける将棋となってしまう。
深浦九段や大橋貴洸六段には難解な局面で、そういう将棋となって負けている気がする。
この日の将棋は終盤がまさに指運の将棋となった。ボクシングで言えば足を止めて打ちあう接近戦である。
互いに相手のパンチを警戒しながらの打ちあいだから、自分のパンチも正確さを欠いてしまう。
接近戦で藤井叡王は強打を選ばなかった。そのパンチを浴びながら、一瞬、出口六段にクロスカウンターを浴びせるチャンスが巡ってきた。
しかし、そのパンチは空を切った。出口六段の空を切ったパンチがこの日の将棋のすべてだった。
「叡王戦」の防衛は果たしたが、終わりよければすべてよし、でもなかった。藤井竜王のこの日の勝利はほろ苦いものだったのではあるまいか。
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