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日中  友好さくら植樹  (14) 田辺大隊長、独断停戦す。

かかる軍人ありきーー伊藤圭一著のさくら紀行より転載

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大隊幹部はもちろん反対したが大隊長だけは違っていた。
「鉄道警備は貴軍に交代してもらっても良い、ただし条件がある。
任務が重大なため一応こちらも納得させてくれる
軍記風紀の維持が必要である。
こちらから貴軍の兵隊を教育する将校を派遣したいがどうか」

つまり、その資格ありと、判定ができたとき任せると言うのである。
李はそれを諒承して帰り、その後、日本軍将校が土匪の兵隊を教育する、
と言う奇妙な光景を現出した。

それのみではない、まもなく大隊長は約束通り鉄道警備を
李軍に全面的に移譲してしまったのである。
相手が意外に素質の良い軍隊であったためもあるが、
つには警備任務から解放されればその分の兵力を、
米軍の上陸を控えての陣地構築等にまわせたからである。

これまで匪賊であった軍隊が鉄道警備すると言う現象は
さらに付近の民衆を驚かせた。
しかし結果は、大隊の警備地区からは一切の鉄道事故が消滅したのである。
誇り高き匪賊の警備は実は日本軍のそれよりも行き届いていて、
乗客は汽車が田辺大隊の地区に入ると全く警戒心を解くことができたのである。

義烏における田辺大隊長の施策のうち、
もう一つ特筆しておかなければならない事項がある。
義烏は特産物が2つあった。
いわゆる上海ハムと呼ばれているものと砂糖とである。
日本軍も中国人もハムと砂糖の買い付けには、義烏の市場へやってきた。
しかし、日本の商人は、軍の威勢を笠に着て、徹底的に叩いて買う。
軍の経理間官となるとそれ以上で、まるでお話にならぬ馬鹿値で買い付ける。
一種の合法的な掠奪を行っていた。

田辺大隊長は市場を巡察した後、町の有力者を呼んで、
事情を聞き、正当な市価を守らせることを確約した。
産物の売買契約をするときには、大隊長自らその場に立ち会う。
買い手が日中いずれであっても問わないと言う趣旨を、
戸板位の大きさの紙に記して街の要所に張り出させたのである。

これによって、特産物の売買相場は、その日から安定した。
もっとも軍の経理官が経理部長の証明書を持っていて、
強引に売買を引き下げようとしたことがあるが、
この時も断じてそれを許可しなかった。
この売買の監視を大隊長自ら根気よく2ヶ月続けた時
町の気風は一段と、日本への接近と信頼感を深めてきたのである。

治安とは何か、それはまずよき経済工作を行うことである。
というのが田辺大隊長の所論であった。
日本では軍人や官吏が優遇されるが、
中国ではこれらは人間としてダメなもののやる仕事で、
全て経済関係者が優先し信頼尊敬されている。
したがって駐屯地の経済関係者の支持を得れば、
ほかは放っておいてもなびくのである。

こう言う人心の機微を巧みに見抜く事は、
隊伍を引きずって歩きまわっている指揮官には、
どうしてもわからなかったのである。

このほかにも田辺大隊長は色々と奇行めいたことを行った。
例えば街の祭礼の時、部下を率いて、中国人の参詣する廟へ赴くと、
中国人がやると同じに三杯九杯の礼を、
隊長は自ら廟に向かって行ったのである。
中国民衆はこのような日本軍人を、未だかって眼にした事はなかった。
また古寺や古廟の破損箇所を調べさせては、補修をさせている。
これには李までが感心して、
自らも兵力を供出し、匪賊が一緒に補修を手伝うと言う情景が現出して、
これも民衆を驚かせたのである。
町の有力者たちの絶対的な信頼を博してからは、
改まった行事には、田辺大隊長は必ず招待されている。
その時、儀式の続いている間は正面の席に座るが、
儀式が終わってくつろいで会食になると、
素早く座を譲って町一番の有力者に表面の座を譲るのである。
たったこれだけのことでも、中国人にとっては、
いかに諸効を表すかを大隊長はしっかり読んでいたのである。

町では正月になると龍を舞わせて楽しむ行事があったが、
大隊長はこの祭事に招待された時、
街を練り歩く竜を部隊の兵舎内まで誘っている。
竜と民家の列は兵舎内に流込み、彼らは官給品の酒や甘味品などを
もてなされ、それまで威圧しか感じなかった日本軍兵舎にさえ、
改めて親しみを見出した様だった。
田辺大隊長は遮断壕を埋め立てたのみならず、
兵舎と民衆の垣根をも埋め立ててしまったのである。
田辺大隊が義烏に駐屯している間、部隊は一度の討伐をもせず、
一発の弾丸も撃たず、したがって一名の負傷者も出さなかった。
戦争行為が既に終わっている以上、それは当然の結果だったのである。

                  
                    2021 5/23
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