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第5部(3)原発200基超、邁進する中国 大気汚染は緩和するが…転載

2014-01-10 08:44:54 | (英氏)原発・エネルギー問題

 中国の旧正月にあたる「春節」を迎えた2月10日午前0時。中国の北京、上海などあらゆる都市や農村で一斉に花火が打ち上げられ、爆竹が鳴り響いた。深刻な大気汚染を受け、中国政府は爆竹・花火の自粛を求めたが、年に一度のお祝いはそう簡単にやめられない。例年よりやや控えめとはいえ、その煙はすさまじく、上海などは夜が明けても高層ビル群がかすんで見えないほど。多くの市民はゴーグルやマスクを身につけて新年を祝った。

 中国政府の発表によれば、中国都市部の1月中旬以降の大気汚染は深刻で、全人口の半分にあたる6億人が影響を受けたとされる。

 最も深刻なのは、微小粒子状物質「PM2・5」。直径2・5マイクロメートル以下の有害物質を指し、あまりに粒子が小さいため、通常のマスクは通り抜け、肺胞の奥深くまで入り込み、肺がんやぜん息など呼吸器系疾患を引き起こす原因とされる。

 日本にとっても他人事ではない。PM2・5は黄砂とともに偏西風に乗って日本に飛来しており、中国との距離が近い北部九州では国の環境基準値(1日平均で1立方メートル当たり35マイクログラム)を超えることもしばしば。健康被害への懸念が高まっている。

 こうした中国の大気汚染は、車の排ガスや工場の煤煙(ばいえん)に加え、石炭火力発電所が大きな原因を占めている。

 経済成長に伴い、中国の電力需要は拡大の一途をたどる。一般社団法人海外電力調査会のまとめによると、2011年の年間総発電量は4・72兆キロワット時に上り世界第1位。米国(4・10兆キロワット時)をしのぎ、日本の4倍以上に達した。

 その8割が石炭火力発電。日本と違い、有害物質を除去する脱硫装置を取り付けていないことが多く汚染物質はそのまま大気中に放出されている。

 

 2012年11月に中国共産党トップの総書記に就任した習近平にとって大気汚染対策は大きな試金石だといえる。政権基盤が盤石ではない習近平がここで対策を誤れば、政権を揺るがす恐れもあるという。

●揺るがぬ原発計画

 「安全確保は前提だが、原子力発電は発展させる」

 北京で大気汚染が問題になり始めた2012年3月。中国首相の温家宝は全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告でこう宣言した。日本で福島第1原発事故があってもこの政府方針に揺るぎがないことはこれで明確となった。

 この発言から半年後、中国政府は原発の建設再開を発表した。福島第1原発事故後、中国政府は新たな原発計画の審査や新規着工の認可を凍結していたが、「沿岸部での原発の立地は安全が確認された」として、むしろこれまでの遅れを取り戻すかのように急ピッチで認可に動き出した。

 同時に中国エネルギー政策白書(2012)では、原発を「持続可能な発展にとって必要だ」と断じた上でこううたった。

 「2015年までに非化石エネルギー発電の設備容量の割合を30%に引き上げる。中国はエネルギー分野の改革を確固として推進し、エネルギー生産・利用モデルの変革を推し進め、国家エネルギー安全を保障する」

 深刻な大気汚染と資源の枯渇を防ぐには原発推進しかない。中国政府の決意は揺るぎそうもない。

1国で世界を上回る

 2013年1月末現在、中国で稼働中の原発は16基で総出力は1290万キロワット、全体のわずか1・8%に過ぎない。ちなみに日本の現存する原発50基(福島第1原発1~4号機を除く)をフル稼働させれば、総出力は4610万キロワットと中国の4倍近い。

 中国エネルギー政策白書によると、中国政府は2015年までに原発の出力を日本並みの4千万キロワットへ引き上げる目標を掲げた。これに向け、現在、原発29基(総出力3千万キロワット)を建設中だという。

 一般社団法人日本原子力産業協会によると、中国政府はさらに51基(同5980万キロワット)を計画中だ。その大半は冷却用に海水を取り込める沿岸部に集中する。福岡-上海間の距離は890キロしかない。つまり今後10年内に100基近くの原発が北部九州の東1000キロ前後に「雨後の竹の子」のように林立するわけだ。

 中国政府が認可した原発計画以外にも、その前段階として地方政府で認可または申請中の原発や、民間発電事業者による建設計画も少なくない。民間シンクタンク「テピア総合研究所」の調査では、こうした計画を含めると、すでに設置場所の決まった原発だけで273基(同2億8千万キロワット)もある。

 これで驚いてはいけない。中国の科学技術分野の最高研究機関である中国工程院は、2050年の原発総出力は4億キロワットに達すると見通す。これは2012年1月現在の世界全体の原発の総出力3億8446万キロワットを大きく上回る。

 テピア総合研究所副所長の窪田秀雄はこう語る。

 「中国は1カ国で世界全体を超える原発を作ろうとしています。雇用や税収面でメリットもあり、中国の地方政府は原発誘致に積極的なのでこの勢いは衰えそうもありません。近い将来、日本の隣に米国をしのぐ世界最大の原発大国が誕生するのは間違いないでしょうね」

●偏西風に乗って

 中国がここまで原発建設に邁進するのは、かつて自国で豊富に産出できた石炭が枯渇しつつあり、その価格が高騰しているからだ。

 中国はかつて世界有数の石炭輸出国だったが、電力需要の増加に伴い、自国の石炭火力発電所での使用が急増、2009年に輸入国に転落した。翌2010年には年間輸入量が1・8億トンに達し、世界有数の石炭輸入国になった。

 中国企業は2000年代後半からオーストラリアの石炭企業に買収攻勢をかけるなど資源確保に躍起だが、インドなどの急成長により世界的な石炭需要は増加傾向にあり、2011年の価格は10年前の6倍に跳ね上がった。

 石炭価格の高騰は中国の経済成長の大きな阻害要因となる。現在でさえ、夏季には計画停電が頻発しているが、ひとたび石炭の供給がストップすれば長期間の停電も発生しうる。大気汚染も深刻だ。それだけに中国政府は、早急に石炭火力に8割を頼る電源構成を変えなければならないと判断、これが「原発建設ラッシュ」を生んだといえる。

 石炭火力の比率が低下すれば、北部九州のPM2・5被害はある程度低減するだろう。

 だが、中国の原発が事故を起こせばどうなるか。放射性物質は偏西風に乗って確実に日本にやってくる。少なくとも日本だけで「原発ゼロ」を目指しても日本経済を疲弊させ、国際競争力を奪うだけであり、「安全・安心」にはつながらない。なぜ反原発団体は中国大使館前でデモを行わないのだろうか。(敬称


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