わたくしに烏柄杓はまかせておいて 飯島晴子
これは遺句集(第七句集)の『平日』にある句であり、角川俳句大歳時記の例句として収載されている。
2024年5月、私はミヤマキリシマの咲く鶴見岳に登った。山頂のところどころに出合ったカラスビシャクの花を先ずカメラに収めた。
カラスビシャクは生家の畑の畔でよく見かけた植物であったが、こんな山頂に生育しているとは驚いた。これが飯島晴子の烏柄杓だと誰かに教えてやりたかった。
カラスビシャクの漢名は半夏で、半夏生はこの草の生える時季をいうのである。角川俳句大歳時記を開くと「【烏柄杓】烏柄杓の花・半夏」と夏の季語にある。カラスビシャクはサトイモ科ハンゲ属の植物で別名を半夏(はんげ)、乾燥させた根茎も半夏と呼ぶ。花は小型の仏炎包で、ひものような付属体が上部に伸びる。別名は他に、ヘソクリ、ヘブスとも呼ばれる。日本の地方によりヒャクショウナカセ(百姓泣かせ:鹿児島県)、カラスノオキュウ(烏のお灸:群馬県)の方言名でも呼ばれる。別名のヘソクリは、この草が昔は漢方薬に使うため、根茎を掘って薬屋に売って小銭をためたということからきている。(参照/ Wikipedia:フリー百科事典)
花の姿が似たものに、サトイモ科テンナンショウ属の多年草にウラシマソウ(浦島草)、マムシグサ(蝮草)、ムサシアブミ(武藏鐙)があり、同定が難しい。
/わたくしに烏柄杓はまかせておいて/に出合ったとき、これは俳句であると言えるのであろうかと思った。普通に読み取ると、カラスビシャクは雑草として辺りに生えてくるので、この草の駆除は私に任せておいてよ、と申しているに過ぎない。そうかもしれないが、作者の想像はもっと深いところにありそうである。「烏」の名のついた植物はいろいろあるが、小さいという意味に「烏」や「雀」が使われて名付けられたものが多い。子供の頃はマムシグサやムサシアブミに出合うと恐怖感を覚えたが、カラスビシャクも嫌な花であった。この柄杓で水を汲むのはあなたにはできないでしょうと言われているような気がする。仏炎包から、上部に伸びるひものような付属体が天国を探るようにも見える。
烏柄杓仏の国を祓ひたり 渕野陽鳥
追記:ミヤマキリシマ(深山霧島)はツツジの一種。九州各地の高山に自生する。1909年、霧島へ新婚旅行に訪れた植物学者牧野富太郎が発見して「ミヤマキリシマ」と命名した。 2024/07/04 記
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