※宇宙戦隊キュウレンジャーのファンフィクションです。
個人的妄想と捏造で構成されております。
公式関係各所とは全くの無関係です。
でも、もし、万が一、公式がこんな作品作ってくれたら狂喜乱舞します。Vシネでよろしく勇気。
「俺ガン」ならぬ「俺ツルギ」です。
この作品の前提。
・キュウレンジャーの時代から360年くらい過去
・ツルギはこの時点で250歳くらい(本人にも正確な歳は不明)
・宇宙連邦成立前、即ちドン・アルマゲ発生前
・ホウオウソルジャーとして覚醒前
振り下ろす剣の一撃で次々と敵を葬り、蹴散らして行く。あれほど手こずっていた相手を軽々と倒し、ツルギは言い知れぬ高揚感を覚えていた。
「これが伝説の救世主とやらの力か!素晴らしい!」
剣と言っても物理的に"斬る"のではなく、剣の先から発生するエネルギーの様なものが、あの防御スーツを超過してダメージを与えているようであった。またツルギの体を覆うスーツも、敵の攻撃を一切通させなかった。
包囲網は歪み、崩れ、それでもなお怯むことなく迫り来る。自分達の意思ではなく、全員が誰かの意のままに操られている様な違和感。
ショーグン、ドン・アルマゲ…………。
あの人物の意志の元に彼らは動き、戦っているようである。
ツルギは一騎当千の戦いぶりで敵を倒しているが、無尽蔵に現れる敵に終わりが見えない。大技で一気に片をつけたかった。剣を一旦盾に戻し、柄の部分にあるトリガーを引くと、剣に嵌まっているキュータマが高速で回転して、盾からエネルギーが剣にチャージされる。鳳凰の意思なのか、ツルギに囁く声があり彼に使い方を教えているかのようだった。
「フェニックス・エンド!!!」
抜き放ち様に横へと薙ぎ払いつつ自らも一回転する。甲高い鳳凰の鳴き声と共にツルギを中心とした斬撃の輪が炎となり広がって、周囲の敵を一掃した。残るは数えるほどの敵を倒して、空を見上げる。そこにはもうドン・アルマゲの姿はなく、いつもと変わらぬ空があるだけだった。
薄暗い地下空間、白い石造りの柱の多い部屋、壁や柱のあちらこちらに掲げられた蝋燭の灯り、その場所は旧時代に宗教的な意味を持った祭壇の様な場所であった。正面には禍々しい渦とそれを掴む爪をモチーフにした模様が描かれた旗が飾られ、その前にフードを目深に被った人物が立っている。
ショーグン、ドン・アルマゲ。彼の手が空中を撫でると、そこにソリッドビジョンが現れ、先程のツルギの戦いの様子が映し出される。
『鳳ツルギ、鳳凰の力に目覚めたか』
彼の前に跪く異様な姿の者達、ドン・アルマゲはソリッドビジョン越しに彼らを一瞥する。首がキリンのように長い者、半身からイソギンチャクの様な触手が生えた者、女性らしき尖った胸とスカートをはいた者、どれも人々の感情に嫌悪とおぞましさを覚えさせる姿だ。
『テッチュウ、ククルーガ、アキャンバー、見よ。アヤツの鳳凰の力と不死の肉体、我は欲しいぞ』
それぞれ名を呼ばれ、恭しく一礼する。
「お任せください」
「我々が鳳ツルギを」
「必ずや御前に」
三人はどこからともなく現れた闇の中へと消えていった。
ツルギの指に収まる赤い石の付いたクラスリング。リングの形をしているがそれは鳳凰の力を宿した物で、まるで以前からそこに存在したかのように馴染み違和感なく受け入れているが、おそらくそれがなければツルギが救世主に変身する事はできないのだろう。不思議な思いでそれを見つめた。もはや理屈や原理はわからないが、そう言う物だと受け入れるしかなかった。
避難していたヘラクレス座の住人たちは、破壊の限りを尽くされた街を見て落胆した。多くの住民が殺され、住む家も働く場所も無くなり、これからの生活に不安を覚えていた。だがそれでも生きていれば何とかなる、と、前向きに考える者もいたし、ツルギも出来る限りの支援を約束した。ヘラクレス座の首長が、危機を救ってくれた礼と、伝説の救世主の話を聞いてツルギに渡したい物があると面会を求めてきた。大きな体を小さくして、天井に頭をぶつけないよう少し屈んだ姿勢で首長はツルギの前に立つ。
「礼なら一日でも早く復興し、連邦政府に税金を納めてくれればそれでいいぞ」
ニヤリと笑って冗談混じりにそう嘯くが、首長は神妙な面持ちでツルギに小さな箱を手渡した。
「これは……?」
「キュータマです」
「なんてこった?!」
慌てて箱を開けてみると、確かにそこにはキュータマが丁寧に布に包まれてしまわれていた。
「我々の星に遥か遠い昔より伝わる物ですが、使い方も、一体どういった物なのかもわからず、ただただ歴代の首長に大切に受け継がれてきたのです。先程の戦いと大統領のお持ちのキュータマの存在を知り、これを持ち使用できるのはおそらく貴方なのだと思いました」
「…………なるほど」
「ドン・アルマゲを倒して、再び宇宙に平和を取り戻してください」
「わかった、約束しよう」
表情を引き締め、ツルギは真摯に答えた。
宇宙初の宇宙連邦大統領の次は、伝説の救世主。ツルギの持つ肩書きがまた一つ増えた。
大統領府に戻ったツルギは、副大統領に政務の全てを任せて、自身はジャークマターに対抗する方に専念することにした。
宇宙各地で勃発するジャークマターの侵略に対してはツルギ自身が出向き撃滅していった。だがツルギは宇宙に一人しか存在しないし、広大な宇宙を神出鬼没のジャークマターに後手で対応していては時間もかかる。そこで対抗する手段として敵より奪取した武器を研究し改造したものを生産して兵士達に持たせた。そのお陰か徐々に一般兵でもなんとかインダベーを撃退する事ができるようになっていた。
チキュウにある鳳ツルギ研究所にはキュータマの研究を急がせた。ヘラクレスキュータマの効果は未知数で、使用してもホウオウキュータマのように変身するわけでもなく特に何も起こらなかったのだが、ホウオウキュータマ同様「使うべき時」がくれば自然に使うことができるのだろうと予測し、今は新たな研究対象として預けてある。
それとは別に、各星系の特殊能力を持つ者達を探しだして集めていた。八十八星座系それぞれの特殊能力を持つ彼らはツルギが直接スカウトしついてきてくれた者達で、いずれはドン・アルマゲに挑む精鋭達となるだろう。その中にはもちろんオライオンの姿もあった。
「ツルギ」
「オライオン!」
二人は抱き合い肩を叩きあう。
「どうしたんだ急に」
「もちろんドン・アルマゲとの戦いのために来たんだ。なぜ真っ先に俺に声をかけない」
「すまん……」
ツルギは困ったように頭を掻く。もちろんオライオンには真っ先に声を掛けようとしたのだが、やめた。彼には家庭ができたのだから、その幸せを優先すべきだと考えたのだ。
「いいのか、平和に暮らすのがお前の望みだったんだろう?」
「宇宙その物が脅かされてるのに隠居なぞできたもんじゃないだろうが」
「…………そうだな。来てくれて助かる」
「おう」
ツルギの差し出した拳に自分の拳を合わせて頷く。オライオンの実力は疑う余地もなく、孤高の戦いを強いられているツルギにとって唯一背中を預けられる存在がオライオンだ。わずかではあるが旧知の親友の存在は、ツルギに安心と余裕をもたらしてくれた。
事態が一変したのは、オライオンが来てからすぐ、宇宙連邦政府、大統領府、宇宙軍本部、全ての集まる首都惑星にジャークマターが攻め入って来たのだ。その時ツルギは別の惑星への救援に向かっており、完全に不意討ちだった。それまでのインダベーだけではなく、ツヨインダベーも多数混じり、瞬く間に首都機能は壊滅した。
「鳳ツルギはいるかぁ?!」
ドン・アルマゲの前に跪いていた一人、ククルーガが、逃げ惑う住人を容赦なく斬り殺していく。もちろんツルギがいるであろうと予測して首都惑星に攻め入ってきたのだ。辺りには悲鳴と泣き声とインダベーの無機質な声が響き渡り、人々を絶望へと追いやる。悲しみは、怨嗟は、そのままドン・アルマゲの糧となり彼の力を増大させていた。だから彼らは住人を殺戮し尽くすことはなく、侵略した星々を支配しているのだ。
ジャークマターの目的は、人々の絶望の他にも惑星エネルギーのプラネジュウムも手に入れる事だった。これまで制圧された星々にモライマーズと呼ばれるプラネジュウムの採掘ホーム兼貯蔵施設になる宇宙船を次々と降下させ、実行支配をしながらプラネジュウムを集めている。もちろん集めるだけが目的ではないだろう。彼らの最終的な目的は不明だが、エネルギーが搾取されているのは確かだった。
惑星チキュウにもジャークマターが現れた。チキュウは他の惑星に比べてプラネジュウム貯蔵量が非常に多いとされていて、モライマーズを次々と降下させ搾取に取りかかる。そして鳳ツルギ研究所にもインダベーの大群が押し寄せた。指揮を取るのはアキャンバーだ。
「さあ、出てらっしゃい、鳳ツルギ!」
両サイドにツヨインダベーを従え、手にした杖の先端には鳥の頭を模したメガホンが付いており、声は施設中に響き渡った。研究者達は研究資料をデータ保存してクラウド上に送る操作をして逃げ出し、アンドロイド達も同様に自分達の脳内データを転送保存した。データさえあれば他の場所でも研究を続けられるし、自分達がいなくなってもツルギに情報さえ渡せれば後々他のアンドロイド達に引き継がれて研究は続けられるであろう事を知っているから。ただ一人、アルタイルだけは研究所の最深部へと向かっていた。厳重に、何重ものセキュリティを通り入ったのは真っ白な空間。さほど広くはないその中央の台座に鎮座するのはヘラクレスキュータマ。キュータマは膨大なエネルギー保存装置であり、大切な研究資料でもある。ジャークマターの手に渡れば今より更にプラネジュウムは搾取されていくであろう。何よりこれはヘラクレス座の首長に託された希望でもある。アルタイルはそれを自分の体の秘密の場所に格納し部屋を出る。しかし出た所にインダベー達が押し寄せて来た。ここに来た目的は彼らも同じであったのだろう。対インダベー用の銃をアルタイルは撃った。従来の鉛ではなく圧縮したエネルギー弾を撃ち出すそれは、インダベーのスーツに着弾すると小さな爆発を起こして敵を倒して行く。空いた隙間を縫うようにして廊下を走り研究所の外へと出た。
「まーだ生き残りがいたわね」
研究所の周りは完全に包囲され、逃げ出した筈の研究員達の幾人かの死体が転がっていた。アキャンバーがケラケラと笑いながら杖を振りかざす。ツヨインダベー二体が進み出て、アルタイルに向かってくる。銃を向けるが、ツヨインダベーは簡単にエネルギー弾を弾き飛ばしてしまう。振りかざしたバズーコンがアルタイルに激しくぶつかりその場に崩れ落ちる。繰り返し打撃が加えられ、壊れた体の中ではショートした回線から火花が散る。
何度も。
何度も…………。
動かなくなったアルタイルから興味が失せたのか、彼らはアキャンバーの元へと戻っていく。
事態を知り、大急ぎで首都惑星に戻るツルギの元に一本の通信が入る。文字のみの暗号通信で、差出人は不明だがチキュウの回線を利用しているようだった。
『巨人の魂は牛飼いと共に』
内容はそれだけだった。意味を考える間もなく通信兵の悲鳴の様な声が飛び込んできた。
「惑星チキュウにもジャークマターが現れたとの報告!」
「なに、研究所はどうなった?!」
オライオンの声にツルギは画面から顔を上げた。
「わかりません、その後応答が無いので状況は不明です」
鳳ツルギ研究所は、現存する場所ではツルギが最も長く過ごした場所であり、アンドロイド達は彼と最も長く過ごしてきた仲間である。家庭を持たないツルギにとって、研究所が家であり家族でもあった。
「どうするツルギ、チキュウに向かうか?」
「いや、このまま首都惑星に向かえ」
だがいくらツルギにとって大切でも、一研究施設と宇宙連邦政府の主要施設とではその重要性は比較しようもない。ツルギの冷徹な政治家の部分が、そう判断した。また一つ、ツルギの生きた証が消えていく。どんなに肩書きが増えても、どんなに伝説的偉業を成し遂げても、それを記憶する人々は死んでいくし、こうして建物も無くなっていく。生まれ育った家などはすでに無くなっていた。
そしてこのままだと成し遂げた偉業、宇宙連邦の存続すら危うくなっていた。
壊滅した首都惑星、政府としての役割はすでに機能しなくなっていた。大勢の人々が殺され、或いは捕虜として捕まり、或いは絶望の中震えながら隠れ、宇宙は再び混沌へと墜ちていった。
瓦礫と化した宇宙連邦政府の前でポケットに両手を突っ込み仁王立ちで、ツルギは眉間にシワを深く刻み睨むようにそれを眺めていた。
「酷いもんだな……」
手近な瓦礫を動かしてみると、その下からは見覚えのある旗が見えた。宇宙連邦政府の旗が、瓦礫の下に埋もれている。大統領府前の広場には多くの旗が翻っていたはずだ。
「オライオン、一刻も早く八十八星座系の特殊能力を持つ者達を探しに行くぞ」
「ああ、そうしよう。俺も心当たりのあるヤツを探してみよう」
「そうしてくれ。ドン・アルマゲ、アイツを倒さなくては宇宙は恐怖と悲しみに沈む」
あの日空に映ったフード姿の人物を思い浮かべ、決意を強くする。
即ち、ドン・アルマゲを倒さなくては平和を取り戻すことはできないのだと。
チキュウはジャークマターの支配下となり、鳳ツルギ研究所も壊滅したと報告があり一瞬だけツルギの表情が曇ったように見えたが、それもジャークマターの侵略に対しての物だと思われていた。無事に逃げられた一部の研究員やアンドロイド達は、様々なルートを使いジャークマターの目を掻い潜ってツルギの元に集まってきていた。彼らからその時の様子を聞き、アルタイルの姿が見えないのと彼の研究データが殆ど存在しない事に気が付いた。ツルギが最初に作ったプロトタイプの一人であり、長年の友でもあり、優秀な科学者でもあった彼のデータがないのはおかしかった。もし殺されてしまったのだとしても、彼の事だから真っ先にデータを保存してツルギに残してくれたはずなのに。それがないのは、彼がそうできなかった状況にあったためか。
ふと、あの通信文がツルギの脳を過る。
「牛飼い………彦星、………即ち、アルタイル!」
巨人の魂とは、おそらく研究所に預けてあったヘラクレスキュータマの事を指している。
「研究所にアルタイルの遺体なり残骸なり残っていなかったか?!」
「いえ、……我々が脱出する時は………」
「チキュウに行ってくる、お前達は安全な星に逃げろ」
「大統領、チキュウはすでにジャークマターの支配下に……」
「俺様一人なら大丈夫だ。それに、もう宇宙連邦は機能していない、大統領はよせ」
自嘲気味な笑顔を向けて深緋色のコートを翻し、ツルギは艦を飛び出していった。
闇夜に包まれた空間、見渡す限り岩と砂ばかりの荒野、ジャークマターに支配された星の一つ。ドン・アルマゲの前に跪くのはテッチュウの姿。
「宇宙の半分はすでに我々の支配下に。モライマーズを順次送り込みプラネジュウムの回収に務めております」
『アントン博士に連絡し、プラネジュウム貯蔵に適した星を選定させよ』
「かしこまりました」
『それと、鳳ツルギはどうなった』
「現在チキュウに向かった様ですのでアキャンバーが……」
大きく頷き片手を振ると、ドン・アルマゲの前からテッチュウの姿がかき消えた。どうやら実体を持たないソリッドビジョンのみだったようだ。
研究所の建物自体は残っていたが、破壊の限りを尽くされその機能はまるで使い物にならなかった。研究所の前にわだかまる幾つかの塊。放置された研究員の死体は腐敗が始まり辺りには死臭が漂っていた。戦場では毎日の様に嗅いでいたため鼻を覆うでもなく平然と歩き、あるがらくたの前に立ち止まる。ただの鉄屑の塊にも見えるそれは、元は人の形をしていた物だった。
「ここにいたのか……」
片膝を着き、その塊に触れる。無数の打撃痕と回路がショートした際の火花で焼け焦げた表面。ざらつくそれを愛おしそうに撫で、目を細める。彼の胸の辺りのある箇所を押すと、小さな蓋が開き中にはヘラクレスキュータマが収まっていた。潰れる事もなく無傷のそれを手にした所で、背後に気配を感じゆっくりと立ち上がり、振り返ることなく話しかけた。
「お前がこれをやったのか……」
「そうよ、弱いくせに逆らうからお仕置きしてあげたの」
アキャンバーの両隣にいたツヨインダベーと、その他大勢のインダベーがツルギに向かって走り寄り斬りつけ、或いは銃を向けた。
「来い、鳳凰よ」
鳳凰の鳴き声が響き、ツルギの手にシールドとブレードが現れる。斬りかかるサーベルを盾で弾き救世主のスーツに身を包むと、振り返り様にブレードを抜き放ちインダベーを斬り捨てた。
「今、俺様は虫の居所が悪い。手加減はできんぞ」
ブレードの切っ先をアキャンバーに向けてそう言い放った。
その後、何度もフクショーグン達とは
相見える事となり、激戦を繰り広げていく。
そしてツルギは宇宙中を巡り、数年かけてドン・アルマゲとの決戦のため、八十八星座の能力を持つ仲間を集めていくのだった 。
Episode of 鳳ツルギ
epilogue そして伝説へ……
カラス座系、惑星ベローナ。ジャークマター政治犯収容所。
夜に一人、石の上に座り星空を眺めてため息をこぼすのは、カラス座星人の姿。全身を覆う黒羽、理知的で可愛らしさのある大きな瞳、尖った嘴、二足歩行には適していないずんぐりとした体型、全てがカラス座星人の特徴だった。彼はもう一度ため息をこぼしながら手元の紙を見つめた。ここに閉じ込められてから何ヵ月たっただろうか。囚われた皆で脱出するための作戦を立ててみたものの、失敗した時のことを考えるとなかなか実行に移せないでいる。そもそも彼がここに収監されたのも、このカラス座星系をジャークマターの手より解放しようとして暴動を起こした事で捕まった。作戦を立てても訓練された軍人でもない一般市民は理解もできないしその通りに動くこともできないので、作戦など無意味だった。実行できない作戦など机上の空論にしかなりえない。暴動の失敗によりすっかり自信を無くしてしまった彼は、こうして星を眺めてため息をこぼすより他に無かったのである。
「なんだ、こんなところで一人でいると危ないぞ?」
不意にかけられた言葉にビックリして、彼は手にしていた紙を落とし、文字通り飛び上がって振り返る。声をかけた人物はヒューマンタイプの男で、自分と同じ薄汚れた囚人服姿なのを見ると囚われた者なのであろう。しかし男の顔は今まで見たことがなかった。顔に盛大な泥汚れをつけているが、その表情は優しげで敵意は無いとわかるので警戒を解く。男が紙を拾い上げて中を見ると、一瞬こちらを見てから食い入るようにその内容を読み耽った。
「…………すごい、これは伝説級の脱出計画じゃないか!」
そのオーバーな物言いにこちらが気恥ずかしくなってしまう。
「そんなことないよ。実行できなきゃ作戦なんてただの妄想だ」
「この作戦、実行してみないのか?」
「そもそも僕らには戦う術がないんだから無理だよ」
男はそれまでと違って不敵に笑って見せた。
「なら、俺様が実行してやる」
「…………キミが?」
男は笑いながら聞いてきた。
「お前、名前は?」
「…………クエルボ」
「そうかクエルボ、俺様に任せろ。必ず全員脱出させてやる」
そうして差し出された手を、クエルボは恐る恐る取った。
英雄になりたかった訳じゃない。ただ自分は何かになりたくてもがいてみたものの、やっぱり何者にもなれなくて。諦めて。
そんな時目の前に現れた光はとても眩しくて、憧れて、自分も共に光になりたかった。なのに光の前では自分は弱くてとてもちっぽけで……、だから、一緒にいると光になれない自分を思い知っただけだった。
憧れた光が強すぎて、自分の影がとても暗く濃くなっていく。
ボクは、何者かになりたかった――――。
to be continue
宇宙戦隊キュウレンジャー
あとがき
長らくお付き合いありがとうございます!かなりはしょりましたが(笑)、これにて完結です。「始まりの終わり」です。
自分なりに考えていたツルギの過去の部分を形にできて、とりあえずは満足でございます。細かく書くと統一戦争だけで10章くらい使いそうだったので、途中でぶったぎりましたが。たぶん、ツルギの合理主義はあの辺りで形成されていってると思いますし、少しづつ出てきてると思いますし、書き足りないと言えば書き足りないんですけど、きりがないので(笑)。暇なときに気が向いたら書き足しとかしてるかも知れませんが(笑)
タイトルは、ほんと、これ使いたかったので許してください(笑)。DQ3の例の曲が脳内で流れてしまった方は僕と握手!でも過去の話は伝説にしたかったので、このタイトルはほんと、ぴったり来ると思うんです。
そして、それまでは最後にタイトルを持ってくる手法だったのに、タイトル後にクエルボの出会いをいれるのも最初に考えていた形なので、がんばってスクロールしてください(笑)。構成で演出したがるの悪い癖です。
よかったら感想などお待ちしております。感想以外の、この人何者?的な質問や、くだらないネタとかもお気軽に送ってください~(笑)。答えられる範囲のものでしたらお答えしますし、ネタにはツッコミで返しますよ?
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個人的妄想と捏造で構成されております。
公式関係各所とは全くの無関係です。
でも、もし、万が一、公式がこんな作品作ってくれたら狂喜乱舞します。Vシネでよろしく勇気。
「俺ガン」ならぬ「俺ツルギ」です。
この作品の前提。
・キュウレンジャーの時代から360年くらい過去
・ツルギはこの時点で250歳くらい(本人にも正確な歳は不明)
・宇宙連邦成立前、即ちドン・アルマゲ発生前
・ホウオウソルジャーとして覚醒前
振り下ろす剣の一撃で次々と敵を葬り、蹴散らして行く。あれほど手こずっていた相手を軽々と倒し、ツルギは言い知れぬ高揚感を覚えていた。
「これが伝説の救世主とやらの力か!素晴らしい!」
剣と言っても物理的に"斬る"のではなく、剣の先から発生するエネルギーの様なものが、あの防御スーツを超過してダメージを与えているようであった。またツルギの体を覆うスーツも、敵の攻撃を一切通させなかった。
包囲網は歪み、崩れ、それでもなお怯むことなく迫り来る。自分達の意思ではなく、全員が誰かの意のままに操られている様な違和感。
ショーグン、ドン・アルマゲ…………。
あの人物の意志の元に彼らは動き、戦っているようである。
ツルギは一騎当千の戦いぶりで敵を倒しているが、無尽蔵に現れる敵に終わりが見えない。大技で一気に片をつけたかった。剣を一旦盾に戻し、柄の部分にあるトリガーを引くと、剣に嵌まっているキュータマが高速で回転して、盾からエネルギーが剣にチャージされる。鳳凰の意思なのか、ツルギに囁く声があり彼に使い方を教えているかのようだった。
「フェニックス・エンド!!!」
抜き放ち様に横へと薙ぎ払いつつ自らも一回転する。甲高い鳳凰の鳴き声と共にツルギを中心とした斬撃の輪が炎となり広がって、周囲の敵を一掃した。残るは数えるほどの敵を倒して、空を見上げる。そこにはもうドン・アルマゲの姿はなく、いつもと変わらぬ空があるだけだった。
薄暗い地下空間、白い石造りの柱の多い部屋、壁や柱のあちらこちらに掲げられた蝋燭の灯り、その場所は旧時代に宗教的な意味を持った祭壇の様な場所であった。正面には禍々しい渦とそれを掴む爪をモチーフにした模様が描かれた旗が飾られ、その前にフードを目深に被った人物が立っている。
ショーグン、ドン・アルマゲ。彼の手が空中を撫でると、そこにソリッドビジョンが現れ、先程のツルギの戦いの様子が映し出される。
『鳳ツルギ、鳳凰の力に目覚めたか』
彼の前に跪く異様な姿の者達、ドン・アルマゲはソリッドビジョン越しに彼らを一瞥する。首がキリンのように長い者、半身からイソギンチャクの様な触手が生えた者、女性らしき尖った胸とスカートをはいた者、どれも人々の感情に嫌悪とおぞましさを覚えさせる姿だ。
『テッチュウ、ククルーガ、アキャンバー、見よ。アヤツの鳳凰の力と不死の肉体、我は欲しいぞ』
それぞれ名を呼ばれ、恭しく一礼する。
「お任せください」
「我々が鳳ツルギを」
「必ずや御前に」
三人はどこからともなく現れた闇の中へと消えていった。
ツルギの指に収まる赤い石の付いたクラスリング。リングの形をしているがそれは鳳凰の力を宿した物で、まるで以前からそこに存在したかのように馴染み違和感なく受け入れているが、おそらくそれがなければツルギが救世主に変身する事はできないのだろう。不思議な思いでそれを見つめた。もはや理屈や原理はわからないが、そう言う物だと受け入れるしかなかった。
避難していたヘラクレス座の住人たちは、破壊の限りを尽くされた街を見て落胆した。多くの住民が殺され、住む家も働く場所も無くなり、これからの生活に不安を覚えていた。だがそれでも生きていれば何とかなる、と、前向きに考える者もいたし、ツルギも出来る限りの支援を約束した。ヘラクレス座の首長が、危機を救ってくれた礼と、伝説の救世主の話を聞いてツルギに渡したい物があると面会を求めてきた。大きな体を小さくして、天井に頭をぶつけないよう少し屈んだ姿勢で首長はツルギの前に立つ。
「礼なら一日でも早く復興し、連邦政府に税金を納めてくれればそれでいいぞ」
ニヤリと笑って冗談混じりにそう嘯くが、首長は神妙な面持ちでツルギに小さな箱を手渡した。
「これは……?」
「キュータマです」
「なんてこった?!」
慌てて箱を開けてみると、確かにそこにはキュータマが丁寧に布に包まれてしまわれていた。
「我々の星に遥か遠い昔より伝わる物ですが、使い方も、一体どういった物なのかもわからず、ただただ歴代の首長に大切に受け継がれてきたのです。先程の戦いと大統領のお持ちのキュータマの存在を知り、これを持ち使用できるのはおそらく貴方なのだと思いました」
「…………なるほど」
「ドン・アルマゲを倒して、再び宇宙に平和を取り戻してください」
「わかった、約束しよう」
表情を引き締め、ツルギは真摯に答えた。
宇宙初の宇宙連邦大統領の次は、伝説の救世主。ツルギの持つ肩書きがまた一つ増えた。
大統領府に戻ったツルギは、副大統領に政務の全てを任せて、自身はジャークマターに対抗する方に専念することにした。
宇宙各地で勃発するジャークマターの侵略に対してはツルギ自身が出向き撃滅していった。だがツルギは宇宙に一人しか存在しないし、広大な宇宙を神出鬼没のジャークマターに後手で対応していては時間もかかる。そこで対抗する手段として敵より奪取した武器を研究し改造したものを生産して兵士達に持たせた。そのお陰か徐々に一般兵でもなんとかインダベーを撃退する事ができるようになっていた。
チキュウにある鳳ツルギ研究所にはキュータマの研究を急がせた。ヘラクレスキュータマの効果は未知数で、使用してもホウオウキュータマのように変身するわけでもなく特に何も起こらなかったのだが、ホウオウキュータマ同様「使うべき時」がくれば自然に使うことができるのだろうと予測し、今は新たな研究対象として預けてある。
それとは別に、各星系の特殊能力を持つ者達を探しだして集めていた。八十八星座系それぞれの特殊能力を持つ彼らはツルギが直接スカウトしついてきてくれた者達で、いずれはドン・アルマゲに挑む精鋭達となるだろう。その中にはもちろんオライオンの姿もあった。
「ツルギ」
「オライオン!」
二人は抱き合い肩を叩きあう。
「どうしたんだ急に」
「もちろんドン・アルマゲとの戦いのために来たんだ。なぜ真っ先に俺に声をかけない」
「すまん……」
ツルギは困ったように頭を掻く。もちろんオライオンには真っ先に声を掛けようとしたのだが、やめた。彼には家庭ができたのだから、その幸せを優先すべきだと考えたのだ。
「いいのか、平和に暮らすのがお前の望みだったんだろう?」
「宇宙その物が脅かされてるのに隠居なぞできたもんじゃないだろうが」
「…………そうだな。来てくれて助かる」
「おう」
ツルギの差し出した拳に自分の拳を合わせて頷く。オライオンの実力は疑う余地もなく、孤高の戦いを強いられているツルギにとって唯一背中を預けられる存在がオライオンだ。わずかではあるが旧知の親友の存在は、ツルギに安心と余裕をもたらしてくれた。
事態が一変したのは、オライオンが来てからすぐ、宇宙連邦政府、大統領府、宇宙軍本部、全ての集まる首都惑星にジャークマターが攻め入って来たのだ。その時ツルギは別の惑星への救援に向かっており、完全に不意討ちだった。それまでのインダベーだけではなく、ツヨインダベーも多数混じり、瞬く間に首都機能は壊滅した。
「鳳ツルギはいるかぁ?!」
ドン・アルマゲの前に跪いていた一人、ククルーガが、逃げ惑う住人を容赦なく斬り殺していく。もちろんツルギがいるであろうと予測して首都惑星に攻め入ってきたのだ。辺りには悲鳴と泣き声とインダベーの無機質な声が響き渡り、人々を絶望へと追いやる。悲しみは、怨嗟は、そのままドン・アルマゲの糧となり彼の力を増大させていた。だから彼らは住人を殺戮し尽くすことはなく、侵略した星々を支配しているのだ。
ジャークマターの目的は、人々の絶望の他にも惑星エネルギーのプラネジュウムも手に入れる事だった。これまで制圧された星々にモライマーズと呼ばれるプラネジュウムの採掘ホーム兼貯蔵施設になる宇宙船を次々と降下させ、実行支配をしながらプラネジュウムを集めている。もちろん集めるだけが目的ではないだろう。彼らの最終的な目的は不明だが、エネルギーが搾取されているのは確かだった。
惑星チキュウにもジャークマターが現れた。チキュウは他の惑星に比べてプラネジュウム貯蔵量が非常に多いとされていて、モライマーズを次々と降下させ搾取に取りかかる。そして鳳ツルギ研究所にもインダベーの大群が押し寄せた。指揮を取るのはアキャンバーだ。
「さあ、出てらっしゃい、鳳ツルギ!」
両サイドにツヨインダベーを従え、手にした杖の先端には鳥の頭を模したメガホンが付いており、声は施設中に響き渡った。研究者達は研究資料をデータ保存してクラウド上に送る操作をして逃げ出し、アンドロイド達も同様に自分達の脳内データを転送保存した。データさえあれば他の場所でも研究を続けられるし、自分達がいなくなってもツルギに情報さえ渡せれば後々他のアンドロイド達に引き継がれて研究は続けられるであろう事を知っているから。ただ一人、アルタイルだけは研究所の最深部へと向かっていた。厳重に、何重ものセキュリティを通り入ったのは真っ白な空間。さほど広くはないその中央の台座に鎮座するのはヘラクレスキュータマ。キュータマは膨大なエネルギー保存装置であり、大切な研究資料でもある。ジャークマターの手に渡れば今より更にプラネジュウムは搾取されていくであろう。何よりこれはヘラクレス座の首長に託された希望でもある。アルタイルはそれを自分の体の秘密の場所に格納し部屋を出る。しかし出た所にインダベー達が押し寄せて来た。ここに来た目的は彼らも同じであったのだろう。対インダベー用の銃をアルタイルは撃った。従来の鉛ではなく圧縮したエネルギー弾を撃ち出すそれは、インダベーのスーツに着弾すると小さな爆発を起こして敵を倒して行く。空いた隙間を縫うようにして廊下を走り研究所の外へと出た。
「まーだ生き残りがいたわね」
研究所の周りは完全に包囲され、逃げ出した筈の研究員達の幾人かの死体が転がっていた。アキャンバーがケラケラと笑いながら杖を振りかざす。ツヨインダベー二体が進み出て、アルタイルに向かってくる。銃を向けるが、ツヨインダベーは簡単にエネルギー弾を弾き飛ばしてしまう。振りかざしたバズーコンがアルタイルに激しくぶつかりその場に崩れ落ちる。繰り返し打撃が加えられ、壊れた体の中ではショートした回線から火花が散る。
何度も。
何度も…………。
動かなくなったアルタイルから興味が失せたのか、彼らはアキャンバーの元へと戻っていく。
事態を知り、大急ぎで首都惑星に戻るツルギの元に一本の通信が入る。文字のみの暗号通信で、差出人は不明だがチキュウの回線を利用しているようだった。
『巨人の魂は牛飼いと共に』
内容はそれだけだった。意味を考える間もなく通信兵の悲鳴の様な声が飛び込んできた。
「惑星チキュウにもジャークマターが現れたとの報告!」
「なに、研究所はどうなった?!」
オライオンの声にツルギは画面から顔を上げた。
「わかりません、その後応答が無いので状況は不明です」
鳳ツルギ研究所は、現存する場所ではツルギが最も長く過ごした場所であり、アンドロイド達は彼と最も長く過ごしてきた仲間である。家庭を持たないツルギにとって、研究所が家であり家族でもあった。
「どうするツルギ、チキュウに向かうか?」
「いや、このまま首都惑星に向かえ」
だがいくらツルギにとって大切でも、一研究施設と宇宙連邦政府の主要施設とではその重要性は比較しようもない。ツルギの冷徹な政治家の部分が、そう判断した。また一つ、ツルギの生きた証が消えていく。どんなに肩書きが増えても、どんなに伝説的偉業を成し遂げても、それを記憶する人々は死んでいくし、こうして建物も無くなっていく。生まれ育った家などはすでに無くなっていた。
そしてこのままだと成し遂げた偉業、宇宙連邦の存続すら危うくなっていた。
壊滅した首都惑星、政府としての役割はすでに機能しなくなっていた。大勢の人々が殺され、或いは捕虜として捕まり、或いは絶望の中震えながら隠れ、宇宙は再び混沌へと墜ちていった。
瓦礫と化した宇宙連邦政府の前でポケットに両手を突っ込み仁王立ちで、ツルギは眉間にシワを深く刻み睨むようにそれを眺めていた。
「酷いもんだな……」
手近な瓦礫を動かしてみると、その下からは見覚えのある旗が見えた。宇宙連邦政府の旗が、瓦礫の下に埋もれている。大統領府前の広場には多くの旗が翻っていたはずだ。
「オライオン、一刻も早く八十八星座系の特殊能力を持つ者達を探しに行くぞ」
「ああ、そうしよう。俺も心当たりのあるヤツを探してみよう」
「そうしてくれ。ドン・アルマゲ、アイツを倒さなくては宇宙は恐怖と悲しみに沈む」
あの日空に映ったフード姿の人物を思い浮かべ、決意を強くする。
即ち、ドン・アルマゲを倒さなくては平和を取り戻すことはできないのだと。
チキュウはジャークマターの支配下となり、鳳ツルギ研究所も壊滅したと報告があり一瞬だけツルギの表情が曇ったように見えたが、それもジャークマターの侵略に対しての物だと思われていた。無事に逃げられた一部の研究員やアンドロイド達は、様々なルートを使いジャークマターの目を掻い潜ってツルギの元に集まってきていた。彼らからその時の様子を聞き、アルタイルの姿が見えないのと彼の研究データが殆ど存在しない事に気が付いた。ツルギが最初に作ったプロトタイプの一人であり、長年の友でもあり、優秀な科学者でもあった彼のデータがないのはおかしかった。もし殺されてしまったのだとしても、彼の事だから真っ先にデータを保存してツルギに残してくれたはずなのに。それがないのは、彼がそうできなかった状況にあったためか。
ふと、あの通信文がツルギの脳を過る。
「牛飼い………彦星、………即ち、アルタイル!」
巨人の魂とは、おそらく研究所に預けてあったヘラクレスキュータマの事を指している。
「研究所にアルタイルの遺体なり残骸なり残っていなかったか?!」
「いえ、……我々が脱出する時は………」
「チキュウに行ってくる、お前達は安全な星に逃げろ」
「大統領、チキュウはすでにジャークマターの支配下に……」
「俺様一人なら大丈夫だ。それに、もう宇宙連邦は機能していない、大統領はよせ」
自嘲気味な笑顔を向けて深緋色のコートを翻し、ツルギは艦を飛び出していった。
闇夜に包まれた空間、見渡す限り岩と砂ばかりの荒野、ジャークマターに支配された星の一つ。ドン・アルマゲの前に跪くのはテッチュウの姿。
「宇宙の半分はすでに我々の支配下に。モライマーズを順次送り込みプラネジュウムの回収に務めております」
『アントン博士に連絡し、プラネジュウム貯蔵に適した星を選定させよ』
「かしこまりました」
『それと、鳳ツルギはどうなった』
「現在チキュウに向かった様ですのでアキャンバーが……」
大きく頷き片手を振ると、ドン・アルマゲの前からテッチュウの姿がかき消えた。どうやら実体を持たないソリッドビジョンのみだったようだ。
研究所の建物自体は残っていたが、破壊の限りを尽くされその機能はまるで使い物にならなかった。研究所の前にわだかまる幾つかの塊。放置された研究員の死体は腐敗が始まり辺りには死臭が漂っていた。戦場では毎日の様に嗅いでいたため鼻を覆うでもなく平然と歩き、あるがらくたの前に立ち止まる。ただの鉄屑の塊にも見えるそれは、元は人の形をしていた物だった。
「ここにいたのか……」
片膝を着き、その塊に触れる。無数の打撃痕と回路がショートした際の火花で焼け焦げた表面。ざらつくそれを愛おしそうに撫で、目を細める。彼の胸の辺りのある箇所を押すと、小さな蓋が開き中にはヘラクレスキュータマが収まっていた。潰れる事もなく無傷のそれを手にした所で、背後に気配を感じゆっくりと立ち上がり、振り返ることなく話しかけた。
「お前がこれをやったのか……」
「そうよ、弱いくせに逆らうからお仕置きしてあげたの」
アキャンバーの両隣にいたツヨインダベーと、その他大勢のインダベーがツルギに向かって走り寄り斬りつけ、或いは銃を向けた。
「来い、鳳凰よ」
鳳凰の鳴き声が響き、ツルギの手にシールドとブレードが現れる。斬りかかるサーベルを盾で弾き救世主のスーツに身を包むと、振り返り様にブレードを抜き放ちインダベーを斬り捨てた。
「今、俺様は虫の居所が悪い。手加減はできんぞ」
ブレードの切っ先をアキャンバーに向けてそう言い放った。
その後、何度もフクショーグン達とは
相見える事となり、激戦を繰り広げていく。
そしてツルギは宇宙中を巡り、数年かけてドン・アルマゲとの決戦のため、八十八星座の能力を持つ仲間を集めていくのだった 。
Episode of 鳳ツルギ
epilogue そして伝説へ……
カラス座系、惑星ベローナ。ジャークマター政治犯収容所。
夜に一人、石の上に座り星空を眺めてため息をこぼすのは、カラス座星人の姿。全身を覆う黒羽、理知的で可愛らしさのある大きな瞳、尖った嘴、二足歩行には適していないずんぐりとした体型、全てがカラス座星人の特徴だった。彼はもう一度ため息をこぼしながら手元の紙を見つめた。ここに閉じ込められてから何ヵ月たっただろうか。囚われた皆で脱出するための作戦を立ててみたものの、失敗した時のことを考えるとなかなか実行に移せないでいる。そもそも彼がここに収監されたのも、このカラス座星系をジャークマターの手より解放しようとして暴動を起こした事で捕まった。作戦を立てても訓練された軍人でもない一般市民は理解もできないしその通りに動くこともできないので、作戦など無意味だった。実行できない作戦など机上の空論にしかなりえない。暴動の失敗によりすっかり自信を無くしてしまった彼は、こうして星を眺めてため息をこぼすより他に無かったのである。
「なんだ、こんなところで一人でいると危ないぞ?」
不意にかけられた言葉にビックリして、彼は手にしていた紙を落とし、文字通り飛び上がって振り返る。声をかけた人物はヒューマンタイプの男で、自分と同じ薄汚れた囚人服姿なのを見ると囚われた者なのであろう。しかし男の顔は今まで見たことがなかった。顔に盛大な泥汚れをつけているが、その表情は優しげで敵意は無いとわかるので警戒を解く。男が紙を拾い上げて中を見ると、一瞬こちらを見てから食い入るようにその内容を読み耽った。
「…………すごい、これは伝説級の脱出計画じゃないか!」
そのオーバーな物言いにこちらが気恥ずかしくなってしまう。
「そんなことないよ。実行できなきゃ作戦なんてただの妄想だ」
「この作戦、実行してみないのか?」
「そもそも僕らには戦う術がないんだから無理だよ」
男はそれまでと違って不敵に笑って見せた。
「なら、俺様が実行してやる」
「…………キミが?」
男は笑いながら聞いてきた。
「お前、名前は?」
「…………クエルボ」
「そうかクエルボ、俺様に任せろ。必ず全員脱出させてやる」
そうして差し出された手を、クエルボは恐る恐る取った。
英雄になりたかった訳じゃない。ただ自分は何かになりたくてもがいてみたものの、やっぱり何者にもなれなくて。諦めて。
そんな時目の前に現れた光はとても眩しくて、憧れて、自分も共に光になりたかった。なのに光の前では自分は弱くてとてもちっぽけで……、だから、一緒にいると光になれない自分を思い知っただけだった。
憧れた光が強すぎて、自分の影がとても暗く濃くなっていく。
ボクは、何者かになりたかった――――。
to be continue
宇宙戦隊キュウレンジャー
あとがき
長らくお付き合いありがとうございます!かなりはしょりましたが(笑)、これにて完結です。「始まりの終わり」です。
自分なりに考えていたツルギの過去の部分を形にできて、とりあえずは満足でございます。細かく書くと統一戦争だけで10章くらい使いそうだったので、途中でぶったぎりましたが。たぶん、ツルギの合理主義はあの辺りで形成されていってると思いますし、少しづつ出てきてると思いますし、書き足りないと言えば書き足りないんですけど、きりがないので(笑)。暇なときに気が向いたら書き足しとかしてるかも知れませんが(笑)
タイトルは、ほんと、これ使いたかったので許してください(笑)。DQ3の例の曲が脳内で流れてしまった方は僕と握手!でも過去の話は伝説にしたかったので、このタイトルはほんと、ぴったり来ると思うんです。
そして、それまでは最後にタイトルを持ってくる手法だったのに、タイトル後にクエルボの出会いをいれるのも最初に考えていた形なので、がんばってスクロールしてください(笑)。構成で演出したがるの悪い癖です。
よかったら感想などお待ちしております。感想以外の、この人何者?的な質問や、くだらないネタとかもお気軽に送ってください~(笑)。答えられる範囲のものでしたらお答えしますし、ネタにはツッコミで返しますよ?
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