皇紀2679年(令和元年)6月15日(土):
タンカー攻撃 米・サウジ「イランが攻撃」 イランは全面否定
タンカー攻撃 米・サウジ「イランが攻撃」 イランは全面否定
2019年6月14日 20時15分
中東のホルムズ海峡付近を航行中の2隻のタンカーが攻撃を受けた事件で、アメリカや同盟国のサウジアラビアはイランによる攻撃だとして足並みをそろえて非難を強めています。一方、イランは関与を全面的に否定していて、現場海域では緊迫した情勢が続いています。
中東のホルムズ海峡付近のオマーン湾を航行中のタンカー、「フロント・アルタイル」と「コクカ・カレイジャス」が攻撃された事件を受けて、アメリカのポンペイオ国務長官は13日、根拠を示すことなくイランによる攻撃だと断定しました。
また、アメリカ軍は、イランの精鋭部隊「革命防衛隊」がタンカーの船体に取り付けられていた爆弾を取り外す様子をとらえたとする映像を公開しました。
アメリカと同盟関係にあり、イランと敵対するサウジアラビアもこれに足並みを合わせ、イランへの非難を強めています。
これに対して、イランのザリーフ外相は、14日、ツイッターに「事実や状況に基づく証拠は全くない」と投稿し、アメリカ側の主張を全面的に否定したうえで、アメリカなどが緊張緩和に向けた外交努力を妨害していると主張しています。
タンカーへの攻撃をめぐって、双方の主張が食い違う中、原油の主要な輸送路であるホルムズ海峡やその周辺では緊迫した情勢が続いています。
もう1隻の乗組員は無事帰国へ
攻撃を受けたノルウェーのタンカー「フロント・アルタイル」の広報担当者によりますと、23人の乗組員は全員無事でイラン海軍に救助され、イラン南部の港のジャスクから、帰国に向けて南部の都市バンダル・アッバースに移動しているということです。
また、タンカーは攻撃を受けて火災が起きましたが、現在は消し止められたということで、15日にも船体の損傷状況を確認するため専門家チームが現場の海域に到着する見込みだということです。
外務省談話
中東のホルムズ海峡付近で、日本の海運会社が運航するタンカーが攻撃されたことについて、外務省は、日本の平和と繁栄を脅かす重大な事案であり、断固非難するとした外務報道官談話を発表しました。
外務報道官談話では、「ホルムズ海峡の航行の安全を確保することは、日本のエネルギー安全保障上、死活的に重要であり、国際社会の平和と繁栄にとって極めて重要だ」と指摘しています。
そのうえで、今回の攻撃について、「日本の平和と繁栄を脅かす重大な事案として深刻に受け止めており、船舶を危険にさらすこのような行動を断固非難する」としています。
そして、引き続き、関係国と緊密に連携して、情報収集や航行の安全確保に努めていくとしています。
中国外務省「各国は自制を」
中東のホルムズ海峡付近を航行中の2隻のタンカーが攻撃を受け、アメリカがイランによる攻撃だと非難していることについて、中国外務省の耿爽報道官は14日の記者会見で「中国は情勢の緊張を憂慮している。関係各国には、冷静さを保ち自制すること、緊張をこれ以上エスカレートさせないことを望む」と述べました。
また、14日の習主席とイランのロウハニ大統領の会談で、タンカーへの攻撃をめぐって意見が交わされたかについては「関係各国と共に地域の平和と安定を守りたい」と述べるにとどまり、回答を避けました。
専門家「爆弾を遠隔で爆破させたか」
海上自衛隊の元海将で金沢工業大学虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授は、アメリカ軍が公開した損傷したタンカーの画像からどのような攻撃を受けた可能性があるか分析しました。
伊藤教授は、画像に「Damage」と記されている船体に空いた穴のようなものが、水面より上のほうにあることから、水面より下で爆発させる魚雷や機雷による攻撃ではないと見られるしています。
そして、「爆弾を船に吸着させて遠隔で爆発させるか、小銃や小火器で漁船などから撃つという2つの方法が考えられる」としています。
そのうえで、今回の損傷の状況から「明らかに何かが爆発した状態で、『リムペット・マイン』という磁石などで船体につけることができる爆弾を遠隔で爆破させた可能性がある」と分析しています。
また、「タンカーそのものを沈めてしまう武器ではなく、何かの障害を与えて、船の自由な運航を止めるというメッセージの発信に使っていると感じられる」と指摘しています。
一方、アメリカ軍が公開したイランの精鋭部隊「革命防衛隊」が爆弾を取り外す様子をとらえたとする映像について、伊藤教授は「武器の所有者以外が外そうとすると爆発する。それを外して取っているので仕掛けた当事者が外したと言えるのではないか」と指摘しています。
専門家「イラン関与現時点で判断できず」
イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授は「10人余りの人数が船に乗って行動しているのを見ると、一定の組織として機能している者たちがやったのは間違いない」と述べました。
そして「犯人が犯行現場に戻ってくるようなもので、軍事組織であればしっぽをつかませるものでまぬけでしかない。この映像からだけでは革命防衛隊かどうか判断ができない。ボートがどこからきて、どこに向かったのかなどより詳しい情報が必要だ」と述べ、現時点ではイランの関与があったかどうかわからないという見方を示しました。
そのうえで「イランがやっていようがやっていまいが、イランの孤立を深めることにつながり、イランが災いをもたらす諸悪の根源であるとして、核合意から離脱し制裁を復活させたアメリカのねらいどおりになっている」と指摘しました。
また、「きちんとした証拠や背景を立証する必要があり、すぐに結論に基づいて行動するのがいちばんよくない。国連やG7などの場で冷静になって調べるべきだ」と述べ、国際的な枠組みで検証する必要があるという認識を示しました。
リムペット・マインとは
防衛省によりますと、「リムペット・マイン」は船体に磁石などで吸着させる爆弾で、時限式や遠隔操作方式のものがあります。
一般的に、小型の爆弾であれば少ない人数で取り付けることができるとされ、テロ組織や特殊部隊による破壊工作に用いられることもあるということです。
海上自衛隊は模擬弾を使ってリムペット・マインを取り外す訓練を行っているほか、護衛艦などの艦艇が外国の港に停泊した際などに、船体にリムペット・マインが取り付けられていないかダイバーが確認しているということです。