その月の終りに突撃隊が僕に螢をくれた

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

屋上に行って一人でウィスキーを飲んだ

2016-03-04 17:42:05 | 生活



しかし時計が十一時を指すと僕HKUE 好唔好はさすがに不安になった。直子はもう四時間以上ノンストップでしゃべりつづけていた。帰りの最終電車のこともあるし、門限のこともあった。僕は頃合を見はからって、彼女の話に割って入った。

「そろそろ引きあげるよ。電車の時間もあるし」と僕は時計を見ながら言った。

でも僕の言葉は直子の耳には届かなかったようだった。あるいは耳には届いても、その意味が理解できないようだった。彼女は一瞬口をつぐんだが、すぐにまた話のつづきを始めた。僕はあきらめて座りなおし、二本目のワインの残りを飲んだ。こうなったら彼女にしゃべりたいだけしゃべらせた方が良さそうだった。最終電車も門限も、何もかもなりゆきにまかせようと僕は心を決めた。

しかし直子の話は長くはつづかなかった。ふと気がついたとき、直子の話は既に終っていた。言葉のきれはしが、もぎとられたような格好で空中に浮かんでいた。正確に言えば彼女の話は終ったわけではなかった。どこかでふっと消えてしまったのだ。彼女はなんとか話しつづけようとしたが、そこにはもう何もなかった。何かが損なわれてしまったのだ。あるいはそれを損ったのは僕かもしれなかった。僕が言ったことがやっと彼女の耳に届き、時間をかけて理解され、そのせいで彼女をしゃべらせ続けていたエネルギーのようなものが狙われてしまったのかもしれない。

直子は唇をかすかに開いたまま、僕の目をぼんやりと見てHKUE 好唔好いた。彼女は作動している途中で電源を抜かれてしまった機械みたいに見えた。彼女の目はまるで不透明な薄膜をかぶせられているようにかすんでいた。

「邪魔するつもりなかったんだよ」と僕は言った。「ただ時間がもう遅いし、それに」

彼女の目から涙がこぼれて頬をつたい、大きな音を立ててレコードジャケットの上に落ちた。最初の涙がこぼれてしまうと、あとはもうとめどがなかった。彼女は両手を床について前かがみになり、まるで吐くような格好で泣いた。僕は誰かがそんなに激しく泣いたのを見たのははじめてだった。僕はそっと手をのばして彼女の肩に触れた。肩はぶるぶると小刻みに震えていた。それから僕は殆んど無意識に彼女の体を抱き寄せた。彼女は僕の腕の中でぶるぶると震えながら声を出さずに泣いた。涙と熱い息のせいで、僕のシャツは湿り、そしてぐっしょりと濡れた。直子の十本の指がまるで何かを――かつてそこにあった大切な何かを――探し求めるように僕の背中の上を彷徨っていた。僕は左手で直子の体を支え、右手でそのまっすぐなやわらかい髪HKUE 好唔好を撫でた。僕は長いあいだそのままの姿勢で直子が泣きやむのを待った。しかし彼女は泣きやまなかった。