さて、目指すはヴァヴァン交差点。
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1920年代、狂乱の時代のモンパルナスを形作った4つのカフェは
ヴァヴァン交差点の近くにあってドームの目の前にはロトンドが、
クーポールの目の前にはパリのアメリカ人が好んだカフェ、セレクト。
どちらもテラスに座ると目の前のカフェが目にも写真にもはっきりと映ってしまう。
それは世界にただ1つ、モンパルナスという場所でしか味わえない景色。
さすがにモンパルナスには隣あったカフェが4つもあるので今回は
ドーム組とクーポール組に分かれることに。
ボーヴォワールやザッキンも好んだドームのテラスは今でも
とても味わい深く、私はクーポールも入りたい、、と後ろ髪を
ひかれながらも、つい正直な気持にしたがって大好きなドームに
足を向けてしまいました。そのドームに入った人たちの
幸せそうな顔といったら!!
しっかりとしたガラスで遮られたドームのテラスは、
バスや車で賑わっているモンパルナス大通りの騒音を
全てはねのけて、いつも静寂さが漂っている。
こんな空間に2-3ユーロ払うだけでいられるなんて
なんて素敵なんだろう とは 10年前の留学時代から
相変わらず変わらぬ感想。目の前を行き交う車、
まばゆい赤やオレンジ、夕暮れ時の青とも黒ともいえない
空の色、照明の反射がつくりだす幻想的な色の重なり合い。
キラキラ光るドームの中から街ゆく人を眺めていられる。
この気分に浸ってたければいつまでだっていたらいい。
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私はドームにはじめてパソコンを持ち込み、文章を
書いてみた時心の底から幸せだった。
きっとそれは、憧れていたボーヴォワールも
この店で書いていたから?かつてドームの常連だった
ボーヴォワールはこう書き残してる。
「彼らの囁き声は私の邪魔にならなかった。白い紙を前にした
孤独はきびしいものだ。わたしは目を上げ、人びとの存在を確かめる。
それは私に、いつか、誰かの心に触れるかもしれない言葉を
書き綴る勇気を与えた。」
(ボーヴォワール『女ざかり(上)』p.263)
今にして思えば、きっと彼女もドームで書いていたのは
処女作だったのだろう。誰の目にも触れないかもしれない、
でももしかしたら誰かの心を動かすことがあるかもしれない。
私もそんなことがあるかもしれないと思いながらカフェにいる
人びとを眺め、想いをはせてながら、白い画面に向かっていった。
ドームの独特の雰囲気にうっとりしたのは私だけではないらしく、
飲み物がでてきたあたりから「もっとゆっくりしてたいなあ」という
声があちこちから聞こえてくる。みんなの表情は
どんどんゆるくなってうっとりしてる。
しかし実際には時間がない、、、どうしよう、、、
あ、そうだ、みんなで急がなくってもいいんだ。じゃあ
あと何人かだけ来てもらって、他の人は残ってください。
どうぞゆっくりドームの雰囲気を味わってみてください。
あとは電話で何とかしましょう!ということにして
2人だけ一緒に来てもらい 私たちはソワレの準備。
他の人たちはその後ロトンドのテラスにも行ったそう。
さて、メトロに乗った数分間で、今夜のお鍋
(何故かワインにお鍋という組み合わせをすることになっていた)は
豚汁と鳥の水炊きで行きましょう!ということに決め、
急いで友人宅へ。彼の大きな家に到着すると、
家にあるのは先日一緒に買ったワイン5本と、彼が用意してくれた
カイザーのパンとチーズくらい。そりゃあ心配になるよなあ。
私たちは大急ぎで鍋の材料を買いに行き、お米を炊いて鍋の
準備をしてもらい、モンパルナスから来た人たちを迎え、
一段落ついたところで私はミッシェルとワインの買い出しへ。
彼は自宅で日仏交流の「お茶会」や3か国語を話す人たちが沢山集まる
インターナショナルなサロンを開いている人物で、場づくりについては
確かなノウハウと自信がある。私も場をつくったりカフェに興味があるだけに
話はとても合うのだけれど 今回はワインの本数について何度も言い合い。
「ミキはワインが一体何本必要だと思ってるんだ!最低一人ワイン半分、
24人なら12本ってのがルールなんだよ」と言い張るミッシェル。
私も負けじと「だから今回の日本人はあんまり飲めない人が多いんだって
予算もこれじゃ足りないしそんなにいらないよ!!」の繰り返し。
私たちがなんだか言い合っているので周りの人は喧嘩してるのかと
思ったらしい。そんなことはないのだけれど・・・
そんなミッシェルにさんざん言われて私は結局このために
ワインの買い出しに3回行った。でもフタをあけてみたら ほらね
ご飯は予想以上にあったし ワインもちょっと残ったよ
だって会話を初めていったら 誰かとの出会いが始まってったら
テイスティングどころじゃなくなっていく それがミッシェルの家だもん。
それがソワレの面白さ で 誰かと会話し 自分の世界を広げてく
そうしてるうちに ワインもご飯も 脇役になっていってしまうんだ。
それがフランス的なコミュニケーションの面白さだと私は思う。
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今回はいつもの在仏日本人むけの「お茶会」と違い、生粋の(?)
フランスに到着したばかりの日本人がメインだったから 本当に
価値観の違いも濃厚だっただろうし 日本語を勉強している
フランス人には日本語をしゃべるいい機会だったかと思ったのだけど
どういうわけかここに来たのは半分くらいは日本語を全く知らない
フランス人。それでもお互いちょっとは話ができたかな?
即興でダンスをしたり、フランス人たちが持参してくれたお菓子を
みんなで食べたり、とってもおいしいお鍋にみんなで舌鼓を打ってみたり
英語で一生懸命会話をしたり フランス側も日本側も みんな
素敵な人たちだったわと言ってくれ 大成功だったと言えるのでしょう。
本当にミッシェル そして協力してくれたみなさんありがとう!!
フランス人たちは一人2個お菓子を持参ということで、マカロン、エクレア
それに手作りのタルトやカヌレなど、色とりどりのお菓子を持って来て
くれました。こんなに沢山のお菓子を一気に試食できる機会は
後にも先にもなかなかないのでは?
このソワレは日本側にはかなり衝撃的だったらしく
やっぱりちゃんと自分の言葉でコミュニュケーションしたい!
それも英語じゃなくてフランス語で!というところから
フランス語会話教室を開催することになりました。
フランスでとても大切なことは人と人とのコミュニケーション。
留学時代に辛い想いをした私が口をすっぱくして「フランスでは
会話が大事だからフランスで楽しみたければまず会話を
練習したほうがいい!」と言うのは、パリはコミュニケーションが
本当に大切な街だから。大都会なのに誰かと出会う。大都会なのに
人間くさいあたたかみが街に存在している。
そんなフランス流の人生の楽しみ方を、私ももっと
経験したいしお伝えしていきたいです。
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追記 クルミドスタッフの川上さんがミッシェッルでの家での
体験や哲学カフェで感じたことなどについてクルミドのブログに
書いてくれました。よかったらご覧下さい。
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パリカフェツアー つづきはこちら
vol.4 シャンパーニュへの行き方