創作 「マッチングアプリ」林美沙希
友人からお勧めされたこのマッチングアプリ。綺麗な女性で溢れ、さらには気さくで話上手な人が多いらしい。友人はそのアプリで知り合った人と明日初めて会うことになっている。にやついた顔をして相手の写真を見せてくる。金持ちなだけで全くモテない奴に、こんな顔の良い女が寄ってくることもあるのか。モジモジして気持ち悪いが、それでも唯一の親友だ。明後日にまたファミレスで話す約束をし、ひっそりと応援していた。
そろそろ奴のデートも終わった頃だろう。状況を聞くため連絡を送った。だがどれだけ経っても返信が無い。疲れて既に寝てしまったのだろうか。この日は自分も眠気に耐えられず、気にも止めずに寝てしまった。
酷く後悔したのは翌朝になってからだ。静かなアパートに警察が一人訪ねてきた。
行方不明だった。ドクドクとうるさい心臓を必死に抑えつけ、経緯やあのマッチングアプリのことを全て話した。
思い返せばどこか怪しかったように思う。メッセージを送ったのも誘ったのも全て女からのはずだ。自撮り写真を何枚も奴に送りつけていた。何も出来ない自分が憎い。夢中になってその女のアカウントを特定し、気付けば六時間以上が経っていた。
すぐに返信が来て、そしてトントン拍子に通話の誘いをもらった。その女はあまりにも端正な顔で声優のような甘ったるい声をしていた。画面録画をしながらの会話を始める。見た目の話や年齢の話。声を聞く度に怒りが込み上げてくる。慎重に情報を聞き出すことが、その時の自分にはとても出来なかった。遂に切り出してしまった。
「俺の友達がどこにいるのかご存知ですよね?」
暫くの沈黙のあと、女の声が突如二重になる。
「これよくできてるでしょ。AIと変声機を使っているの。あなたが何をしても彼も僕も見つかることはないよ」
バキバキに割ったスマホから、狂った笑い声が鳴り響いて止まなかった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます