目黒博 Official Blog

日本の政治と社会、日本のリベラル、沖縄の「基地問題」、東アジアの外交・安全保障、教育などについて述べていきます。

香港問題:天安門追悼集会の禁止と日本人の情けない反応

2020-06-07 14:21:10 | 日本の政治・社会
31年前の6月4日、天安門事件が起きた。香港では毎年追悼集会が行われてきたが、今年は香港警察が集会を禁止した。それに対し、日本のリベラル系文化人、言論人は沈黙したままである。経済界の一部も素知らぬ顔で中国との経済関係を強めようとしている。

5月30日のブログで、私は日本のリベラル勢力が香港問題で声を上げないことに不満を述べた。沖縄の基地問題では、日米両政府を「沖縄県民の人権軽視」と非難してきた文化人や言論人たちが、こと香港問題になると沈黙してしまうからだ。日本のリベラルの視界には、中国や香港の人権問題は映らないのか?

経済界の動きも危うい。6月3日の日経新聞電子版は、モーター製造大手の日本電産が、電気自動車向けモーターの生産工場を中国に新設する、と報じた。競合するドイツ企業が次々と中国に投資し始めており、同社も中国での開発強化を決定したという。香港や中国国内の人権抑圧に対する、この企業の鈍感さには驚かされる。

このような新規投資は、経済面でも問題がある。新型コロナで明らかになったことの一つは、経済の行き過ぎた中国依存であった。例えば、マスクは中国製が多く、中国からの輸出が止まった途端に、日本や世界でのマスク不足が起きた。これは氷山の一角に過ぎない。医療器具、衛生用品、さらには重要な工業製品などを特定の国からの輸入に頼れば、日本の生命線をその国に委ねることを意味する。以前から懸念されてきたことだが、新型コロナでその構造的な問題が露わになったのだ。

日本電産に続いて、他の日本企業も続々と中国での事業展開を進めるかもしれない。中国の巨大な市場と安価で豊富な労働力に魅力を感じる企業は多い。ビジネスマンの間には、中国や香港の人権問題は内政問題だと割り切る傾向もある。だが、中国に新たに投資する企業は、同国中心のサプライ・チェーンの強化に手を貸し、ますます自信を深める中国共産党政府の高圧的な体制に与することになる。

安倍政権のトランプ政権への卑屈な追従ぶりは、世界各国から冷笑を浴びてきた。だが、一方で、日本企業の中国への投資もまた居丈高な権力者へのすり寄りであり、短期的な利益に目がくらんだ朝貢外交に見える。リベラル勢力の香港問題への沈黙と経済界の中国重視は、日本人の倫理観の底の浅さばかりでなく、長期的戦略の欠如をも露骨に示している。

日本のリベラルは香港問題で声を上げよ

2020-05-30 22:14:16 | 日本の政治・社会
中国の全国人民代表大会(日本の国会に相当)は、香港に国家安全法の導入を決定した。コロナで世界中が振り回されているうちに行う暴挙は、火事場泥棒そのものだ。

日本では自民党だけでなく、立憲民主党などの野党も批判している。だが、政府は懸念を示すだけで、厳しい批判は避けた。中国との経済関係を重視する経済界への配慮なのか?それとも、習近平主席の訪日に備えるためか?

問題は、日本のリベラル勢力からの正面切った批判が聞こえてこないことだ。吉永小百合氏や坂本龍一氏、落合恵子氏、山口二郎氏や高橋源一郎氏、津田大介氏や小熊英二氏たちはなぜ沈黙するのか?沖縄の基地問題では発言しても、どうした訳か、香港問題や中国の人権問題はスルーする。

今日本のリベラル勢力に問われていることは、自由や人権、民意を普遍的に捉え、声を上げる気があるのかどうかである。中国に遠慮するなら、その理由を挙げるべきだ。もし、それすら避けるのなら、都合の悪い事態には目をつぶる、内向き志向の自称「リベラル」にすぎないと言われよう。

リベラルは柔弱であってはならず、毅然とすべしと思う。そうでなければ、社会改革などできはしない。

視標「香港デモと沖縄」 ~地域情勢踏まえ軽減策を 微妙な中国との関係~

2019-10-29 16:42:34 | 沖縄の政治、「沖縄基地問題」
警察によるデモ隊への実弾発砲や一部デモ隊の暴徒化など、香港情勢は激しさを増している。

香港におけるデモは、沖縄でも大きく報道されている。「琉球新報」と「沖縄タイムス」はそれぞれ複数回、香港政府と中国政府を批判する社説を掲載したが、沖縄県民の間には中国との経済交流への期待も大きく、懸念と困惑が交錯する。

香港は沖縄から比較的、遠いうえに、県民の多くは日本本土よりも中国に親近感を抱いてきた。その背景には、沖縄と中国の歴史的なつながりがある。

琉球王国時代、沖縄は中国との貿易によって繁栄し、中国文化も幅広く定着した。一方、明治政府による琉球併合、米軍の侵攻と軍政、本土復帰後の米軍基地の存続などにより、日本本土と米国は沖縄にとっての「抑圧者」、これに対し中国は沖縄にとって「友好国」というイメージが醸成された。

2012年の尖閣諸島の国有化を端緒に起きた中国民衆の反日暴動や、尖閣を巡る中国の強硬な領有権の主張によって、反中国感情が高まった時期もあるが、その後、沖縄を訪問する中国人観光客が急増し、中国への親近感は次第に回復していった。

だが現下の香港情勢に加え、今年の国慶節(建国記念日)での威圧的な軍事パレードや、香港や台湾との「完全な統一の実現」を強調した習近平国家主席の演説も相まって、中国の抑圧的な実像が見えてきたとの意見も、沖縄在住有識者の間から漏れ聞こえ始めた。

武力と経済力を背景に中国政府が香港をねじ伏せれば、次のターゲットは台湾になるとの見方がある。

沖縄にとって台湾は、地理的に近いこともあり、戦前から両地域の経済関係は深く、人的交流も盛んだ。台湾が中国からの強烈な圧力にさらされ、その民主主義体制が脅かされるのではないかと危惧する声も沖縄で徐々に強まっている。

実は、この状況は沖縄にとって難しい問題をはらむ。中国脅威論が強まれば、抑止力としての米軍基地の重要性が説得力を持ち、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古移設計画に対する反対運動の勢いが鈍るかもしれないからだ。

一方で、中国との良好な関係を優先して、中国による香港の人権侵害や台湾への圧迫に目をつぶれば、「民意無視」と安倍政権を批判してきた沖縄県民の立場と矛盾する。

沖縄では、巨大な米軍の存在ゆえに、海外への関心は対米関係に集中しやすい。沖縄と微妙な関係にある現代中国に精通した専門家が県内にあまりいないこともあり、東アジア情勢の現状把握が不十分な点は否めない。

時々刻々と変化する東アジアの中心に位置する沖縄。その地政学的な優位性を十分に生かすには、地域の安全保障情勢に関する情報と知見を収集しながら、基地負担軽減を確実に実現できる具体策を打ち出していく必要がある。

そのためには、全国知事会や米軍基地を抱える都道府県の渉外知事会など、内外の当事者や専門家とのネットワークを構築、強化していくことも急務の課題と言えよう。

(2019年10月29日共同通信から「オピニオン欄」用に配信されました)

代替策で打開の道探れ 視標「米軍基地の辺野古移設問題」

2019-06-04 23:35:32 | 沖縄の政治、「沖縄基地問題」
代替策で打開の道探れ 視標「米軍基地の辺野古移設問題」

2月24日の沖縄「県民投票」で辺野古反対の「民意」が示されたが、安倍首相は辺野古移設を推進する姿勢を変えていない。本土政府と沖縄県との溝は深まるばかりである。
国がかたくなに辺野古にこだわり、沖縄の民意に反して工事を進める背景には、普天間基地の辺野古移設に関する協議が迷走した経緯がある。
1990年代末以降、名護市の幹部や地元建設業界関係者らが、辺野古施設の軍民共用化や米軍使用期限の設定、埋め立ての拡大などを次々と要求したために、政府と地元との交渉は膠着状態に陥った。
第2次安倍政権が成立すると、政府は当時の仲井眞知事から、巨額の沖縄振興予算と引き換えに辺野古埋め立て承認を引き出した。知事に対する県民の怒りが沸騰し、反辺野古を公約した翁長知事が誕生するが、政府は埋め立て承認の合法性を認めた最高裁判決を盾に、沖縄県や名護市と協議せず、辺野古移設工事へと突き進んだ。
沖縄の民意をはねつけ、辺野古移設を強引に進めたことで、県民の間に安倍政権の沖縄に対する「上から目線」のイメージが定着した。一方、当時の翁長知事は、辺野古移設の不当性を訴える戦略を採った。
政府に敢然と立ち向かう翁長氏の姿は、沖縄のみならず、本土の人々の間にも共感を呼び起こした。ただ、「辺野古案以外に実現可能な選択肢がなければ普天間基地は固定化される」という政府が築いた「壁」を崩すことはできなかった。
 だが辺野古の工事が進む中、強気な方針を貫いてきた安倍政権にも逆風が吹き始めている。沿岸北側の海底に軟弱地盤が見つかり設計変更が必要となったのだ。
この事態は、玉城知事にとって大きなチャンスになるかもしれない。代替案を検討するための時間的余裕が生まれるからだ。
代替案としては例えば、米軍輸送機オスプレイとヘリの暫定的な施設を既存の米軍基地内に建設し、普天間飛行場の海兵隊航空部隊を移駐させ、普天間返還を早期に実現する。同時に辺野古北側の工事は中止し、航空部隊の恒久的移駐先を政府と県が協議する、といった案が考えられる。
在沖縄海兵隊の航空部隊移設は、米軍再編、日米同盟の在り方、東アジア情勢などに直結する安全保障上の重要な問題だ。本来、辺野古に代わる移設案については、国が模索すべきであり、県の責務を超えている。しかし、国に新たな選択肢を考案する意思がなく、米国政府もそれを是認している以上、沖縄県がイニシアティブを取る他はない。
2015年までは県庁内に、東アジアの安全保障情勢を分析し、一線級の専門家たちと意見交換をする「地域安全政策課」が設けられていた。玉城知事は、早急に辺野古以外の案を提示するため、チームを再編成すべきだ。周到なリサーチを基に、日米の専門家の英知と協力を得る努力を重ねれば、打開の道は開けるのではないか。
米国の識者の間にも、沖縄で反基地感情が強まることを憂える意見が増えつつある。日本政府にとっても沖縄との対立が延々と続くことは好ましくない。県と共に知恵を出し合って、歩み寄る時期がきたのではないだろうか。
★この記事は、共同通信により2019年3月20日に配信され、『沖縄タイムス』『岩手日報』『神奈川新聞』『高知新聞』に掲載されたものである。